高まる高齢者向け施設のニーズ

年々増加する有料老人ホーム

厚生労働省が公表した「社会福祉施設等調査(2020年)」によると、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)を除いた有料老人ホーム数は1万5,956件となり、同調査では過去最高の件数を記録しました。

急務となっている問題解決と、安全安心な老後の生活を送るための...の画像はこちら >>
出典:『社会福祉施設等調査』(厚生労働省)を基に作成 2022年02月11日更新

そのほかの高齢者向け施設も軒並み増加

有料老人ホーム以外の高齢者向け住まい・施設の数も増加傾向にあります。高齢者住まい事業者団体連合会は、2019年時点までの各施設の推移を調査しています。

それによると、認知症高齢者グループホームは1万3,721件、介護老人福祉施設(特養)は1万502件、サ高住は7,425件、介護老人保健施設(老健)は4,279件となっており、いずれも右肩上がりで増加しています。

その中でも有料老人ホームの増加率は群を抜いており、施設の増加数は2013年から2019年にかけて95,619件と、急激に増加していることがわかっています。

急務となっている問題解決と、安全安心な老後の生活を送るための多様なサービス展開が求められる有料老人ホーム
出典:『社会福祉施設等調査』(厚生労働省)を基に作成 2022年02月11日更新

言うまでもなく、背景にあるのは超高齢化社会です。団塊の世代が75歳以上となる2025年に向けて、今後もその需要が高まることが予測されています。

また、2006年に特養の入所条件が変更されたことにより、有料老人ホームが特養などの入所待機者の受け皿となったことも大きく影響し、現在は有料老人ホームの中でも「住宅型」が約7割を占めています。

有料老人ホームの事業課題

高齢者向け施設の主な違い

高齢者向け住まいや施設は、それぞれ運営主体が異なります。特養や老健は、社会福祉法人や地方自治体によって運営されており、医療や介護のケアが充実しています。費用は安く抑えられるものの、利用できる期間が短いといったデメリットがあります。

一方、有料老人ホームやサ高住、グループホームは民間が運営しており、費用が高い傾向があるものの長期間利用できます。特に有料老人ホームは主に「介護付」「住宅型」「健康型」に分類されます。

有料老人ホームの3つのタイプ 介護付 ホーム内で介護サービスを提供する施設。看護師や介護士などの人員基準、施設内の設備基準などが法令で明確に定められており、事業者の参入条件が厳しい。 住宅型 食事の提供や洗濯や掃除などといった生活支援のサービスが提供される高齢者向け施設。介護が必要になった場合、入居者の選択によって地域の訪問介護などのサービスを利用しながら居住を継続できる。
人員基準や施設基準について、法令での規定はない。 健康型 食事などのサービスが付いた居住施設。介護が必要となった場合は退去しなければならない。

サ高住も、有料老人ホームに近いサービスを提供していますが、サ高住は賃貸契約のみで入居できる一方で、有料老人ホームは施設の利用権を得る形で契約を結ぶという点において大きな違いがあります。

サービスの質について課題が生じている

施設の形態によって人員基準や設備基準が異なることで、さまざまな課題が生じています。特に、法的根拠がなく指導指針だけで設置できる住宅型有料老人ホームでは、多くの問題が発生しています。

全国有料老人ホーム協会の調査によると、「夜間の介護・緊急時に対応できる職員が配置されていない」「利用者との料金トラブル」「設備に問題がある」などの課題が指摘されています。

住宅型有料老人ホームは事業者が法的根拠に縛られることなく、比較的簡単に事業に参入できるため、こうしたトラブルが起こりやすいのではないかと考えられています。

本来、課題のある施設には自治体から指導がなされるべきですが、住宅型有料老人ホームは設置が届出制のため、自治体が実態を把握しづらいのです。

未届けの施設は年々減少しているものの、それでも一定の数が存在しています。

急務となっている問題解決と、安全安心な老後の生活を送るための多様なサービス展開が求められる有料老人ホーム
出典:『高齢者向け住まいの今後の方向性と紹介事業者の役割』(厚生労働省)を基に作成 2022年02月11日更新

住宅型有料老人ホームとは異なり、介護付有料老人ホームは自治体による指定が必要で、サ高住の場合は都道府県に登録しなければならないというルールがあります。そのため、自治体がすべての施設の実態を把握することができるのです。

今、住宅型有料老人ホームでは、適切な運営を促すための対策が求められています。

安心安全な有料老人ホームを実現する取り組み

過剰な減算項目でサービスの質を低下させるリスク

住宅型有料老人ホームの運営の工夫として、トラブルを避けるために、介護職員や看護職員を雇用して、介護サービスを提供している施設もあります。

ただ、住宅型有料老人ホームは、施設内での介護サービスの提供が認められていないため、同じ建物内に介護事業所を併設するなどして、利用者の需要に応えてきました。

しかし、一部でこうした対応が、特定の介護事業所にサービスの依頼が集中してしまい、利用者の「囲い込み」問題につながると問題視されています。

そこで厚労省は、「同一建物減算」「特定集中減算」という報酬減額の制度を設けました。

同一建物減算とは、住宅型有料老人ホームなどの建物と同一の所在地にある介護事業所が、該当の住宅に居住する一定の人数以上の利用者に対してサービスを提供した場合、介護報酬が10%減算されるという制度です。

また、介護事業所が作成した居宅サービス計画のうち、80%が同一の事業者によって提供されていた場合も減算されます。それが「特定集中減算」です。

これにより、住宅型有料老人ホームに入居する要介護者が、適切な介護サービスを受けられないのではないかという懸念も生じています。そのため、全国有料老人ホーム協会は、制度の見直しを国に求めています。

安心安全な老後の生活のためのさまざまなサービス

さらに、同協会が認定する「有料老人ホームあんしん宣言」などを策定。より良い有料老人ホームの運営を促進する取り組みを行っています。

今後も有料老人ホームは特養などの公的施設に入所できない待機者の受け皿として、需要の高まりが見込まれます。安心安全が担保された環境づくりは急務と言えるでしょう。

その一方で、有料老人ホームをはじめとした高齢者の住まい・施設には、施設内での介護サービスの充実だけでなく、介護予防への取り組みも求められています。

有料老人ホームの入居者のうち、自立から要介護度2までが約半数を占めており、重度な要介護者だけを受け入れているわけではありません。

急務となっている問題解決と、安全安心な老後の生活を送るための多様なサービス展開が求められる有料老人ホーム
出典:『高齢者向け住まいの今後の方向性と紹介事業者の役割』(厚生労働省)を基に作成 2022年02月11日更新

現在、企業や地域と連携して入居者に仕事を紹介する有料老人ホームも登場しています。

有料老人ホームは、高齢者の住まいとして重要な役割を果たしています。制度面での不備を是正し、適切な介護体制づくりに集中できるような環境を整備することは急務です。

そのうえで、利用者がいつまでも元気で、安全で安心な生活を送っていけるサービスを充実させていくことも求められているのです。

編集部おすすめ