ヘルステック業界がざわついています。通訳ツール「ポケトーク」や自動で文字起こしするAIボイスレコーダー「オートメモ」などの人気商品を連発してきたソースネクストが、遠距離介護や在宅介護に対応する「高齢者見守りサービス」に参入してきたからです。

同社は「Tellus You Care, Inc.」(本社:米サンフランシスコ)の、自動運転などに使われている最先端のレーダー技術を転用し睡眠習慣や心拍数を測定する非接触モニタリングシステム※「POM」(ポム)の国内販売で協業することを発表しました。「POM」は2023年8月7日(月)から9月30日(土)までの55日間、クラウドファウンディングサイトMakuakeで販売。その後は、ソースネクストの自社オンラインショップを中心に、さまざまな販路で展開されます。ヘルステック業界には黒船襲来にも似たインパクトをもたらしています。その真意は? 社長の小嶋智彰氏を直撃し、本音に迫りました。

.custom-box { border: 2px solid #333; border-radius: 10px; padding: 10px; background-color: ##4d2200; box-shadow: 0 2px 4px rgba(0, 0, 0, 0.1); }

※「POM」とは=自動運転で用いられている高精度のミリ波レーダーを応用して、非接触でヘルスデータを取得し、独自のAI技術でデータを分析することでモニタリングする製品。

カメラではないのでプライバシーは守られ、スマートウォッチのように装着・充電の必要もない。対象物の位置、動きの速度や方向を高精度に感知できるミリ波レーダーと、独自のAIアルゴリズムを組み合わせたPOMは、睡眠時間・ベッドの上の時間・心拍数・呼吸数・活動時間といったデータを取得し分析する。また、地域情報から天気、気温、湿度データも連携する。安心を意味する英語「Peace Of Mind」の頭文字をとって「POM(ポム)」と名付けられた。

「ポケトーク」のソースネクスト なぜ高齢者見守りサービスに着目?

―――約800万人の「団塊の世代」が加わり75歳以上の後期高齢者が2200万人を超える「2025年問題」に着目されたことが、今回の介護業界進出のきっかけであるとか。

小嶋社長 我々の会社がもうすぐ30年目になるんです。それに伴って会員(ユーザー)の方も一緒に年齢を少しずつ重ねられています。

ユーザー層は50代から70代くらいが多くなっており必然的に70代、80代、90代の親をお持ちの方が非常に多い状況です。(その中で親と)離れて暮らしている方に質問すると、週1回以上連絡を取っているという方は6割程度いらっしゃるんですが、実際会いに行けている人の割合はガクッと落ちています。ですので、高齢者を見守るサービスに関心がある方は8割を超えていました。それがこうした商材(POM)を持つことを考えるきっかけになった、というのが一つです。

―――ユーザー層も2025年問題と、15年後に高齢者(65歳)となる2040年問題と一致するわけですね。実は社長も同じようなお立場だと伺いましたが。

小嶋社長 はい。私も父親が早く亡くなっていて、75歳の母は平塚(神奈川)で一人暮らしです。月に1度くらいは(会いに)行っていて、呼び寄せることも考えたのですが、母は地元のコミュニティの中で仕事もあり、そこを離れたくない。まさに同じ立場ですから、僕自身もこんな商品が欲しいと思っていました。

―――2025年問題は社長にとっても「自分ごと」だったわけですね。

小嶋社長 はい。

そしてもう一つ、数年前に発売した通訳ツール「ポケトーク」の姉妹品「ポケトークmimi」という製品の存在もあります。これは名前のとおり、耳がだんだん遠くなられてきた方が家族の方などと引き続きコミュニケーションできるように、との要望から生まれた商品です。

「ポケトーク」ユーザーの意外な使い方からニーズを発見

―――高齢者の方が、翻訳ツールである「ポケトーク」の本来の用途とはまったく違う使い方をしていたんですか?

小嶋社長 はい。実はポケトークを発売した後、何語で使っていますかというアンケートの中で、「日本語を日本語に訳している」という使い方をしている方が数パーセントいらっしゃって。

―――日本語を日本語に?

小嶋社長 話したものがそのまま文字になるという(商品特性を生かした)使い方をされていたんです。

―――高齢者の方が相手の言葉を聞き取れなくても、音声がその場で文字化されるので意思疎通できるわけですね! それは便利ですね。

小嶋社長 それであれば翻訳をしなくてもいいので、喋ったことがそのまま日本語で大きな文字で表示されるバージョンのポケトークを開発し、「ポケトークmimi」という名前で販売していました。

ただちょうどコロナの時期に重なってしまったので、一旦プロモーションしていくのをやめていたんです。介護施設などにご説明しに行こうにも(コロナのために)なかなか新規開拓が難しくなってしまった。それでmimiの事業は一旦拡大をストップしています。ただ、ヘルステック分野への興味はもともとありましたし、いくつか類似製品で実際にテストマーケティングをしていました。

――ポケトークのユーザーの意見から「これできるじゃん」みたいな使い方があぶり出された感じですか。

小嶋社長 そういう使い方をされていたのであれば、そこ(のニーズ)に特化したものをご提供すると貢献できるんじゃないか、というところで「ポケトークmimi」を作ってみたというのが、今振り返ると、ヘルステック分野への第一歩でしたね。

ーー「ポケトークmimi」がコロナで一回止まってから、今回高齢者見守りサービス「POM」の発売に至るまでの経緯はどのようなものだったんですか。

小嶋社長 「POM」は、シリコンバレー(米カリフォルニア州。IT企業の一大拠点)で起業したベンチャー企業・Tellus You Care, Inc.と一緒にやらせていただいているプロジェクトです。シリコンバレーには当社の創業者で今、会長の松田(憲幸氏)がもう10年以上、家族で移住しています。そのシリコンバレーでの新しいテクノロジーを日本に持ち込むという事業が、一つ、柱としてあります。そうした流れの中で、長くお付き合いさせていただいているネットワークの中で「こういう製品が今形になってきているので、日本でやりたいんだけど」と先方からお声がけいただいたのがきっかけです。

「ポケトーク」ソースネクスト、高齢者見守りサービス「POM」...の画像はこちら >>

↑POMを手に商品説明を行うTellus YouCare,IncのコークCEO

―――私もWEBサイト「みんなの介護」で「在宅介護」の連載をしてきて、遠距離介護のケースをいくつも取材してきましたが、親世代はやはり住み慣れた土地を離れたくない。その結果「見守りサービス」の商品が続々登場してきました。部屋にカメラを設置するタイプ、ドアや動線にセンサーを付けるタイプ、通報ボタンなどを押して異常を知らせるタイプや定期的に訪問するサービスなどが乱立していますが、それぞれに一長一短がありますよね。

小嶋社長 カメラで見守るタイプですと、親子や家族間だとしても常に見られている、ということでやはりプライバシーの課題があります。センサー型というのは、「ある動作をしなかった」時にアラートが上がるということですので、何か異常が起きてから気づくまでのタイムラグが当然あるわけですね。通報ボタン型も(本人が)実際にボタンを押せるような状況ではないということも、当然あり得ます。既存の製品にはこういったさまざまな課題があったと考えております。高齢者ご本人にとっても、そしてそれを見守る子や子世代の家族にとってもですね。

そんな中で、お互いに安心できて、スマートに課題を解決できる、そんなソリューションとして開発されたのが「POM」です。

―――壁に設置された「POM」がベッド上にいる高齢者の方の睡眠時間、心拍数、呼吸数などのデータを非接触で取得することができるというのは、遠く離れている家族には相当ありがたい。さらに住んでいる地域を登録することで、その地域の気象データを取得し、熱中症のアラートを出すこともできるというサービスは、マーケットに与えるインパクトも相当なものだと思います。乱立状態の見守りサービス市場においても、勝算はかなりありそうですね。

小嶋社長 勝算というか、それぞれに良い所もあれば、やっぱり課題もあると思います。いろいろ使ったりしてもらいながら、さらに精度を高めていくのがいいのかなと思っています。

シリコンバレーからやってきたベンチャー企業にとって、世界最速で超高齢社会に突き進んできた長寿大国ニッポンは、最初の見守りサービスのビジネス勝負の場として最もふさわしい国であることは間違いないでしょう。このマーケットで成功を収めれば、次は母国アメリカでのビジネス展開に打って出るはずです。

協業する両社にとって、大事な第1ラウンド。「POM」は遠距離介護に悩む現役世代のハートをがっちりつかめるか。それが最初のハードルとなりそうです。

「ポケトーク」ソースネクスト、高齢者見守りサービス「POM」販売へ!ギョーカイをざわつかせた同社の小嶋智彰社長に真意を直撃

↑ソースネクストは8月22日にも人気機種「オートメモ」の最新鋭機を発表(右は小嶋社長)

.custom-box { border: 2px solid #333; border-radius: 10px; padding: 10px; background-color: ##4d2200; box-shadow: 0 2px 4px rgba(0, 0, 0, 0.1); }

聞き手:株式会社 清流舎 代表取締役 小川朗

ジャーナリスト。新聞社の海外特派員を7年半、デスクとして100人以上の新人記者を育成し運動部長、文化部長、広告局長を歴任後独立。㈱清流舎代表取締役。同社の公式ニュースサイト「The Tokyo Chronicle」編集長。取材・執筆活動の傍ら、(一社)終活カウンセラー協会の認定終活講師も務め、登壇歴は70回に上る。同協会の勉強会では「ここまで変わるWebライティング」「トラブルにならない記事発信の仕方」「終活ジャーナリストが明かす『発信力を身に付ける方法』」「土着文化を知る おいらん渕/棡原村の長寿健康食」など多彩なテーマで登壇している。「介護の教科書」では終活ジャーナリストの立場から在宅介護に関する記事を執筆中で、2023年の6月、連載は50回を突破した。2020年4月より日本ゴルフジャーナリスト協会会長。「e!Golf」「ALBANet.」などのネットニュースに寄稿し、Yahoo!ニュースの公式コメンテーターも務める。ゴルフトウデイ」「ALBA」などの雑誌や自律神経関連本の編集にも携わり「アスリートのための腸内環境と自律神経の話」などのテーマで「ウエルネスフードジャパン」など大型会場のセミナー講師として登壇している。