介護業界でも新しい働き方導入への試みが始まった

厚労省が週休3日制のモデル事業を開始

2019年から働き方改革関連法案が順次施行され、多くの企業で雇用形態や休暇制度など、働き方が変わりつつあります。厚生労働省は、働き方改革について「働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く方一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすること」と定義しています。こうした国の働きかけによって、フリーランスや副業・兼業といった働き方が注目を浴びています。

この流れに合わせて、介護業界にも働き方改革の波が押し寄せています。厚労省では2021年度から「選択的週休3日制」や兼業・副業などの促進によって、介護現場に勤める人を増やすためのモデル事業を開始します。

具体的には、参加する施設や事業所に柔軟な勤務形態を取り入れてもらい、その際の費用について補助金を出すというもの。介護現場の実状に合った効率的な働き方改革を実行していくための布石として、モデル事業で試みる予定です。対象となるのは施設系、居住系、通所系など多岐に渡る施設・事業所で、それぞれにコンサルタントを派遣して、効果的なマネジメントなどのアドバイスも行います。多様な働き方を認めることで、他業種などからの人材確保を進める狙いがあります。

兼業・副業の現状

副業や兼業を希望する人は増加傾向にあります。1992年には約235万人でしたが、2017年には約385万人となり、雇用者全体に占める割合は6.5%に達しました。実際に副業をしている人の数は2017年時点で約128万人となり、25年間で50万人以上も増えました。

介護職の副業が国のモデル事業で推進!フリーランスなどの新しい...の画像はこちら >>
出典:『厚生労働省労働基準局提出資料』(厚生労働省)を基に作成 2021年7月2日更新

副業をしている人の本業の所得を階層別にみると、本業の所得が299万円以下の人が67.3%を占める一方で、1,000万円以上の人の割合も高くなっています。副業をしている人の割合が多い業種は、「林漁業・鉱業(16.6%)」「教育・学習支援業(15.4%)」「飲食サービス業、宿泊業(15.1%)」と続きます。「医療・福祉」は9.9%と平均の9.7%より高くはなっていますが、副業や兼業が進んでいる業種と比べると、まだ道半ばといったところでしょう。

副業をする理由として最も多いのは「収入を増やしたいから」が56.6%、「1つの仕事だけでは収入が少なすぎて、生活自体ができないから」が39.7%で続きます。

対して「自分で活躍できる場を広げたいから」は19.8%、「現在の仕事で必要な能力を活用・向上させるため」9.5%と、スキルアップなどの積極的な理由で副業をする人はまだまだ少ないようです。とはいえ、副業・兼業のニーズが高まりつつあるのは確かです。

介護職に広がるさまざまな働き方

異業種からの門戸を開くスキルシェア

副業・兼業のニーズの高まりを受けて、民間でも異業種からの人材を受け入れるサービスの開発などが進んでいます。そのひとつがスキルシェアサービス です。

スキルシェアとは、「個人の保有するスキル」を資産として捉え、そのスキルを必要とする事業者などの雇用主と、そのスキルを保有する個人とをつなげる考え方のことです。

介護現場では、専門的な知識がなくてもできる仕事が少なくありません。見守りや高齢者の話を聞く傾聴など、身体介護を必要としない仕事では、ほかのサービス業などでのスキルを活用することができます。

ちょっとした業務でも担える人材を活用することは、人材不足が深刻化した介護現場での負担を軽減することにもつながります。スキルシェアのようなサービスの普及は、今後の介護業界を支える柱になるかもしれません。

介護専門職のフリーランサーも登場

働き方のひとつにフリーランスがあります。会社や団体などに所属することなく、仕事に応じて自由に契約をする人を指します。仕事の案件ごとに、給与が発生するような働き方です。

現在、日本にいるフリーランサーはおよそ1,034万人にのぼるとされています。40代以上のミドルシニアが70%を占めています。

フリーランスを選択する人は「自分の仕事のスタイルで働きたいため」が57.8%、「働く時間や場所を自由にするため」が39.7%と、企業に縛られない働き方をしています。

介護職の副業が国のモデル事業で推進!フリーランスなどの新しい働き方に注目が集まる
フリーランスという働き方を選択した理由
出典:『フリーランス実態調査結果』(内閣官房)を基に作成 2021年7月2日更新

こうしたフリーランスを介護業界でも活用することができれば、人材不足を補うことにもつながります。例えば、結婚や子育てで離職した人材などを、案件ごとに活用するなどが考えられます。

実際にフランスでは、クリニックや療養施設、メンタルヘルス施設などへの人材派遣サービスが誕生。フランスには介護専門職のフリーランサーが多くおり、さらに収入面の向上もサポートされているのです。

まずは労働環境を整えることから

フリーランサーや副業の待遇改善も課題に

介護業界でのフリーランスや副業・兼業の活用が進めば、人材不足を解消するひとつの対策となるでしょう。しかし、そのためには越えなければならないハードルもあります。

そのひとつが収入です。 例えば、フリーランスの年収は、200万円以上300万円未満が19%と最多。仕事が安定しないという不安も常に抱えています。また、フリーランスと言っても、複数社と取引するケースは少なく、「1社のみ」と取引していると回答した人が40%を占めています。

労働条件を整備しなければ、介護業界で副業・兼業やフリーランスの活用を進める施策を実行しても、結局人が集まらないということになりかねません。

業務の明確化と分業化が必要になる

介護業界で新しい働き方を定着させるために必要なのは、どこの業務にどんな人材を充てるのかといった業務の明確化と分業化です。

例えば、従来の業務を一覧にし、専門職業務と非専門職業務で仕分けることで、専門職が身体介護を担当し、掃除や片付けを兼業や副業、フリーランスの人材、ほかにもICTを活用するなどしてコストを削減することも可能になります。

民間から生まれたスキルシェアや海外の事例に学び、うまく取り入れていくことも、介護業界の待遇改善には必要なことではないでしょうか。

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