脳卒中をはじめとした疾患で現れる「失語症」ですが、具体的にどのような障害なのかよくわからない方もいるのではないでしょうか。
失語症とは、言葉を話したり聞いたりすることが困難となり、コミュニケーションがとりにくくなる障害です。
失語症は、脳卒中などの後遺症として残ることがありますが、リハビリによって症状の改善も期待されています。
本記事では失語症の詳細とリハビリの効果や具体的な内容についてご紹介します。
失語症とは
失語症とは「言葉を話す、聞く」などの機能が低下する言語障害の一つです。その症状や原因などについて解説します。
失語症の症状
失語症になると、以下のような症状が現れます。
- 相手の話をうまく理解できない
- 伝えたい言葉が出にくくなる
- 伝えたいこととは違う言葉が出てくる
- 相手の話す言葉を復唱できない
- 書いてある文章を理解できない
- 文章が読めない、書けない
このように、失語症では「話す・聞く・読む・書く」などのコミュニケーションに関する機能に異常が現れるのが特徴です。
失語症になると意思疎通が難しくなるため、日常生活に支障が出てしまいます。
失語症の原因の多くは脳卒中によるもの
失語症の原因は、脳卒中によるものがほとんどです。
脳卒中とは、脳内の血管が破れたり、詰まったりして引き起こされる疾患の総称で、以下の3種類に大きく分類されます。
- 脳梗塞
- 脳卒中
- くも膜下出血
そのほかには、事故による脳の外傷で失語症が現れるケースもあります。
ただ、脳卒中になった方すべてが失語症になるわけではありません。脳は運動や言葉、記憶などを司っている領域が分かれているため、障害がある場所によって症状が大きく異なります。
失語症の種類
失語症は障害された場所によって症状が変化するため、さまざまな種類に分けられます。
そのなかでも代表的な失語症の種類は以下の通りです。
運動性失語(ブローカ失語)
運動性失語(ブローカ失語)とは、相手の話す言葉は理解できるものの、自分からうまく伝えられない種類の失語症です。自分の思考を言葉に変換するための機能が障害されることで発症します。
そのほかの特徴として、以下の症状もみられます。
- 伝えるときの言葉の発音が悪くなる
- 言葉を言い間違える
- 出る言葉が少なくなる
一方で、運動性失語を発症しても、単語レベルの短文であれば話すことが可能です。
感覚性失語(ウェルニッケ失語)
感覚性失語(ウェルニッケ失語)とは、話すことはできても、相手の言葉が理解できない症状を指します。
前述の運動性失語とは逆で、感覚性失語は言葉を思考に変換するための機能が障害されると発症します。
例えば、「飲み物を飲みたい」と伝えようとしても「イスを飲みたい」と間違ったり、日本語ではない言葉を喋ったりするなどの特徴があります。
そのほかの特徴は以下の通りです。
- 言葉自体は流暢に喋れる
- しゃべる量が多く、言い間違えることもある
- 会話の内容が破綻しやすい
- うまく自分の思いを伝えられない
全失語
全失語とは、自分からうまく伝えられず、相手の話す言葉も理解しにくい重度の失語症です。
つまり、運動性失語と感覚性質語の両方の特徴が備わっているものといえるでしょう。
全失語は脳内の広い領域が障害されることで発症します。言葉が喋りにくく話の理解もしにくいので、コミュニケーションに大きな支障が現れます。
このように、失語症といってもそれぞれ症状が異なるため、どの機能が障害されているのかをよく理解しておくことが大切です。
失語症はリハビリによって改善するのか
それでは、失語症はどんなリハビリで改善できるのでしょうか。
脳卒中ガイドラインではリハビリによる効果が認められている
脳卒中ガイドラインによると、失語症の改善にリハビリが有効だとされ、発症早期から失語症のリハビリを集中的に行うことが推奨されています。
ただ、リハビリのアプローチ方法による効果の違いについては、明確にわかっているわけではありません。
しかし、アプローチ方法に関わらず継続的に失語症のリハビリを続けていくことが大切です。
発症後の経過によって自然回復するケースもある
失語症は、発症してから一定期間は自然回復が見込めます。
脳卒中ガイドラインによると、脳卒中の発症後2週間の間に失語症の大きな改善がみられるといわれています。
その後も、発症12ヵ月で最初に認められた失語症の40%は改善するとされているのです。
失語症は後遺症として残るケースも多いですが、長期的な目線で自然回復を待ちつつ、リハビリで改善を目指すことは十分に可能です。
失語症の方に対するリハビリ内容
それでは、失語症の方に行われるリハビリについて具体的な内容を解説いたします。
会話のトレーニング
シンプルに会話のトレーニングを行います。言葉をうまく出せるようにするには、やはり会話をするのが一番なのです。
失語症の方が話しやすい状態をつくるには、以下のような工夫が大切です。
- 言葉が出るまでゆっくりと待つ
- 短文で返せるような質問をする
- 言葉が詰まったときはサポートしてあげる
筆者も理学療法士として、失語症の方のリハビリにあたる機会がありました。
その際は積極的に会話をするように意識して、なるべく声を出す機会を増やしていました。
字を書くトレーニング
文字を書くのはコミュニケーションの手段としても活用できるだけでなく、QOL(生活の質)を高める要素の一つとされています。
まずは簡単な文字を書いたり、文章を見ながら書き写したりすることから始めて、ある程度書けるようになったら、日記や手紙などの難易度の高い課題に挑戦します。
自分が書いた文章を音読すれば、声を出すトレーニングにもなるでしょう。
代替手段を利用したトレーニング
失語症はリハビリや経過によって改善が期待できるものの、すべての方が完全に回復するわけではありません。
なかには、後遺症で言葉が出にくい状態が続く方もいます。言葉だけでなく、以下のような代替手段を持っておくとコミュニケーションがスムーズとなります。
- ジェスチャー
- 言葉やイラストが書いてあるカード、写真を使う
- 筆談
筆者が失語症によって会話が困難な方を担当した際は、言葉のリハビリを行う言語聴覚士と相談して、うなずきや筆談などの代替手段を活用したことがあります。
失語症の症状にあわせたリハビリを行うことが大切
失語症には複数の種類があり、それぞれ症状が異なります。
そのため、どの機能が障害されているかを理解したうえでリハビリを行うことが大切です。
失語症のリハビリではコミュニケーションを活用したアプローチが重要なので、症状にあわせて少しずつやり取りを進めていくと効果的です。
【参考文献】
日本脳卒中学会「言語障害に対するリハビリテーション」