今年10月から新たな処遇改善加算がスタート

第三の処遇改善加算「ベースアップ等支援加算」

岸田政権の目玉政策として、今年2月から介護職の給与が3%(9,000円)アップされました。

この政策は、さまざまな議論を呼びましたが、10月に行われる臨時改定によって正式に「ベースアップ等支援加算」として認められることになりました。

ベースアップ等支援加算での加算額はこれまでと変わらず、介護職員1人当たり月額平均9,000円の賃金引き上げに相当する額とされています。

算定要件は次の2つです。

  • 処遇改善加算Ⅰ~Ⅲのいずれかを取得している事業所(現行の処遇改善加算の対象サービス事業所)
  • 加算額の3分の2は介護職員のベースアップ等(主に基本給)に使用すること

申請は8月から受けつけ、12月から毎月支給される見込みです。

これまでの補助金との違い

今後は加算になるため、改定による廃止がない限り続けられる可能性が高く、介護職員にとってはメリットも少なくありません。

しかし、2月から行われてきた介護職の給与アップは、国庫を財源としていましたが、加算に移行されることで、社会保障費が財源となります。

つまり、ベースアップ等支援加算の分だけ利用者の負担が増えることになるのです。

さらに、介護費用は原則的に利用者が1割負担とされていますが、財務省は原則2割負担への引き上げを提言しており、実現すれば利用者負担は大きくなります。

その背景には、社会保障給付費の増大があります。1980年には24.9兆円でしたが、2021年には129.6兆円にも伸びています。

「ベースアップ等支援加算」が処遇改善加算に追加。10月から介...の画像はこちら >>
出典:『財政制度分科会資料』(財務省)を基に作成 2022年05月06日更新

2021年予算のうち129.6兆円の財源は、72.4兆円が全国民から徴収される社会保険料と、残りは公費などで賄われています。そのうち国庫負担は35.7兆円に上っています。

財政健全化のためには、この国庫負担を軽減する必要があります。しかし、社会保険料はすでに限界まで高くなっているため、国民一律での負担をこれ以上重くするわけにはいきません。

そこで、財務省は特に増加率の高い介護給付費の抑制に目をつけ、利用者負担を2割に引き上げることを検討しているのです。

そうなれば、新たな加算の追加で費用が増えたうえに、利用者負担の2割引き上げで、介護保険の利用者はさらなるコストを強いられることになります。

介護事業者の圧迫は必至

介護事業者への給与負担は大きくなる

そもそも加算制度には問題点が多くあります。加算は各事業所の稼働率などに左右されるため、今回のベースアップ等支援加算も一定金額の賃上げが保証されているというものではありません。

あくまでも売上×加算率で給付された金額を事業所内でさらに分配していくというシステムなので、事業規模が小さい事業所や、分配対象となる職員が、人員配置基準よりも多く在籍している場合、事業所の持ち出しで支払われているケースも多いのです。

1事業所当たりの介護事業費の割合を見ると、すべてのサービス種別で6割以上が給与費となっています。

「ベースアップ等支援加算」が処遇改善加算に追加。10月から介護職員の給与がアップ!?
1事業所当たりの給与費の割合
出典:『公的価格評価検討委員会第4回資料』(内閣官房)を基に作成 2022年05月06日更新

さらに、ベースアップ等支援加算を算定するために給与費が増大すれば、介護事業者の経営を圧迫しかねません。

現場の介護職員を減らす議論も

介護事業者の経営を圧迫せずに、介護職の平均給与を上げるためには、現場で働く介護職員を人員配置基準に合わせて適正化していく必要があります。

つまり、現状で人員配置基準より多く職員が在籍している事業所は減らしていかなくてはならないのです。

そこで、2024年度介護報酬改定で新たな議論になりそうなのが、デジタル活用による人員配置基準の緩和です。

これは、介護ロボットなどを活用することで1事業所あたりの人員配置を減らすというものです。実際に先進的な事例では、人員配置を減らして介護サービスの質を維持している事業所もあります。

例えば、東京都大田区の社会福祉法人善光会では、ICT機器や見守りロボットなどを活用することで、職員1人当たり利用者2.8人という比率を実現しています。これは全国平均の配置人数よりも約29%も少なくなっています。

大切になる介護費用と人員とのバランス

介護費用の見える化も行われる可能性

さらに、政府は介護事業者が支払う介護費用についての見える化を検討しています。その柱にされているのは以下の4つです。

  • 人件費以外の費用や積立金の分析
  • 人件費の職種間の配分状況
  • 収入・支出および資産の関係
  • 計算書類・事業報告書の記載項目の充実による見える化

これにより、政府はさらなるデジタル化を目指すとしており、今後の介護事業は大きな変化を求められることになるかもしれません。

その際、介護事業者にはこれまでとは異なる取り組みが必要になる可能性もあり、現在軽減を目指している事務負担を強いられるという事態になりかねません。

制度改革と現場に生じるズレ

このように、介護職の給与に関する加算は、社会保障費や人員配置、業務効率化などと大きく関連しており、一体的な取り組みが必要なことは明らかです。

政府は、そのための改革案を次々と打ち出していますが、そのスピード感に追いつけない現場も少なくありません。

例えば、業務効率化の柱として推進されてきた科学的介護の「LIFE」ですが、現場では負担となっている実態も明らかになっています。

厚生労働省の調査によると、LIFEの入力に関する月当たりの平均時間では、アセスメントが14.6時間、記録ソフトへのデータ入力が12.5時間、LIFE上での直接入力が4.6時間かかっています。

また、LIFE未登録の事業者がLIFEを活用したいと思わない理由を尋ねたところ「データを入力する職員の負担が大きい」が63.8%を占めています。

「ベースアップ等支援加算」が処遇改善加算に追加。10月から介護職員の給与がアップ!?
職員の負担が大きいと考える事業所の割合
出典:『介護給付費分科会第209回資料』(厚生労働省)を基に作成 2022年05月06日更新

このように、改革と現場の間にはズレが生じていると考えられます。こうしたズレをいかにして解消していくかも考慮すべきではないでしょうか。

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