東京都が示した認知機能が低下した高齢者へのサービス
「都市型高齢化社会」と呼ばれる東京の特殊な事情
超高齢社会となった日本では、今後地方だけでなく都市部でも人口減少に転じると見込まれています。
東京都の場合、一貫して人口が増加してきましたが、2025年には人口が減少する局面に突入すると見込まれており、それに伴って高齢化率も高まります。
東京都の発表によると、2020年時点の高齢者人口は都内人口の約23%を占めていますが、2050年には約31%まで達すると予測されています。
ある程度の人口規模を維持したまま高齢化が進むため、若い世代と高齢者が同じ地域に高い密度で生活するという特徴があります。
また、一人暮らしの高齢者世帯は1995年時点で約25万世帯でしたが、2040年には約70万世帯に達する見込みです。
こうした高齢者は、マンションなどで暮らすことが多く、近所付き合いが希薄で生活上のサポートがなかなか受けられません
東京都の高齢化は「都市型高齢化社会」とも呼ばれています。
高齢者が民間業者の重要顧客となる
都市型高齢化社会に備えるため、これまでは主に身体面でのハンディキャップに配慮し、交通機関や商業施設などのバリアフリー化などに取り組んできました。
しかし、今後はそれに加えて高齢者の認知機能や行動の変化に配慮したバリアフリーを目指すことが求められています。
認知機能が低下した高齢者は、その多くが在宅での生活を続けており、公的サービスだけでなく、さまざまな民間のサービスを活用しています。
そのため、民間業者にも認知機能に低下に着目したサービスが求められるのです。
例えば、「困ったときに相談にのってくれる」「知らないことを教えてくれる」「家事を手伝ってくれる」「病気になったときに病院に連れて行ってくれる」など、生活上のサポートが受けられるサービスに対するニーズが高まると予想されます。
そこで、東京都では民間業者に向けて、「高齢者の認知機能の特性に配慮したサービス提供」を発表しました。この中では、高齢者の認知機能の特徴を解説し、民間業者に高齢者をターゲットにしたサービスの開発を促しています。
高齢者の行動の特徴に合わせたサービス
高齢者特有の消費行動
近年、シニア向けのビジネスは活況を呈しており、各企業でさまざまな商品が開発されています。
「シニア層はほかの年齢層よりも裕福」というイメージが一般化されていますが、単純化できるわけではありません。
確かに金融資産は60歳以上のシニア層が全体の約6割を占めていますが、その多くが退職しており、平均所得は他の世代と比べて低くなります。

そのため、シニア層の消費行動は、他の世代に比べて特定のサービスに偏る傾向があります。
こうした傾向に加えて、高齢者は認知機能の低下によって、健康不安や経済不安、孤独不安などを抱えやすくなります。
その一方で、言葉でのコミュニケーション、他人の感情を推測する力、経験や学習によって得た知識など、ある程度維持される機能もあります。
都市部では「アクティブシニア」と呼ばれる経済活動に積極的な層も少なくなく、料理や音楽などの教室だったり、娯楽やレジャーなどに強い関心を抱く傾向もあります。
高齢者へのサービス提供に必要な視点
東京都が設置した「高齢者の特性を踏まえたサービス提供のあり方検討会」によれば、高齢者へのサービス提供に当たり、高齢者を「支援されるべき人」としてのみ捉えることは望ましくないと結論づけています。
中でも、自分自身でできることはできる限り自身で行ってもらい、できないことを本人の意思を汲んで支援する「補充性」を重要なポイントとして位置づけています。
例えば、スーパーマーケットのレジでは、認知機能の低下のために現金を数えることに時間がかかりやすくなります。また、近年導入が進むセルフレジの使用法を理解することが難しいことも少なくありません。
こうした高齢者に向けて、優先レジを設けたり、高齢者が優先して入店する時間帯を設けたりなどのサービスが考えられます。
また、銀行などの金融サービスでは、手続きが煩雑になりやすく、認知機能の低下した高齢者は適切な判断ができなくなる傾向があります。
そこで、金融業界では親族からの金融商品の売却依頼への対応や、事前に親族等を任意代理人として登録しておく制度などを設けるなどの対策が進められています。
拡大する高齢者市場に対する民間の取り組み
シニア女性が消費をリードする可能性
超高齢社会の特徴の一つに、健康寿命の男女差があります。厚生労働省の資料によると、男性の健康寿命が72.68歳なのに対し、女性は75.38歳で約3年ほど高いことがわかっています。

医療技術の進化もあり、健康寿命は年々伸びており、この傾向は今後も続くといわれています。
日本能率協会が公表した「高齢者ライフスタイル構造基本調査2018」によると、シニア女性は、同世代の男性よりも加齢によって外出頻度が低くなる傾向が示されています。
これは、女性のほうが関節に関する疾患になりやすく、外出が難しくなるからだと考えられます。実際に、同協会の調査ではシニア女性は高齢者向けシューズの利用率が男性よりも高くなっています。
また、外出が制限されるため、訪問販売や通販へのニーズも高まります。近年はスマートフォンの普及や新型コロナの外出制限によって、高齢者でもインターネット通販を利用する機会も増えており、新しい生活様式に沿ったシニア女性のニーズが高まっています。
超高齢化社会に伴って、こうしたシニア女性向けのサービスも増えていくことが予想されます。
QOL向上を願う高齢者層のニーズを的確に捉える
高齢者は、健康不安などからQOL(生活の質)向上のニーズが高まりやすくなります。加えて、外出頻度が低下することから、「手軽で健康に良い」が大きなキーワードになります。
近年、シニア女性などに人気を博したのは「オートミール」です。オートミールは、米に比べて食物繊維やカルシウム・鉄分などのミネラル、代謝に必要なビタミンB群が豊富に含まれるとあって、女性を中心に広まっています。
近所のスーパーやコンビニだったり、インターネット通販などで安く簡単に手に入ることもシニア女性のニーズを満たしました。
また、専門家によれば、コロナの感染拡大が収まった後は、高齢者層を中心に小旅行などが人気になり、高齢者向けシューズも活況になると予測されています。
このように、都市部でも超高齢化社会が進展する中、高齢者をターゲットとしたサービスに注目が集まっています。
健康寿命が男女ともに伸びている中、高齢者の消費は今まで以上に増えていくでしょう。
その中で企業が求められるのは「高齢者の暮らしを補う」という視点です。支援をしすぎず、高齢者の意向を尊重するサービスが求められています。
今後はいかに企業が、高齢者のニーズを的確に捉えていけるかが重要です。