港区主催「みんなとオレンジカフェ」

連日の30度超えが続く夏日。炎天下の午後、東京都港区・高輪区民センターで開催された「みんなとオレンジカフェ」にお邪魔してきました。

こちらのカフェは、東京都港区が主催している認知症カフェ。

認知症カフェとは、認知症の方やご家族が気軽に集える場所です。

「みんなとオレンジカフェ」は、港区から委託された「NPO法人介護者高齢者支援・けあポート」(以下、けあポート)によって運営されており、芝・麻布・赤坂・高輪・芝浦港南の各エリアで月に計5回程度開催されています。

港区で高齢者が一番多いエリアは高輪エリアだそう。

ほっと“ひと息”つける場所

取材日のカフェは「けあポート」のスタッフ4名と養成講座を経た2名のボランティアの方によって運営されていました。

年齢もご職業も“幅広い”参加者の方々が、テーブルごとに少人数で分かれて、和やかにお話をされていたことが印象的でした。認知症の当事者の方や親・配偶者を介護している方、地域包括支援センター職員などの関係機関職員も含めて総勢17人が参加されていました。

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あるテーブルの脇に車椅子がありました。

使用者だと思われる高齢の女性が、ボランティア2名の方にゆったりと話をされています。少し様子をお聞きしました。

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こちらの女性は89歳。要介護2で、デイサービスなどの送り出しヘルパーを利用しながら独居生活を営まれているようです。

「私は、愛知県出身。でも今は、自分が暮らす港区が大好き。

亡くなったお父さん(夫)が眠るお寺も近いので」というお話を何度も繰り返し話されていました。目線を合わせて、笑顔で話を聞いてくれるスタッフの存在が大きいようです。

「みなさんに会えるのが楽しみで毎回来ているのよ」と、何度も話されていましたが、スタッフからは「またその話? 聞いたよ」という発言や表情は一切ありません。同じ話をしてもあたたかく包み込むような笑顔でうなずかれています。

こちらの参加者の方にとって、「合いの手」を入れながら話を聞いてもらえる午後は、ご自身を受け止めてもらえる心地良いひとときなのかもしれません。落ち着いた様子でゆったりとお話をされていました。

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カフェで話を聞いた医師へ直接相談できた!

お話を伺っていたテーブルと一つ離れたところでは、さきほどの女性の息子さんが男性介護者同士で話をされています。息子さんにもお話を伺ったところ、なんと息子さん、埼玉県在住。港区で暮らすお母さまが心配で、週末は埼玉から通いで介護をされているとのこと。

「こちらのカフェに通ってもう3年。ほぼ皆勤賞で親子参加をしています。介護申請の相談に港区役所へ行った際にこちらを紹介してもらいました。これからお医者さんの講話があるんですが、僕の母は定期的に病院へ行っていなかったので、講話を担当されていたお医者さんへ相談し、介護保険申請を行いました」

地域の医師と連携

「みんなとオレンジカフェ」の前半は参加者同士のフリートーク、後半は地域の認知症専門医による講話があります。“もれなく”医療者の話も聞くことができるのです。

けあポートの理事長である中島由利子さんによれば、前後半の構成にしている明確な理由があるようです。

「地域の医師と連携を取れる場にしています。カフェがきっかけで受診につながったり、介護保険の申請ができた参加者の方も多くいらっしゃいました。講話をしてくださる医師は、当事者やご家族に寄り添って話をしてくださるので、安心感が得られる時間になっています」

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遠方から参加する理由とは?

埼玉から参加されている男性のお話が続きます。

「母は家の中では伝い歩きで動けますが、外出はデイサービスくらいなので、このカフェは貴重な外出機会。僕も勤務先の公休をカフェ開催日にあてて、親子で欠かさず参加しています」

決して近いとは言い難い埼玉から参加されていることには大きな理由があるのでは。「みんなとオレンジカフェ」は、介護をされている方同士が、情報交換ができる場でもあるようです。

「『こういった症状は自分の母だけなのか?』色々な方のケースを聞くことで、介護の仕方はそれぞれで、似通ったところもあり、違うところもあり、『うちでもあるなあ』という話は共感できるし、ここで聞いた話を参考に『こうしてみようかな』とも思える。

うちのような通いと違って、同居されている方は大変だなとも思えたりもします。これからもカフェに通い続けたいです」。

お母様を車椅子に乗せ、親子は笑顔で会場を後にされました。

オレンジカフェは息抜きの時間

73歳、アルツハイマー型認知症、要介護2の奥様を13年間自宅で看ているある男性にお話を聞きます。

「58歳前後で妻が認知症を発症しました。この先どうなるのか不安があります。

妻が『デイ』から戻ると『また始まるなあ』という気になります。このカフェで午後の4時間、妻と離れることが息抜きの場です」。男性はそう話されます。

こちらの方は、高輪以外で開催されている港区のオレンジカフェ、5箇所すべてに参加されており、奥様も参加されています。

お料理が好きで今も台所に立つという認知症の奥様ですが、目が離せないと言います。「調味料を入れた、入れないがわかっていない。何度も同じことをしてしまう妻を一人にはさせられません。このカフェでは、妻が同じことを何度話しても、スタッフの方が聞いてくださる。10回同じ話をしても『はじめて聞いた』ような表情で聞いてくださる。家では妻との会話があまりないのですが、このカフェにいる妻は自宅では見せない明るい顔つきになります」と、認知症カフェに感謝をされている様子でした。

地域で支える、ボランティアが活躍

「みんなとオレンジカフェ」には、常時3名前後のボランティアスタッフが関わっています。ボランティアの方はみな、オレンジカフェの事業で開催された「ボランティア養成講座」の参加者。

けあポートのスタッフは、「『地域で認知症の方を支えていこう』。地域のボランティアさんたちがそのような思いで手伝ってくれているのはとてもありがたいことです」とお話しされています。

養成講座では、認知症の理解やご家族への対応、傾聴などを行政職員や医療者などから学ぶことができます。講座終了後、ボランティアとしてカフェで活躍されています。

医師から新薬「レカネマブ」の話

2部構成の後半は、医師の講話が40分前後あります。前方のテーブルであれば、医師と距離は1メートル前後。話し手の表情が見える距離感で、わかりやすくホワイトボードを使いながら医師が話してくれます。

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テレビのリモコンが使えなくなったら、相談時?

講話終了後、医師への質問タイムが設けられています。

「どういった状況で専門医に相談すればいいのでしょうか?」という質問には、「テレビのリモコンを使うことは、なかなか大変じゃありませんか? 認知症の進行に伴い、ものを使う手順がわからなくなることもあります。例えば、親御さんがリモコンを使えなくなったら、医師に相談してみてもいいひとつのタイミングでもあるのではないでしょうか」と医師は話します。他の質問も医師へ寄せられます。

「親が認知症だと思うけど、物忘れとか認知症という言葉を言っても『自分は違う』となかなか受診につながらない。どうしたら受診へつなげられるか?」

こちらの答えは「人から『ボケている』とか、『物忘れ』って言われるのは当事者の方は嫌なものです。『今後のために健康診断を受けに行こう』と検査・受診を勧めてもらえたら」。

「普段の過ごし方で認知症を招かないような工夫はないか?」という質問もあり「薬だけが認知症対応方法では決してない。リハビリや適切な運動、バランスの取れた食事、そしてご本人が昔からやっていた趣味や好きなもの――麻雀や編み物など――を続けておられる患者さんもいます。ご本人の『好きなもの』に触れられるような過ごし方や会話のしかたはいいかと思います」という返答には、会場内でうなずく姿が見られました。

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娘ゆえの悩みや葛藤を話せる場「娘サロン」

けあポート独自の取り組みとして、毎月第2、もしくは第3土曜日に「娘サロン」を開催しています。

対象は、父あるいは母を介護されている「娘さん」で、港区の「オレンジカフェ」に参加した方に紹介されているようです。

「母と娘の関係の場合、それまでどう過ごしてきたかが大事なことでもあります。ご両親を介護される際、娘という立場ゆえに抱える悩みを、当事者同士が安心して話せる場を作りたいと2年前に立ち上げました」と、スタッフは話されています。

2021年8月、3名の参加者で立ち上げ、今は常時15名前後の対象者に参加周知をしています。開催概要などは「けあポート」の公式HPにまとめられています。

胸の内を話せる場、一人で悩みを抱え込まないで

介護をされている「あなた」。ひとり、悶々と悩みながら日々の介護に当たっている方もいらっしゃるのではないでしょうか?お近くの認知症カフェへ出かけてみることもひとつの解決策になります。

ご自分の悩みや疑問を話したり、あるいは話すことが苦手なら、同じような思いをされている介護者の方の話に耳を傾けたりするだけでも、世界が広がることがあります。

認知症カフェは、お住まいの市役所や地域包括支援センターへ問い合わせされると、参加できる最寄りの認知症カフェを紹介してもらえます(※)。

まずは、一人で抱え込まないで、一歩勇気と時間を作って、踏み出してみませんか。

※カフェの内容・構成はその場所ごとで違います。お近くの自治体にお問い合わせください。

取材協力

港区高齢者支援課高齢者相談支援係

NPO法人介護者高齢者支援・けあポート

取材・文=上垣 七七子