また、その使い勝手の良さからFigmaの強力なライバルになるのではないかと関心を向ける人も増えているほか、脱Adobeを検討しているデザイナー以外のクリエイターにとっても、有力な代替サービスの候補の一つになる可能性もあることから、クリエイター業界においても無視できない存在になりつつあります。そこで今回は、クリエイターだけでなくノンデザイナーのビジネスパーソンも含めて、Canvaの概要、導入するメリット・デメリット、基本的な使い方、活用法などを詳しく解説します。
目次
誰でも簡単に使えるデザインツール「Canva」とは
Canva(キャンバ)の概要
CanvaはオーストラリアのCanva Pty Ltdという企業が開発・運営するサービスです。同社はメラニー・パーキンス氏、クリフ・オブレヒト氏、キャメロン・アダムス氏らによって2013年に設立され、サービスの提供を開始しています。初年度で75万人のユーザー数を達成し、2014年に元Apple Computerのエバンジェリストとして知られている日系アメリカ人のガイ・カワサキ氏がチーフ・エバンジェリストとして迎えられたことでも大きな注目を集めました。その後、デザイン業務全般に役立つサービスの強化・拡張の一環として、画像素材提供サービスのPixabayやPexelsといったストック素材提供サービスも買収により傘下に収めています。
2023年12月の時点でのユーザー数は、1億7000万人以上を達成したと公式に発表されており、現在最も注目を集めるクリエイティブツールの一つです。また、AdobeのDTP系ツールの代替サービスとして最有力な候補として挙げられることが多いAffinityをCanvaが買収したという最新ニュースも入ってきており、Adobeのクリエイティブツール寡占状況に切り崩すだけの影響力を持ち始めています。
※参照記事:Reflecting on 2023: Canva’s 10th and biggest year yet(Canva公式ブログ)
※参照記事:Welcome to Canva, Affinity!(Canva公式ブログ)
※参照記事:Canva Strikes Biggest Acquisition Yet in Chase to Take on Adobe(Bloomberg)
Canvaの機能
Canvaは、複数のデザインツールがパッケージとなって提供されているサービスです。
Canvaの主な機能一覧
機能名説明Canva Postersポスターを作成できるCanva Resumesデザイン性の高いレジュメを作成できるCanva Logosロゴデザインを作成できるCanva Docsデザイン性の高い文書を作成できるCanva Whiteboardsホワイトボードを作成できるCanva Presentationsデザイン性の高いプレゼンテーション資料を作成できるCanva SocialSNS投稿を支援するCanva Videos動画の背景透過も可能な動画作成できるCanva Prints印刷物のデザインを作成できるCanva WebsitesWebサイトを作成・公開できるCanva Instagram postsInstagramの投稿を支援するCanva Brochuresパンフレットを作成できるCanva Photo Editor写真を編集できるこうして主な機能一覧を見ると、かなり広いデザイン・クリエイティブ領域をカバーしたツールであることがわかります。Figmaのライバル的な存在として台頭するノーコードのWebデザインツールという見方もできますが、プレゼンテーション用途ではPowerPointやGoogleスライドの競合ツールとなりますし、Webデザイン以外の全体的なサービスを含めると、Adobe Expressの対抗馬となる存在であるとも言えます。プロユース的な使い方も可能ですが、ノンデザイナーのビジネスパーソン向けの総合デザインツールとしての側面が強いと考えられます。
Canvaの料金プラン
Canvaの料金プランについても確認しておきましょう。Canvaには「無料プラン」、個人向けの有料プランである「Canva Pro」、チームで利用できる有料プランである「Canva for Teams」の3つのプランが提供されています。
プラン価格Canva 無料 0円/年(1名)Canva Pro 12,000円/年(1名)Canva for Teams30,000円/年(最初の5名の合計)個人向けの場合「Canva Pro」が月1,000円で利用可能になるので、複数のクリエイティブツールがパッケージされたサービスとしては比較的リーズナブルな価格帯であると言えます。「Canva for Teams」に関しても企業向けツールのサブスクリプションとしては導入しやすい料金でしょう。ただし、すでにAdobeやFigma、Microsoftなどの提供する他のクリエイティブツールを利用している場合は、それらのランニングコストにCanvaの料金が加算されることになるので、これを安いと考えるかは利用環境次第でしょう。
「Canva」のメリット・デメリット
▶メリット1.デザインの専門知識やスキルがなくても利用可能
Canvaは豊富に用意されたテンプレート、直感的にオブジェクトを作成できる機能などによりノンデザイナーでも簡単にデザインを作成できるように構成されています。また、ノーコードツールなので、HTMLやCSSに関する知識がなくてもWebデザインが行える点もメリットです。
2.コストを削減できる
機能に制限はあるものの無料プランでも、かなりの機能を利用することが可能です。また、有料プランについても他のクリエイティブツールと比較しても比較的導入しやすい価格帯で提供されています。
3.チームで利用可能
チーム向けの有料プラン「Canva for Teams」に加入すれば、チームやプロジェクト単位で利用することも可能です。低コストでクリエイティブツールを導入したい企業などに非常におすすめできるツールの一つです。
4.日本語にも対応
日本語に対応したサービスはCanva Japan株式会社という日本法人によって運営されており、英語が不得手でも安心して利用できるサービスです。日本語のテンプレートは日本人のデザイナーによって作成されている点も魅力の一つです。
5.「いらすとや」も利用可能に
先日、Canvaで2万点の「いらすとや」の素材が無料で使い放題なると発表されました。通常「いらすとや」は商用利用の場合、利用可能枚数に制限があります。これがCanvaを利用するれば、商用利用も使い放題が可能になります。
参照URL:Canva内の「いらすとや」クリエイタープロフィール
▶デメリット
1.無料プランは独自ドメインで利用できるHTML/CSSの出力は不可
「Canva websites」を使えばWebデザインも可能ですが、無料プランでは独自ドメインのWebサイトで利用できるHTMLやCSSを出力することはできません。そのため、すでに独自ドメインを取得してレンタルサーバーを利用しているケースでは、Canvaで作成したデザインを実装することができません。無料プランでは、「Canva websites」というCanvaが提供する独自のホスティングサービス(レンタルサーバー)内に、データをアップロードできます。有料プランに加入すればHTMLやCSSも出力できますが、その手間を考えるとCMSであるWordPressのブロックエディターを利用する方が、一つのツールでデザイン作成から実装まで担えるので便利です。
2.デザインの自由度・カスタマイズ性は低い
Canvaはクリエイティブツールとしての基本的な機能は十二分に備えていますが、Adobeなどのプロユースのツールと比較すると、デザインの自由度・カスタマイズ性は低いというデメリットがあります。
3.ある程度の基礎知識やセンスは必要
Canvaはプロユースのクリエイティブツールと比較すると自由度は低いのですが、一方でMicrosoftやGoogleなどのOffice系ツールと比較すると、かなり自由度が高いツールです。それゆえ、営業職や広報担当でもクオリティの高いプレゼン資料を作成できますが、それでも最低限の基礎知識は必要です。そのため、あまりにもデザインに関して知識や造詣を持ち合わせていない場合は、本職のデザイナーと同じように高品質なデザインが作成できるとは言い切れない側面もあります。
4.商用利用に制限のある素材やデザインデータもある
Canvaで作成したデザインデータは基本的に商用利用が可能です。ただし、ロゴデザインなど作成したデザインを商標登録することはできません。また、オーディオ素材についてはメディアで流すCM動画には使用できないといった制限もあるので、注意が必要です。
※参照URL:Canvaは商用利用可能!Canvaで許可されている商用利用と禁止事項について分かりやすく解説します
5.バックアップ作業まではフォローしていない
作業中のページを自動保存する機能は標準搭載されていますが、CMSではありませんので、例えば制作しているWebサイト全体をバックアップするといった機能は搭載されていません。
「Canva」の基本機能
Canvaに搭載されている機能は広範囲に及びますので、本記事ですべてを紹介するのは不可能です。そこでここでは、アカウントの作成から事前準備を説明し、Webデザイン用途を想定した基本機能を解説します。▶アカウントの作成・事前準備
1.Canvaの公式ページにアクセスしてアカウントを新規作成
2.「デザインを作成」や各カテゴリーのアイコンからデザイン制作画面へ
▶Canva Websitesに搭載された主な機能
Canvaには様々なツールが搭載されていますが、その全てを紹介できませんので、今回はCanva Websitesに搭載された主な機能を簡単に紹介します。
本記事では割愛しますが、上記に挙げた以外にも数多くの機能が搭載されています。
AIでデザインを生成する新機能「Magic Studio」とAI系アプリ
CanvaにはAIが自動でデザインを生成する「Magic Studio」という新機能が搭載されています。無料プランでも「Magic Studio」は利用できますが、すべての機能を利用するためには有料のプランに加入する必要があります。
Magic Studioの主な機能
機能名説明AI動画生成AIで動画を生成できる機能。無料プランで試用可能。Text to ImageAI画像生成機能。プロンプト入力で画像を作成できる。無料プランで試用可能。Magic EditAIで短いテキスト入力で画像を追加、差し替え、編集が可能。無料プランで試用可能。Magic WriteAIで適切な文章を作成できるようにサポートする機能。有料プランのみ。リサイズ&マジック変換AIでデザインのサイズと形式を簡単に変更できる機能。
※参照記事:【Figma CEOが来日】Dev ModeとAI活用で日本のデザイン、開発、DX領域にさらなる活性化を(PR TIMES)
アプリマーケットプレイスから入手できるAIツールの一例
ツール名説明Hello QArtAIを使った次世代QRコードを作成できるツール。PixelPerfectAIを使って画像をアップスケールするツールEnhancerAIを使って画像とサイズを調整するツールSpeedPaintAIを使った早送りイラスト動画を作成するツールこのように便利なAI機能ですが、一方で、現在の画像生成AI技術はクリエイターの権利や尊厳を侵害するとして問題になっています。Canva側もAIサービスに関する利用規約においてポリシーを示していますが、ユーザーの自己責任での利用ということになっており、Adobeが提供する生成AI機能であるFireflyのように「権利関係が明確な画像のみを利用したツールである」といった見解を示すまでには至っていません。ただし、AIデータのプライバシー設定により、ユーザーのコンテンツを使用してAIのトレーニング学習に利用することはないということも明確に述べられていますので、生成AIツールに反対の方であってもCanvaの利用自体(Magic StudioとサードパーティのAIツール以外)を避ける必要はないでしょう。
参照URL:Magic Studio(ページ下部の「AIのデータおよびプライバシー設定」)
もう一つ注意点として、利用規約には一部のAIサービスはサードパーティーのテクノロジーパートナーの技術を使用しているとも書かれている点です。これはLoRA(Stable Diffusionのモデル拡張機能)、LAION-5B、NAI、Midjourneyといった著作権侵害となる画像が含まれてる無断学習システムを利用した技術が含まれている可能性もあるということです。Canvaに限らず生成AIは、非常に便利で魅力的な機能に思えるかもしれませんが、現状はクリエイターの権利を侵害している可能性が高く、利用に関しては細心の注意が必要です。
本稿では画像生成AIの是非についてまでは言及しませんが、場合によっては企業のブランドイメージを傷つけてしまう可能性もあるので、これらの画像生成AI機能の利用ついては社内コンテンツなどに留めておくほうが賢明かと思われます。
「Canva」導入のおすすめ利用シーン
Canvaの導入をおすすめできる利用シーンを事業規模に分けて解説します。▶エンジニアやデザイナーを擁する大企業から中規模企業の場合
エンジニアやインハウスデザイナーなどを擁する大規模~中規模の企業が、一部のデザインワークスをノンデザイナーにも任せることで、デザイナーの負担軽減や作業効率アップを図るといった用途では、コストダウンできる可能性も高く導入するメリットが大きいと考えられます。
Canvaの欠点は、印刷データの入稿やWebサイトの実装やFTPアップロード作業といった面では専門知識が必要になるという点で、この最終工程を担える専門職を擁しているか否かによって、効果的に活用できるかどうかが左右されます。以下は、Canvaの導入イメージの事例です。
Canvaの大企業~中規模企業での導入イメージ事例
事例1テレビ局でドラマ番組のWebページにコストをかけプロのクリエイターを起用、深夜番組や情報番組のWebページはCanvaを使って番組スタッフがデザインする事例2大企業のバックオフィス担当者や人事部が社内報を作成するためにCanvaを使って冊子物の印刷物を作成する事例3大学や研究機関が学会やカンファレンスなど事前に申し込む意志があるユーザーに向けた案内・申込み用のWebページを作成する▶エンジニアやデザイナーを擁しない小規模な企業や個人事業主の場合
エンジニアやデザイナーを擁しない規模の企業や個人事業主にとっては、自由度が高すぎるツールであると感じるケースもあるかもしれません。例えば、Canvaの場合は自由にフォント、色などを変更できるので、ノンデザイナーが知識のないまま設定変更すると、かなり素人感の強いデザインができあがる可能性もあります。簡単なWebサイトを作成する場合は、WixやペライチといったCMSのサービスのほうがデザインもデータ管理も容易です。近年は飲食店などを中心に、自社サイトよりもSNS、グルメサイトなどの業界別ポータルサイト、Googleマップといったサービスを活用することが増えてきているので、Web制作という側面では、あえてCanvaを選択する必要はないかもしれません。
一方で、チラシやポスターなどの印刷物やプレゼンテーション資料をデザイナーに外注せずに作成したいというニーズはあるでしょう。MicrosoftやGoogleのOffice系ツールでも簡単な印刷物や資料を作成できますが、デザイン性や訴求力にこだわりたい場合はCanvaのほうが適しています。
▶クリエイターの場合
他のクリエイティブツールを仕事で使っているプロであればCanvaの使い方は簡単にマスターできると思いますが、最近はSNSのアカウントで「Canvaデザイナー」といった肩書で活動するデザイナーも見られるようになってきました。あえてCanvaを業務のメインに据えて活動するベテランクリエイターはまだ少ないと思われますが、一方で、ユーザー数は増加しておりCanvaに関する情報へのニーズも高まりつつありますので、これからクリエイターを目指す層にとっては可能性のある領域であるとも言えます。その是非はともかく、副業や在宅ワークの収入源としてデザイナーを目指すとったニーズもありますので、そうした層にとってはCanvaはコストをかけずに新規参入できる新領域かもしれません。
▶無料プランでできること
Canvaは無料で利用できるツールとして紹介されることが多いので、無料プランでできることも最後に確認しておきましょう。前述のように、無料プランではWebサイトの実装には制限があります。一方でPhotoshopやIllustratorの代替ツールだけでなくInDesignのような冊子物を制作できるツールも提供されているので、Figmaよりも印刷用途には強いツール(Adobe Expressと比較しても同等かそれ以上)です。データをPDFで出力することも可能です。ただし、PDF/X-1aやPDF/X-4といった印刷会社に入稿できる形式のPDFではありませんので、社内のコピー機や輪転機を用いて印刷するといった用途としての出力を想定しておいたほうが良いでしょう。
このように無料プランでの制限を明確に理解していないと、期待外れになる可能性が高いので注意が必要です。また、成約率を高めるためのランディングページや広告・販促物については、費用を惜しまずプロに依頼したほうが、結果的にコストを抑えられる可能性が高いので、適宜使い分けることが重要です。
※参照URL:写真をPDFに変換(Canva公式)
まとめ
近年、基本的なデザインスキルを身につけることは、ノンデザイナーのビジネスパーソンにとっても重要になりつつあります。政府の推進するリスキニング支援策の中にも、WebデザインなどIT系のクリエイティブ領域が含まれており、情報を視覚的に表現して伝えるデジタルスキルが、より重要な時代に突入しています。本記事で紹介したCanvaは、そうしたデザインワークを実践していく上で最適なツールの一つです。また、クリエイターはノンデザイナーのメンター的な役割を担うこともこれからより増えていくでしょう。加えて、CanvaがAffinityを傘下に収めたことで今後のクリエイティブツール領域を変革しうる存在として大きな期待を寄せるクリエイターも多くいるようです。そうした観点からも、Canvaを実際に使ってみることをおすすめします。
※参照記事:政府のリスキリング支援まとめ 経産省や厚労省などの制度を解説(NIKKEIリスキリング)











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