◆連続テレビ小説「あんぱん」
今作は、“アンパンマン”を生み出したやなせたかしと妻・暢の夫婦をモデルに、生きる意味も失っていた苦悩の日々と、それでも夢を忘れなかった2人が、“逆転しない正義”を体現した「アンパンマン」に辿り着くまでを描く愛と勇気の物語。主人公の柳井のぶを今田、のぶの幼なじみで、夫の柳井嵩を北村が演じる。
◆北村匠海、今田美桜は「ひまわりのよう」
― のぶ役の今田さんとは過去にも共演経験がありましたが、今作を通して改めてどのような印象を抱いたのか、またお二人がどのようなコミュニケーションを取っていたのかを教えてください。
北村:撮影の後半は“支え合う”という言葉が正しかったです。この作品はのぶが主役であり、嵩がのぶを支える立場なのですが、1年を通していろいろな出来事があり、のぶを演じる今田さんが立ち止まって後ろを振り返る瞬間も一番側で見てきました。その度にのぶの思いや嵩の思い、2人の道筋を確かめ合いながら、後半はお互い言葉にし合って、お芝居の面でも、脚本やシーンについてのお話をしていました。
そこで一番感じたのは、彼女の責任感の強さです。それはのぶと通ずるものだとも思います。常に気丈で現場を明るく照らしているのは1年間変わっていなくて、ひまわりのように、現場を明るくしてくれる。でも、その中にも迷いや悩み、悔しさがありました。僕も柳井嵩として悩む瞬間は1年前に想像していた以上に多かったのですが、それは1人で抱え込まず、ちゃんと言葉にして1個1個消化していかなければいけなくて、お互いに松葉杖のように支え合いながらやってきました。その中でも何があっても前を向いていたのは今田さんだった気がします。
― お二人で決めていたルールはありましたか?
北村:ルールとして決めていたわけではありませんが、僕はずっと楽屋に帰りませんでしたし、気づけば今田さんも帰らなくなっていました。スタッフさんやキャストさんと会話しながら現場を作っていきました。最初は帰らないことを意気込んでいたのですが、どんどん居心地が良くなっていき、今田さんにとっても居心地のいい場所になってくれたのかなと少し思ったりしています。
― 前室にいるというのは毎回決めているのですか?「あんぱん」は特に意識していたのでしょうか?
北村:僕は他の作品でも前室にいることは多いですが、「あんぱん」は現場に入る前から楽屋に戻らないことを決めていました。役者も作品のスタッフの1人だと考えているので、一緒に話し合い、納得して作っていかなければいけないと思っているタイプです。特に「あんぱん」の撮影期間は1年と長いですし、最終的には人間関係が重要になっていくのではないかと思ったんです。だから、とにかくいろいろな人と距離感を作らず、作品のことじゃなくても「今日雨すごいらしいよ」とか、何でもない会話をするように心がけていました。そこに自然と今田さんがいてくださいましたし、気づけば河合(優実)さん(のぶの妹・朝田蘭子役)や原(菜乃華)さん(のぶの妹・辛島メイコ役)、文哉くん(辛島健太郎役)、たくちゃん(いせたくや/Mrs. GREEN APPLE大森元貴)などみなさんがずっといるんです。僕がやったことはきっと間違いではなかったのかもしれないと思いました。
◆北村匠海、高橋文哉との出会い「不甲斐ない先輩ではいたくない」
― 嵩の親友・健太郎役の高橋文哉さんとのシーンも多かったと思いますが、高橋さんとの共演はいかがでしたか?
北村:実は、僕と文哉くんはスタイリストさんが一緒なんです。僕はそのスタイリストさんとは10年以上の付き合いなのですが、文哉くんのスタイリストもやり始めた頃から話は聞いていました。
― 高橋さんも、北村さんとの出会いがとても大きかったとお話されていました。
北村:恥ずかしいぐらい言ってくれています(笑)。
― 嵩と健ちゃんのシーンを撮影する上で、お二人で話し合ったことがあればお聞かせください。
北村:僕は、撮影が終わった後にそのシーンについて話すことはあっても、演じる前にお芝居の話はあまりしないんです。基本的に段取りや芝居を通じて会話することが多くて、文哉くんもまさにそういう感覚でした。
◆北村匠海「あんぱん」で感じた役者の使命
― 高橋さんが、北村さんを尊敬する理由として「エンタメ業界の未来に対する熱量を感じる」とおっしゃっていました。北村さんが「あんぱん」を通して伝えたい、エンタメへの思いをお聞かせください。
北村:今回、妻夫木聡さん(八木信之介役)をはじめとするキャストのみなさんと共演させていただき、日本のエンタメ業界についてお話しする機会がありました。「アンパンマン」という作品は普遍的で、もう二度と生まれないだろうと感じるほど素晴らしいものです。でも、その背景にあるのが戦争への思いだと考えると、「あんぱん」が届けなければならないのは戦争の話でした。だけど、のぶと嵩が歩んできた道は、普通の日常が多かったんです。もちろんドラマですからいろいろなことが巻き起こっていきましたが、僕ら2人が日々感じていたのは「ご飯が美味しいね」という普通の毎日。僕は、この温かさを届けられただけでも「あんぱん」という作品に意義があったのではないかと思っています。
あと、寛さん(嵩の伯父・柳井寛/竹野内豊)の言葉であり、やなせさんの言葉でもある「なんのために生まれて、なにをして生きるのか」。これに対しては常に自問自答する日々でしたし、エンタメ業界に課せられている言葉のような気もします。作品1つ1つに対して何を残して何を伝えたいのか、何のためにこの作品に自分が選ばれているのかという理由をしっかり持ち続けないと、時間は過ぎていくし、世の中というものはどんどん変わっていく。だから1つ1つ、1日1日役者としてどう向き合うかというのを、常にその言葉で突きつけられていたような気がしていました。
◆北村匠海「あんぱん」柳井嵩には「誰が欠けてもダメ」
― 妻夫木さんとは映画「ブタがいた教室」(2008)以来の共演ですが、北村さんにとって妻夫木さんはどのような存在でしょうか?
北村:人生で初めて会ったいわゆる芸能人が妻夫木さんなんです。その強烈な思い出からスタートし、当時は先生として僕たちに生きる教訓を与えてくださいました。
― 嵩というのは妻夫木さんがいなければできなかった部分も大きいのでしょうか?
北村:嵩というのは、この作品に出てくださっている誰が欠けてもダメです。なぜなら、やなせたかしさんがこの作品全体を包んでいるから。柳井嵩はやなせさんをモデルにした象徴的な存在であり、やなせさんの言葉や思いはキャラクター全員に散りばめられているんです。だから「あんぱん」という作品自体がやなせたかしさんで、誰1人欠けても柳井嵩は「アンパンマン」を描けなかったと思っています。「この出来事が明確に『アンパンマン』を作り上げた」ということではなく、柳井嵩が出会ってきた一人ひとりが、嵩にいろいろな言葉を投げかけてくれて、最後にのぶちゃんが僕の手を引っ張ってくれて初めて「アンパンマン」というものができあがったんだなと思います。
― ありがとうございました!
(modelpress編集部)
◆北村匠海(きたむら・たくみ)プロフィール
1997年11月3日生まれ、東京都出身。映画「君の膵臓をたべたい」(2017)で第41回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。近年はドラマ「教場」シリーズ(フジテレビ系/2021、2023)、「にじいろカルテ」(テレビ朝日系/2021)、「アンチヒーロー」(TBS系/2023)、「幽☆遊☆白書」(Netflix/2023)、映画「東京リベンジャーズ」シリーズ、「明け方の若者たち」(2021)、「法廷遊戯」(2023)、「悪い夏」(2025)など数々の話題作に出演し、2025年10月24日に主演映画「愚か者の身分」が公開予定。
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