株式会社モリサワが「フォントにまつわる意識調査」を実施し、その結果を公開しました。フォントに日常的に触れる機会が多いと考えられる20~50代の社会人の男女500名を対象としたアンケートです。
調査結果からは、フォントの使い分けなどに対する生活者の意識が明らかになりました。この記事では、特徴的なポイントを紹介していきます。

【目次】

4割以上の人たちが持つ「フォント」へのこだわり

アンケートでは、まず最初にフォントへのこだわりはあるかどうかが探られました。「フォントにこだわりや、気に入っているフォントがある」と答えた人は全体の16.0%、「どちらかといえばある」と答えた人は26.6%です。合わせて42.6%にものぼり、必ずしもデザイナーのような専門家でなくても、半数にかなり近い割合の人たちがフォントに何らかのこだわりを持っていることが明らかになっています。

謝罪文書やビジネスシーンにNGな書体とは? ためになるモリサワの「フォントにまつわる意識調査」
続いては、普段使うメール/SNS/仕事用ソフトなどのツールで、デフォルトのフォントから自分好みのフォントに変更しているかという質問です。「基本変えている」が18.0%、「ものによるが変えている」が29.2%で、合計すると何らかのかたちでフォントをカスタマイズしている人は47.2%となります。これはフォントにこだわりを持っている人の割合と近く、単なる意識だけでなく実際の行動にもつながっている傾向が見えてきました。

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その理由を複数回答可で聞いたところ、「自分好みのフォントの方が見やすいから」という回答が66.5%で最も多く、33.9%の「好みのフォントがあるから」や、26.3%の「変えたフォントの方が適していると思うから」などが続きます。好みも大きく影響していますが、同時にフォントへのこだわりは感性だけでなく「見やすさ」という実用性とも結びついていることが分かる結果と言えるでしょう。各自のフォント選びに対する意識の高さがうかがえます。

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ちなみに、調査対象者を男女別に見ると、わずかな差ではありますが男性のほうがフォントのカスタマイズに積極的な傾向です。

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場面に応じたフォントの使い分けへの意識の違い

今回のアンケートでは、利用するシーンによってフォントを意識的に使い分けているかどうかも調査されました。その結果、「使い分けている」と「どちらかといえば使い分けている」の合計は全体の45%にのぼり、多くの人が場面に応じたフォント選びを行っているようです。


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さらに「フォントを使い分けることがある」と答えた人に、具体的な場面を尋ねたところ、ビジネス文書やプレゼン資料といった “仕事関連” のシチュエーションが多く挙がりました。そのようなビジネスシーンでは、資料を出す相手や関係性によってもフォントを使い分けている例が特に目立ちます。

フォントを使い分けるシーンの代表例・自分との距離感や役職の上下関係にて、フォントを敬語のように使い分けている(東京都・40歳男性)・読み手の年代によって分けている。老眼だと丸ゴシックや明朝が見やすい印象。若年だと特に気にする必要がない(東京都・48歳女性)・外部用や堅めの資料は明朝体、内部用や柔らかめの資料はゴシック体(静岡県・52歳男性)・社員旅行など楽しめな企画のときはポップな字体を選択している(神奈川県・33歳男性)・社外向け文書等はきちんとビジネスの雰囲気のあるものを使用するが、社内向け文書など、カジュアルなものはポップなフォントを使用することもある(兵庫県・39歳女性)・個人的に使うテキストメモは、テンションの上がるかわいいフォントを使うようにしている(千葉県・32歳女性)・資料などは見やすくゴシック体、チラシなどは楽しい雰囲気のポップ体を、体外的なお知らせなどは明朝体(大阪府・48歳女性)・高級感を出したいチラシ作成では教科書体、メールでは誰にでも好かれるベーシックな字体など使い分けている(東京都・50歳女性)・謝罪文の作成の際は明朝体を、イベント資料の作成時はポップで大きなフォントを使用している(和歌山県・27歳女性)・デザインの仕事をしているので、内容に合ったものに適宜変えている。読みやすさ重視ならUDフォント、見出しはゴシック、本文は明朝で抑揚をつけるなど(大阪府・29歳女性)調査を年代別に見ると、20~30代で比較的にフォントを使い分けている人が多い傾向でした。「使い分けている」と「どちらかといえば使い分けている」の合計の数値は30代が最多です。

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シチュエーションごとに具体的に選ばれるフォントの傾向

前段で、フォントをシーン別に使い分ける人の割合が全体の45%にのぼることを紹介しましたが、ここからはより具体的に、どのようにフォントが使い分けられているを見ていきます。アンケートでは、明朝体/ゴシック体/丸ゴシック体/UD書体/筆書体/デザイン書体/装飾書体/手書き書体が提示され、さまざまなシチュエーションでどのフォントが適切だと感じるかが質問されました(複数回答可)。

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「明朝体」に最も多く票が集まったのは、「謝罪文書」「ビジネスメール」「プレゼン資料・企画書・報告書」「社内報」「財務資料」などでした。ビジネスシーンで、特に提出用の文書などでは、読みやすさやかしこまった印象を重視して明朝体を選ぶ人が多いようです。ただし、一部を除けばゴシック体にも多くの票が集まっています。

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ビジネスシーン以外でも「明朝体」が選ばれる傾向は高めですが、ビジネス文書の場合と比べると差がハッキリと現れてきます。
SNSや動画コンテンツ・TVのテロップなど、ビジネス以外のシチュエーションでは、「明朝体」以外のフォントの伸び具合が顕著です。たとえば「看板・チラシ・推し活のうちわなど祭事・催し事関連」という項目では、比較的にポップなフォントを適切だと感じる人が多く、「デザイン書体」が33.0%、「装飾書体」が29.0%で、「手書き書体」が29.0%でした。

とはいえ、どのシチュエーションにおいても「明朝体」や「ゴシック体」には一定の高い割合の票が集まっています。この2つのフォントは、幅広い用途で違和感なく使える印象を持たれているようです。

約3人に1人が「フォントに違和感」を覚えた経験がある

次に「フォントに対して違和感を覚えたことがあるか」という内容を見ていきます。約3人に1人(164人)は多少なりとも違和感を覚えた経験があったそうです。そのシーンとして最も多かったのは36.0%の「ビジネスメール」で、2位は32.3%の「謝罪文書」、3位は24.4%の「プレゼン資料・企画書・報告書」でした。

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さらに今回のアンケートでは、フォントと文章に違和感を覚えた具体的なエピソードも集められています。その回答を紐解くと、フォントと文書内容のミスマッチが主な原因となっているようです。たとえばフォントのポップな雰囲気に影響を受けて「ビジネスメールなのに誠実さが伝わらない」などの例が挙げられます。「フォントと文書に違和感を覚えたエピソード」の代表的な回答は以下の通りです。

フォントと文章に違和感を覚えたエピソード1位:
ビジネスメール ビジネスらしくなく、かわいらしさがあって違和感を覚えた(東京都・36歳男性)ビジネスのメールにも関わらず遊びに使用するようなフォントで誠実さが伝わらない(神奈川県・44歳女性)2位:
謝罪文書 謝罪文なのにフォントが丸っぽく、ややふざけたような感じを受ける(奈良県・48歳女性)謝罪文でポップな文字が使われており誠意が伝わらなかった(青森県・38歳男性)変わったフォントが使われていると、内容より見た目にこだわった印象を与えると思う(愛知県・54歳女性)3位:
プレゼン資料
企画書
報告書 雰囲気があわないと説得力にかける(愛知県・44歳女性)ハネなどが強調されていて、内容よりもフォントが気になってしまった(千葉県・32歳女性)フォントは単なる文字のデザインではなく、読み手の体験に直接影響する重要な要素であることが分かります。主にビジネスシーンでは、クセの強いデザインフォントをなるべく避けるべきかもしれません。


前段で紹介した「明朝体」や「ゴシック体」はさまざまなシーンに使えるオーソドックスさが特徴です。かしこまった内容の媒体ではそのようなフォントで「クセ(個性)を出しすぎない」ことが1つのテクニックとも考えられるでしょう。特に「謝罪文書」のような、間違ったイメージを読者に持たれることが致命的になるシーンでは注意が必要です。

 

男女別・年代別の結果が必見の人気フォントランキング

ここからはやや角度を変えて、どのフォントが人気かという部分に焦点を当てた質問を見ていきます。今回のアンケートでは「一番好きなフォントの分類」についての質問が含まれ、男女別や年代別でのデータも示されています。まず全体での「好きなフォントランキング」の1位は「明朝体」(35.2%)でした。デザイン書体や装飾書体の順位がかなり低いのが意外な結果です。

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男女別では、上位3位までは全体のランキングと同じでしたが、4位に男性で「筆書体」(11.2%)、女性で「丸ゴシック体」(12.8%)が選ばれています。「丸ゴシック体」と回答した女性は、なんと男性の2倍以上です。

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また、年代別で見ると1位は共通して「明朝体」でしたが、2位は20代と30代で「ゴシック体」(20代=25.6%/30代=24.8%)、40代で「手書き書体」(16.0%)、50代で「UD書体」(17.6%)と好みが分かれました。特にゴシック体が若い層に好まれやすい傾向と、UD書体が年配に好まれやすい傾向は目立つ結果です。

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一般的にデザインの分野では、「女性向けの媒体では柔らかい丸ゴシック体」「若者向けの媒体ではゴシック体」など、ある一定のセオリーが存在しています。今回の「好きなフォントランキング」の調査結果は、それらのセオリーがデータに裏付けられたものであることを示す内容です。
日々フォント選びに悩むデザイナーにとっては、かなり有益な調査と言えるのではないでしょうか。

正答率わずかに3.6%の「フォント名のPの意味」

最後に「フォントに関する知識調査」を紹介します。この調査では、単に使い分けや好みだけでなく、フォントに対する関心が知識としても意識されているのかを探る内容が用意されました。まず、「MSゴシック/MS Pゴシック」などでのフォント名の「P」の意味についての認知度を探る調査では、はっきりと「知っている」と答えた人はわずかに3.6%です。

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ちなみにこの「P」の有無は等幅フォントとプロポーショナルフォントの違いを示し、「P」は「プロポーショナル(proportional)」の「P」です。「P」が名前に加えられているプロポーショナルフォントでは英数やかなの幅が文字の形によって異なり、付いていない等幅フォントでは、全角・半角という一定の幅で文字が表示されます。

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そのほか、いわゆる “利きフォント” のようなかたちで、フォント名を当ててもらう調査も実施されました。対象となった書体は、モリサワのオリジナルスタンプ作成サイト「フォント de スタンプ」で使えるフォントの一部です。回答は選択式でなく記述形式で、フォントの正式名称を正確に答えた人のみが正解者とされました。正答率は全体的に低く、最も正解者が多かった「勘亭流」でも正答率は3.6%にとどまっています。

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これらの調査から、使い分けや好みの違いといった観点ではフォントに対する意識がかなり高まっているものの、専門的な知識という意味ではまだまだ「フォント」の普及には多くの余地が残されていることが分かります。

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今回のアンケート調査から見えてきたのは、人々の生活のおけるフォントへの意外な関心の高さとこだわりです。
特にビジネス文書やプレゼン資料などでは「これが適切」とされるフォントが人々の中に存在し、フォントの選択は信頼感や誠実さに直結することが示されています。慎重なフォント選びの重要性をあらためて感じさせる内容でした。

また、後半の「人気フォントランキング」や「フォントに関する知識調査」も、デザイナーにとって非常に示唆に富んだ内容です。プロはしっかりとフォントに関する正しい知識を身につけ、シチュエーションと同時に読み手への印象を意識したフォント選びを心がけることで、より効果的な情報発信につながるデザインを実現できるでしょう。

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