そこで今回は、アニメ『葬送のフリーレン』の世界観の礎である「コンセプトアート」を手がけた吉岡誠子さんに取材。自身のキャリアのスタートから、アニメにおけるコンセプトアートの役割、作品に込めた想いやこだわりを伺った。前後編合わせ約7,000文字にも及ぶロングインタビュー。『葬送のフリーレン』ファンはもちろん、アニメが好きな方、制作に携わる方にもお読みいただきたい制作の裏側を知ることができる貴重な内容となっています。
後編では、資料作成の話やおもしろかった・大変だったシーンのエピソードなどをお届けします。前編はこちらから。
contents
アニメ『葬送のフリーレン』のコンセプトアート(4)
“女神信仰”をキーワードに、膨大な資料を作成
吉岡 フリーレンの“今”の世界には、生活に女神信仰が溶け込んでいます。重要な要素のひとつだと思ったので、どんな女神信仰なのかを山田先生とアベ先生に話を聞いて掘り下げ、果物がお供えしてある女神様の紋章が彫られた道祖神のような石や、麦のオーナメントが飾られた家のドア、家の中の祭壇などを絵にした資料を作成しました。
神話の時代からフリーレンたちが生きる時代までの歴史の流れを文章でまとめ、道端に生えていそうな季節の草花の絵と写真のリストも作りました。リストの中の植物がシーンに盛り込まれていたときは、チームの人たちに思いが伝わっているなと実感できてうれしかったですね。
そして、土地の名前の意味から、それぞれの土地ごとの紋章を作成しました。北側諸国の要塞都市フォーリヒの紋章は、城壁と剣、白樺の枝をデザイン。実はフォーリヒ周辺の森や城のまわりに、たくさんの白樺が生えている設定にしています。
なぜ白樺かというと、白樺は「再生」「新たな始まり」「成長」のシンボル。「先の」「前の」という意味を持つフォーリヒ、そして亡くなったオルデン卿の長男の意志が、次男の弟に引き継がれ成長していくイメージに、ぴったりだと思ったんです。
──フォーリヒをはじめ、アニメの本編ではどの町や村でも紋章を見なかったような気がするのですが……。
吉岡 そうなんです! 紋章は原作にないですし、本編にも登場しないんです。道祖神のような石や草花も言葉で説明されることはないので、なくてもいい要素なのかもしれません。けれど、『葬送のフリーレン』のストーリーはとにかく壮大。こういった方向性を具体化することで、筋が一本通ったブレない世界観が生み出せると感じています。
アニメ『葬送のフリーレン』のコンセプトアート(5)
素材探しのポイントは、フィーリングを探ること
──『葬送のフリーレン』は架空の世界ですが、参考にされた時代設定、資料などあるのでしょうか? 吉岡 コンセプトアートに携わることになって、山田先生とアベ先生には、たくさんのことを教えていただきました。時代設定についても伺いました。15世紀半ばより前の中世ヨーロッパをイメージしているのだそうです。
吉岡 制作にあたっては、もし私がフリーレンたちと同じ場所に立ったとき、どんなフィーリングが生まれるかを重視して取り組みました。そのフィーリングに合いそうな場所があれば実際に訪れて、どんな感覚か体験してみる。そういった場所がない場合は、これまでに撮りためた写真を資料にしました。普段から訪れた場所やハイキングした森などの写真をすべてファイルしているので、その中から探して記憶をたどってみる。
アニメ『葬送のフリーレン』のコンセプトアート(6)
地図や文字はアナログで描き、町や村は3Dでデザイン
吉岡 美術監督の高木さんが紙に絵の具で描かれる、水彩画のようなにじみや揺らぎがある背景美術がすごく素敵で。フリーレンの世界観にとても合っていると思ったので、いろいろなシーンに出てくる地図は凸凹感のある紙にインクで描きました。手紙などの文字もアナログにこだわりました。
グラナト伯爵領は、城や天守閣にあたる主塔と、戦闘する場所などの規模や位置関係がストーリー上でも重要なので、原作をじっくり読み込んで作りました。高低差のある地形の交易都市ヴァルムでは、最後に町全体を見下ろせる高台のカフェが出てきます。カフェと太陽が沈む港の高低差をしっかり見せたかったので、3Dモデルはとても役立ちました。
3Dで作成したモデルは出力してPhotoshopで線画にし、細部を描きこんでいく方法で進めていったのです。
アニメ『葬送のフリーレン』のコンセプトアート(7)
魔法都市オイサースト、零落の王墓でのこだわり
吉岡 大変だったシーンはいっぱいありますが、特に印象に残っているのが、魔法都市オイサースト。まず原作を見たときに、湖の中に城塞都市があって2つの大きな塔が立っている。どうやってできた都市なのだろうと思って、これも山田先生とアベ先生に伺ってみました。
「昔は湖に浮かぶ小さな町だったけれど、大陸魔法協会北部支部ができたことにより、大きな都市に発展した」という成り立ちがあったのです。この成り立ちをどうにか表現したくて、試行錯誤を繰り返しました。
そうしてたどり着いたのが、古い町と新しい町をデザインで対比させること。ゆがみがある昔からの建物が並ぶ旧市街は曲線的に、魔法でインフラを整備した新市街地は直線的に。
──楽しかった、おもしろかったシーンも、ぜひ教えてください。
零落の王墓は統一王朝時代に建てられたので、物語の舞台よりもさらに昔。時代背景を新たに探り、空間にはその時代を表す壁画や象形文字をデザインしました。フリーレンたちが見つけた隠された壁画の象形文字を英字に直すと、ちゃんと文章になるという仕掛けもしのばせています。レリーフや石室は、以前カナダのロイヤルオンタリオミュージアムに行ったときの写真をイメージの参考にしました。
そして、フェルンがダンジョンを攻略するために使っていた地図。実は絵コンテに描かれていたものをつなぎ合わせて、1枚の巨大な地図を描きました。本編では、撮影監督の伏原あかねさんがシーンごとに必要なところをトリミングして使用しています。
──それでは最後に、『葬送のフリーレン』をどんな風に楽しんでほしいですか?
吉岡 たくさんのさまざまな風景が出てきて、とても穏やかな空気感のある作品だと思います。
吉岡誠子さんのXには、アニメ『葬送のフリーレン』の貴重な資料・アートワークの数々が投稿されているので、ぜひチェックしてみてください!
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