厚労省、福祉用具の適正化策を検討
福祉用具の在り方に関する検討会を開催
厚生労働省は2022年2月17日に、介護保険制度における福祉用具貸与・販売種目のあり方についての検討会を開催しました。
検討会が開催された背景には、財務省の諮問機関である財政制度等審議会が社会保障費を抑制するために、介護保険制度の改革について提言したことがあります。
検討会では主に以下の2つのことが議論されました。
1.これまで「貸与」を基本原則としてきた介護保険制度上の福祉用具の扱いについて、歩行補助杖、歩行器、手すりなど廉価な福祉用具を貸与から販売に切り替える。
2.介護報酬の引き下げを巡り、福祉用具貸与のみの場合のケアプランの扱いについて。
介護保険における福祉用具とは
福祉用具とは、要介護者などの日常生活を支え、機能訓練のための用具です。利用者が住まいで自立した生活を送ることができるようサポートするもので、保険給付の対象となっています。
今現在、福祉用具は「貸与」を原則としています。これは利用者の変化しやすい身体状況や要介護度の変化に対応し、福祉用具の機能に応じて適時、適切な福祉用具を提供するためです。
一部、他人が使用したものを再利用することに抵抗があるものや、使用により形態や品質が変化してしまうものについては、購入費を保険給付の対象としています。
介護保険制度は2000年に創設され20年以上が経ちました。2021年4月末現在、創設当時と比べ65歳以上の被保険者数は1.7倍に、介護サービス利用者は3.3倍に増加し、今や介護保険制度は高齢者介護において必要不可欠なものとなっています。
同時に福祉用具貸与の受給者数も年々増加傾向にあります。
出典:厚生労働省『介護給付費実態調査(各年4月審査分)』を基に作成 2022年03月16日更新焦点は介護保険給付費の抑制
購入より貸与のほうが給付費が掛かるものもある
冒頭の財政制度等審議会の提言の目的は、介護保険費用抑制です。
2020年11月に行われた「財政健全化に向けた建議」において、財政審は要介護度に関係なく給付対象となっている福祉用具を貸与ではなく販売にするべきと提言しています。
併せて自己負担が1割の人が歩行補助杖を3年間使用した場合、貸与と購入でかかる費用を比較し、貸与の方が約40万円以上の余計な費用がかかっているという結果を示しました。
また、厚生労働省の「予算執行調査」によると、福祉用具貸与のみのケアプランは全体の6%ですが、その内容の7割が廉価な品目が占めているということがわかりました。
福祉用具の貸与・販売の仕組みがある韓国では、歩行補助などの廉価な品目は、貸与ではなく、販売となっています。
今回の検討会では、介護保険給付費の抑制のために、廉価な品目を貸与から販売に切り替えることが提案されました。
必要のないケアプランも介護保険費を圧迫している
他にも介護保険給付費のために、2021年4月に行われた「財政健全化に向けた建議」では、福祉用具貸与だけのケアプランの作成については、報酬の引き下げを行うことを提言しました。
ケアマネに関するアンケート調査によると、「過去1年以内に法人や上司からの圧力で、自法人のサービス利用を求められた経験がある」と回答したケアマネは25%いました。
さらに、自身の経験でなくとも、そういうことを目聞きしたことがあるかという問いでは、40.2%のケアマネが「よくある」「ときどきある」と回答しています。
介護報酬算定のため、本来なら必要のない福祉用具貸与などのケアプランを作成した経験のあるケアマネが約15%いることも明らかになっています。

こうした、本来必要のない福祉用具貸与のケアプランが、介護保険費を圧迫しています。 福祉用具を貸与ではなく購入にすることで、毎月のケアプラン作成等のケアマネジメントにかかる費用も削減することができます。
しかし一方で、福祉用具貸与のみのケアプランについても、ケアプランにより提案された福祉用具の利用で、他の人的サービスを使わなくても良い状態をキープできている場合もあり、介護保険費用の抑制になっていのではという声も上っています。
利用者への効果的かつ効率的な提供が望まれる
現状把握のため調査研究を実施
福祉用具利用者の実態を把握するため、2021年に厚労省は福祉用具の長期利用者の状態やケアマネの支援状況に関する調査研究を実施しました。
その結果、要介護度が低い利用者の場合は、ADLの維持・向上や生活範囲の維持・拡大のために、要介護度が高い利用者の場合は、介護負担の軽減や介護者の希望による、という違いがありました。
また、3年以上福祉用具を利用している人で、1種のみを利用している人は、要支援~要介護1の割合が多く、その場合の要介護度の変化では、半数以上の対象者が現状を維持できているようです。
福祉用具貸与のみケアプランについては、サービスの開始時及び継続時において、利用者の状態を踏まえ、他の介護サービスを利用する必要はないとケアマネが判断している場合が最も多いようですが、サービス開始時においては、利用者の介護拒否感により他の介護サービスの導入が難しい場合も少なくないそうです。
サービス利用者の増加とともに身近に
前段でも述べた通り、介護保険制度創設時と比較して、65歳以上被保険者数は2,165人から3,581万人(約1.7倍)に、サービス利用者数は149万人から507万人(約3.3倍)に増加し、福祉用具は高齢者の生活においてとても身近なものになっています。
原則貸与とされている福祉用具については、種目によっては購入した方が合理的とされているものがある一方、利用開始から返却までに要する期間をみると、65%が1年未満となっており、その利用期間は比較的短期間であることも調査結果でわかっています。

福祉用具の安全性の確保や適時、適切な利用という観点でいうと、購入で完了してしまうと、その後のケアマネによるモニタリングが困難で、安全に利用できているか。利用している福祉用具は今の状況に適しているか。などの経過観察が難しくなってしまいます。
福祉用具の利用者、とりわけ高齢者は、短期間で状態が急速に変わることがあります。そのため、貸与を販売に切り替えると、福祉用具の定義でもある利用者が適時、適切な福祉用具を利用できる仕組みを妨げることになりかねません。
今回開催された「介護保険制度における福祉用具貸与・販売種目のあり方についての検討会」は、2024年度に予定されている介護報酬改定を見据え、2022年夏までに中間の取りまとめを行うと予定されています。
政府はこうした問題点を踏まえ、介護保険費抑制と福祉用具福祉用具が利用者に効果的かつ効率的に提供される、福祉用具の適正な在り方について慎重に議論することが重要です。