イギリス人建築家ジョサイア・コンドルが設計した、東京・丸の内の最初のオフィスビル・三菱一号館を復元し、2010年に開館した「三菱一号館美術館」。設備メンテナンスのため、約1年半休館しましたが、2024年11月23日に再開館しました。
今回のリニューアルでは、これまで色彩のあった展示室の壁面を、幅広い年代やジャンルの作品に対応できるよう乳白色に統一。照明はすべてLEDとなり、空調は総取り換えになりました。また1Fに小展示室が新設されるなど、よりよい環境でアートが楽しめるようになっています。

そこで今回は、作品の見どころはもちろん、鑑賞後の買い物やグルメも楽しめる、「再開館記念『不在』ートゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル」を紹介します。

目次

再開館記念展の主役はロートレックとソフィ・カル!

リニューアルオープンを飾るのは、「再開館記念『不在』―トゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル」。19世紀末のパリを彩ったロートレックと、現代のフランスを代表する美術家ソフィ・カルの展覧会です。

 三菱一号館美術館では、時代の変化に応じた活動を行うための現代アーティストとの協働プロジェクトとして、2020年の開館10周年記念展「1894 Visions ルドン、ロートレック」にソフィ・カルを招聘しましたが、コロナウイルスの流行で見送りに。本展はその企画を4年越しで実現しました。

テーマの「不在」は、カルの提案によるもの。ロートレックが残した「人間だけが存在する。風景は添え物に過ぎないし、それ以上のものではない。」という言葉にも着目し、表裏の関係にある「不在」と「存在」をゆるやかにつなげる構成で、3Fではロートレック、2Fではカルの作品(一部3F)を展示しています。

「単色」の作品でロートレックの魅力をさらに深掘り

三菱一号館美術館「再開館記念『不在』ートゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル」の楽しみ方
ジュール・ルナール著《博物誌》挿絵 展示風景ロートレックは、19世紀末のパリを代表する画家として知られますが、美術史から「不在」の時期がありました。それはポスター作家としての評価が先行していたため。版画や油彩画も数多く残したものの、没後しばらくは、フランスの国公立美術館へ作品が収蔵されることはありませんでした。


 そうしたロートレックの評価を再び高め、「存在」へのきっかけを作った1人が、彼の友人で画商のモーリス・ジョワイヤンでした。ロートレックが手元に残していた作品を受け継ぎ、ロートレックの故郷アルビの「ロートレック美術館」の開館などに尽力。

 本展では、そんなジョワイヤン由来のコレクションを含む三菱一号館美術館所蔵の作品に、フランス国立図書館より来日した11点を加えた136点を全6章に分けて展示しています。

三菱一号館美術館「再開館記念『不在』ートゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル」の楽しみ方
『カフェ・コンセール』挿絵 展示風景
三菱一号館美術館「再開館記念『不在』ートゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル」の楽しみ方
三菱一号館美術館「再開館記念『不在』ートゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル」の楽しみ方
 特に印象的なのが、《博物誌》《イヴェット・ギルベール》《カフェ・コンセール》の挿絵として制作した「単色」の作品群。ロートレックといえば、多色刷りのイメージですが、単色で表現される被写体の生き生きとした姿や、線描の美しさに興味津々。ロートレックの豊かな画力に改めて気付かされます。

 試し刷りや、多色刷りの工程が見て取れる作品にも注目。版画作品が完成するまでの一つひとつの工程も大切にしていたロートレックの思いが伝わってくるように感じます。

 民衆歌手でキャバレーの主人アリスティド・ブリュアン、踊り子のジャヌ・アヴリルをモデルにした作品など代表作も公開。多彩な作品群から「存在」と「不在」を感じ取りながら鑑賞してみるのも良いでしょう。

三菱一号館美術館「再開館記念『不在』ートゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル」の楽しみ方
『イヴェット・ギルベール』表紙 展示風景

ソフィ・カルの新作を本展で世界初公開

三菱一号館美術館「再開館記念『不在』ートゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル」の楽しみ方
《54号室の女船客》展示風景ロートレックが船旅で一目惚れした女性を描いた作品《54号室の女船客》で締めくくられるロートレックの展示。隣の展示室へ向かうと、ソフィ・カルの映像作品《海を見る》が見えてきます。地中海沿岸の街、トルコのイスタンブールで暮らしながら、一度も海を見たことがない内陸部に住む貧困層の人々が初めて海を見る瞬間をとらえた作品です。


2Fでは、額装された写真の上にテキストを刺繍した布が吊るされ、その布をめくると写真が現れる《なぜなら》、カル自身と家族の死にまつわる《自伝》など、テキストと写真を融合したカルの代表的なシリーズを中心に展示されています。

さらに三菱一号館美術館のコレクション、オディロン・ルドン《グラン・ブーケ(大きな花束)》に着想を得て制作した新作「ソフィ・カルの《グラン・ブーケ》」を初公開。長年にわたって「喪失」や「不在」について考えを巡らせているカルの世界観に、感性が研ぎ澄まされていくようです。

新たに誕生した小展示室では年3回の企画展を開催

三菱一号館美術館「再開館記念『不在』ートゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル」の楽しみ方
展示室引き美術館の所蔵作品や寄託作品を紹介する場として1Fに新設された小展示室も注目です。学芸員の興味や関心に基づく企画展示を年3回行い、2025年1月26日までは「坂本繁二郎とフランス」を開催。明治から昭和にかけて活躍した洋画家・坂本繁二郎とフランスの関係に着目し、コロー、セザンヌらの作品も公開しています。

三菱一号館美術館「再開館記念『不在』ートゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル」の楽しみ方
三菱一号館美術館「再開館記念『不在』ートゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル」の楽しみ方
同じく1Fには新たな試みとして「エスパス1894」も登場。今後はワークショップや小規模なレクチャー、小展示などを行っていくそうなので乞うご期待です。

「Café 1894」で展覧会タイアップメニューに舌鼓!

三菱一号館美術館「再開館記念『不在』ートゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル」の楽しみ方
ミュージアムカフェ・バー「Café 1894」では、会期中限定で展覧会タイアップメニューをご用意。写真は、ランチタイム(11:00~15:00・LO 14:00)の「ロートレック」2800円(税込)。フランス南部のラングドック地方の郷土料理・ブランダードをアレンジした前菜、ジビエ好きのロートレックをオマージュした鴨肉のロースト+オレンジソースのメインディッシュが味わえます。

カフェタイム(14:00~17:00)はクレープ仕立て、ディナータイム(17:00~)はパフェスタイルで提供される、ルドンの《グラン・ブーケ(大きな花束)》をイメージしたデザートなども揃うので、鑑賞の余韻に浸りつつ優雅なひとときを過ごすのも良いでしょう。
※営業時間などの詳細はCafé 1894の公式サイトをご確認ください

「Store 1894」展覧会限定グッズを手に入れて

三菱一号館美術館「再開館記念『不在』ートゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル」の楽しみ方
三菱一号館美術館「再開館記念『不在』ートゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル」の楽しみ方
三菱一号館美術館「再開館記念『不在』ートゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル」の楽しみ方
三菱一号館美術館「再開館記念『不在』ートゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル」の楽しみ方
最後は「Store 1894」でのお買い物も満喫。 ロートレックの代表作《シンプソンのチェーン》をデザインしたビニールポーチ1705円(税込)、ロートレックの似顔絵イラストがかわいいTシャツ3000円(税込)といった普段使いしたくなるグッズのほか、作品をあしらったパッケージが目を引くお茶やマロングラッセなど味わって楽しい展覧会グッズもラインナップ。


フランス人のBRIGITTEと日本人のTANAKAによるデュオグループ・BRIGITTE TANAKAと、ソフィ・カルがコラボしたトートバッグやポーチも用意され、多彩な品ぞろえに心は躍るばかりです。

DATA
※会期、開館時間、チケット情報などの詳細や最新の開催状況は公式サイトにてご確認をお願いします

展覧会名再開館記念「不在」―トゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル会期~2025年1月26日(日)
※年末年始の開館時間は美術館サイト、SNSなどで確認休館日月曜日、 12/31、1/1※トークフリーデー(12/30)と1/13・20は開館開館時間10:00~18:00
祝日を除く金曜日と会期最終週平日、第2水曜日は20時まで(入館は閉館の30分前まで)入館料一般2,300円、大学生1,300円、高校1,000円、小・中学生無料施設名三菱一号館美術館(https://mimt.jp/)住所東京都千代田区丸の内2-6-2アクセスJR「東京駅」丸の内南口より徒歩5分
東京メトロ千代田線「二重橋前駅」1番出口より徒歩3分ほか問い合わせ050-5541-8600(ハローダイヤル)公式サイトhttps://mimt.jp/ex/ls2024/
三菱一号館美術館「再開館記念『不在』ートゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル」の楽しみ方
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