今回は在宅療養支援診療所、権利擁護センター、法律事務所の相談員、訪問看護ステーションなど、介護施設の関係者が一堂に会し、「後見人制度」をテーマに意見交換をする機会が都内でありましたので、その内容をリポートします。

現場のスタッフたちは、日々どんな課題と向き合い、乗り越えようとしているのでしょうか。

在宅介護の最前線から届いた声から、情報弱者が取り残されている現実も明らかになりました。

セーフティーネットの存在を含め、安心できる情報を必要としている高齢者にしっかりと届ける。同時に終活ノートを使った情報整理の必要性も、クッキリと浮き彫りになりました。

後見人が介入できない理由

在宅療養支援診療所関係者(以下、診療所):まず権利擁護センターの方に伺いたいのですが、入院の手続きをする際や、救急搬送について判断する際には、後見人さんに連絡を取ってからという流れになることが多いのですか?

救急搬送はしますけど、その後自宅で看取られる希望なのか、病院に残されるのかっていうのは、時にご家族の判断になるのでは、と思いまして。

権利擁護センター関係者(以下、権利):高齢の方のひとり暮らしの方がすごく増えているので、買い物難民のようになっていたり、認知症が進んでいるんじゃないかと見える方はいらっしゃったりするんですけど、あまり介入できないんです。

―――それはどうして介入できないのでしょうか。

権利:本人が認知症だと思っていないからです。だから普通にしているのですけど、どう考えてもあやしいっていう状況の人たちでも介護認定を受けていないので、そうした状態の人たちにどう手を出していいのか模索中です。

高齢のお母さんが同居していて、そのお母さんは認知症ではないので、お母さんの方に声をかけて「お嬢さんいらっしゃるの?」というやり方で、お話をしてみるということは、あります。

―――高齢者同士でお話をしていただいてってことですね。

権利:最近は亡くなる方も結構いらっしゃるし、介護施設に老老介護がすごく増えています。この状況だと、もう本当に共倒れになるような状況ですから、そういう場合は、ケアマネさんと直接折衝したりもするんですけど、ただ本当に息子さんや娘さんの協力が得られないケースがすごく多いんです。近くに住んでいても疎遠になっているケース。

―――そういう理由として、主に何かあるのですか?親世代、子ども世代で、近くに住んでいるのに疎遠になる理由について、何か思い当たりますか?

権利:割と娘さんとかは介護が必要になったとき、離れていてもかかわってくれるんですけど、息子さんが逃げちゃう。

――それはなぜでしょうね。

権利:兄弟だと、姉さんに聞いてくれとか、男のかかわる場ではないと思っているんです。そういう意見を聞くことが多い。娘さんは海外にいらっしゃって来てくれないですかとか。

――クリニックでもお宅に行っても、そういう場面多いですよね。

クリニック:ありますね。

――「入院しますか?お家で看取りますか?」と言っても、お嫁さんが出てきて介護はするけど、意思決定はできない。そこで長男さん、次男さんに出てきてもらわないと困るんですが、介護は男のものじゃないと(いうことで協力してもらえない)。市民の方に対して、啓発していかないといけないと思います。

権利:高齢者の方々と話しているんですけど、やはり「娘がいてよかった」とおっしゃる方はおられます。

成年後見制度による支払いまでに時間がかかる

―――では、介護施設の関係者の方にも伺います。お話を聞いてみて、いかがですか。

介護施設関係者(以下、施設):実はこの10月に成年後見ということで、社会福祉士さんに後見人が決定した方がおられまして。その方は2月ぐらいから、一応補助からかなと検討し始めたということでした。

入院をきっかけに成年後見の方が適切ではないかということで、主張を申し立てて成年後見人になったんですが、それはやはり時間がかかるものなんでしょうか。

2月に主治医の先生の方からも「96歳になる方なので、預貯金が終わりだったので、この辺でそういう制度を利用したほうがいいのではないか」というご提案がありました。

検討した結果「それでお願いします」ということだったのですが、最初はまだその方、しっかりしておられて、補助かな、保佐かなっていうところで、先生にいろいろ主治医の意見書を書いていただいたところ、入院をきっかけにして状態が激変したんです。

で、もう自分で意思は出てこなくなってしまったので、市長申し立てで成年後見制度の方に切り替えようということになったんです。そのときにまた、医師の診断書が変わるということで、その診断書をいただいたり、裁判所から相談員さんがこちらに一応見に来られたりということもありました。

コロナの影響もあり、ましてご本人とお会いすることができなかったということで、そのお話が流れたりして、かなり時間を要したんです。

で、結局入院中の間、マンションを借りていた方ですので、家賃が発生しておりました。その金額を入院している方の代わりに私が払わなければいけなかったんです。

そういう成年後見制度決定前のお支払いは、結局サービスがまだつながっておりませんでしたので、私たちケアマネがご本人との直接お金のやり取りというのは難しいかなと思ったんですが、現実それをしないといけなかったので私が代行したんです。

こういう成年後見の方が決まらない場合のお金の流れっていうのはどうしたら適切だったんでしょうか。

権利:ありがとうございます。そうですね。今の話だと、補助保佐を検討していて、そこで補助保佐を使っていれば、入院したときには非常にスムーズだったと思われます。

まずそこは、みんなで確認したいところではあるんですけど、実際は本当に認知症になって困って申し立てる。今回の場合、鑑定が入ったということですが、診断書だけでは判断できず裁判所から調査官が来て調べるとなると、どんどん長くなっていくんです。

通常は申し立てをしてから1ヵ月、長くても2ヵ月ぐらいで審判が出るのが一般的です。でも今回みたいにどんどん手続きの段階で調査が長くなってくると1年かかる例もあります。

成年後見制度はどうやって活用すべきか?在宅介護の最前線のリア...の画像はこちら >>

その間家賃をどうするか。今回は市長申し立てでやっているので、その辺をご案内したうえで、先方に待っていただくのが通常の流れです。

そして、選任された後に全部後見人が精算してくれます。回収できる見込みが立っているので、待ってくれることは多いです。本当に先方には申し訳ないとは我々も思うんですけど。

施設:(相手が)不動産屋さんでしたので、おそらく待っていただけるかと思います。

ただ、その方が入院するときにはまだ介護保険でサービスを利用中で、その月のお支払いがあったんです。「そういうものは、悪いけどやっておいてくれる?」っていう感じで、お預かりした通帳があったので「ではここから降ろしてお家賃や何かも払っておきますね」っていうことでお預かりしたんですよ。

それで結局10月に(後見人が)決定したんですが、それまで私が払い続けてしまいました。形としては「後見の方が決まるので、お待ちくださいね」っていう風に不動産屋さんにお伝えすればよかったということでございますね。

権利:そうですね。そういうやり方はあると思います。病院の費用についても、待ってもらうしかない状況っていうのはありますので。

施設:とても懇意にしていただいている病院がウチの事業所の近くにあるので、その辺りはすごく融通を利かせていただけました。ただ、お家賃だけが心配だったし、ご本人もおそらくそれが気がかりだろうということで、支払い続けたんです。

結果的にはどうだったのかなと思っているんですけれども、それでよろしかったんでしょうか?

権利:我々の立場では、事業者さんの本当に業務外の支援になるので、なんとも言えないんですけど…。大体、我々の知る限りでは、(支払先に)待ってもらうしかない状況になっていますね。

先方としては、やっていただいて助かったなっていう状況だと思います。

施設:ご本人もすごくそういうお支払いには気を使われているので、きっと安心されていると思います。あともう1つ、成年後見から補助とか保佐に変わるってこともあり得るんでしょうか。

権利:認知症の場合はなかなか回復しないので、あまり事例はないと思います。ただ、例えば急な重い病気で一時的に重い診断が出ているような方については、経過が良好な場合に軽い方になる場合もあります。

家族が後見人で問題が生じるケース

―――やっぱりこういう話題は、ホットな話なんですね。最近ちょっと困ったなっていうような感じのこと、何かありますか?どうでしょう。デイサービスの看護師さんは?

看護師:最近あったんですけど、家族が息子さんと、お父さんとお母さんの3人暮らしで、ご両親は認知症。お部屋の中はおしっこがもうすごい状態で、息子さんに働きかけても、なかなかそれが改善できない。

息子さんは「(自分が)いない方が改善しやすい」って言っているんです。それ(息子が何もしない状態)がまだ今も続いているんですけど、後見人から息子さんを外すことってできるんですか。

――息子さんが後見にならないようにするということですね。

権利:それは可能だと思います。

結局この場合だと虐待の流れになるので、包括さん(地域包括支援センター)に相談していただくように言っています。後見を勧めるかは包括と区役所の判断になるんですけど、事例としてこういう場合には、息子以外の後見をつけて改善させていく方法もあります。

看護師:ご両親にとってはどうなのか、とも思いますが。

―――そうですね。やっぱり頼りにしているでしょうからね。たとえ(息子に)どういう扱いをされてもね。

法律事務所:数日前に相談を受けた方ですが「去年はできていた書類のやり取りみたいなものが自分でできなくなった。読んでも理解ができなくなってきた」というご相談がありました。

お金の管理のことを、まだ言っているわけではないです。でも、その取っかかりとして、銀行から来た通知や返さなきゃいけないような証券とか保険のやり取り、そういうものからかかわっていくというのも可能なのでしょうか。

―――今だと後見相当ではないので、オプションみたいな。

権利:補助保佐となると、金銭管理は自分でやりますが、「書類の管理を補助人にお願いします」というふうに、家庭裁判所に申し立てることはできます。我々は日常生活自立支援事業。後見まではいかないんですけど、同様の支援があるので、後見制度よりは日常生活自立して使いやすい。そちらからなら、入りやすいです。

―――後見人制度について本当にちょっとしたこととか、「こんなので使えますか?」みたいなことを、権利擁護センターさんに電話して相談しても大丈夫なんでしょうか。

権利:はい、(権利擁護センターは)そういう施設です。後見に迷っている人は相談していただいて(次に)進んでいくとか、「それ以外の方法があるんじゃないか」というような相談をさせていただく機関です。

―――権利擁護センターさんで後見をつけたとしても、水戸黄門の印籠じゃないですけど、すぐ「全部お金出しなさい」みたいにはできない。やっぱり慣れてらっしゃるヘルパーさんとかケアマネさんとかと一緒に「大丈夫」と安心していただいて、任せていただけるようになるっていうことなので、やっぱり総合的にお役に立てるしお役に立ていただけるし、っていうような感じなのが、すごくよくわかりました。どうでしょうか。弁護士事務所の相談員の方は。

弁護士事務所相談員(以下弁護):法律事務所の担当事務員をしております、Bと申します。弁護士ではないので、基本的にお客様側と相談や折衝をする機会が多いんですけれども、日頃いろんなご相談者様から相談を受けて一番感じるのが、こういった成年後見や借金相談とか債務の部分で、どちらかというと情報弱者だということです。例えば年金しか受け取ってない、障害年金や生活保護だったり、収入がないっていう方になると、そもそも法律のことを知らないんです。

ほかにも、こういう救済するような法律、後見人制度ですとか。あとは高齢の方の場合、亡くなられたのを事実として知ってから親族の方が3ヵ月以内に相続放棄をしないと、借金がそのまま相続されてしまう事実とかもある。もちろんプラスの遺産とかも入ってくるんですけど、そのタイムリミットが3ヵ月っていうのを、知らない方がすごく多い。

なので、今回の会もそうですけども、私たち知っている側の人間が、どうやってその情報弱者で、かつ金銭的弱者の方にこう伝えていくのか。

本人の手続きに関しては成年後見の制度があり相談する場があるので、借金や法的なトラブルなどに関してはぜひ法律事務所の方に相談していただければ。

例えば、もうどうしようもない状態だったら、日本には自己破産、あとは自己破産まで行かなくても借金をなんとかする制度がいくつかある。結局は借金ゼロにできるセーフティーネットがあるんですよ。

成年後見制度はどうやって活用すべきか?在宅介護の最前線のリアルな本音
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日本にはこういうシステムがあるよっていうのを、どうにかしてそういう弱者方に、立場の弱い方に伝えていくっていう努力が、私たちのほうで必要だと思います。

今回の会の方に、普段から自分たちから伝えていけば、地域には助かる方もいらっしゃると思います。(東京23区内の某区の)区内でも、成年後見制度の(年間)利用者が750件ぐらいということですが、それだけしかいないわけがない。困られている方は相当いるはず。

そういった方が知らない、もしくは知っていたとしてもそこまで踏み出すハードルが高くて、尻込みしてしまってそのままにするっていうことがすごく多いと思うので、この方たちにお声がけをしてどういった工夫で伝えていくかっていうのは、私たちの課題だと思います。

―――そうですね。「弱者を守るための法律があるんだぞ」っていうことですね。ためになる情報でした。ありがとうございます。

エンディングノートの大切さ

施設:あの、もうすぐ亡くなりそうなときに、亡くなったら銀行ストップしちゃうから「(亡くなる)ちょっと前に、葬式代を100万円単位でおろしてこなきゃ」とかっていう家族が結構いらっしゃるんですけど、あれは正解なんですか?

法律:それが法的に正解なのか、人情的に正解なのかっていう話があると思うんですけども、基本的になくなりそうだからおろしておくっていうのは、本人がおろすのぐらいは全然構わないと思うんです。

でも今回おっしゃってるのが、おそらくその亡くなりそうな方が動いておろしに行くというわけではなく、本人の財産なのに第三者、例えばご家族でも第三者になるので、第三者がそのお金をおろそうとして自分のものにしようとしていることは、ちょっと法的にはどうなのかな、という部分はございます。

で、ご家族間で死後どうするかっていうことであれば、遺言書に書き示すべき。例えば自分が危なくなったときにどうするかと、それこそ先ほどお話しした弱者が救済されるべき措置ではあるものの、そういった(立場の)方は知らないっていうお話をしたと思うんですけども、もし自分が年を取って寝たきりになりましたら、認知症になります。

弱者の立場になるわけじゃないですか。その弱者になる前に遺言書ですとか、そういったもので自分の意思を示すことができます。遺言書って基本的に司法書士さんとか行政書士さんとか、弁護士法律事務所の方でも依頼は受けられますが、そういった堅苦しいものではなくて、エンディングノートっていうケースもあります。

遺言書ほどの法的な拘束力はないけれども、自分が意思を示せるもので、意思表示していただいて「今後どうするか」っていうのを、今後ご家族で考えられてはいかがですか、と思います。

日常生活で、今回集まっていただいた業種の方とかが、それをご案内するっていうのは、すごくいい方向性なのかなと、私個人としても思います。

遺言を書くのは、判断力のあるうちに。まずその第一歩として、エンディング(終活)ノートを書く。それは自分のためだけでなく、残される人々の、大きな助けとなるはずです。

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