需要と供給がアンバランスな総合事業の問題点

提言したのは介護の専門家がいない財政制度分科会

2022年4月13日に財務省で開催された財政制度分科会で、「要介護1・2の人を総合事業へ移行する」という議論が行われました。

もしこれが現実になると、介護保険制度を誰もが平等に利用できなくなるのではないかと危惧されています。

財政制度分科会とは、予算や決算など、国の財政について審議を行う財務大臣の諮問機関です。

諮問機関とは、省庁の求め、または自ら進んで調査審議を行い、参考となるべき意見を提言する権限を持つ機関です。 法令上では、国や地方公共団体の執行機関や行政機関に附属する機関として設置されるものです。

つまり、財政制度分科会は財務省から依頼を受け、社会保障について地方財政など多岐にわたる内容から議論して、財務省に提言を行う役割を担っています。

議論される社会保障の分野は、介護だけでなく、新型コロナウイルス感染症への対応、医療、障がい者福祉、子ども・子育てなども含まれています。ちなみに、参加委員には医療や介護福祉などの専門家は入っていません。

この分科会では「このまま増加し続ける社会保障費をどのようにしたら持続可能な保障制度として維持できるか」を、介護保険サービスを細かく見ながら検討していくものだと考えられます。

要介護1・2の方の総合事業への移行がはらむ問題

総合事業は、正式名称を「介護予防・日常生活支援総合事業」といい、市町村が行う地域支援事業の一つです。

比較的軽度な要支援1・2の方を対象とした介護予防給付のうち、ホームヘルプ(訪問介護)、デイサービス(通所介護)を切り離すとともに、要支援・要介護認定を受けていない高齢者も対象にした介護予防事業と統合した形になっています。

2015年4月の制度改正で実施が決まり、2018年3月までに全市町村が段階的に移行しています。

具体的なサービス内容は、以下の通りです。

訪問型サービス

掃除、洗濯などの日常生活上の支援。そのほか、多様なサービスとしてA~Dのサービス種別があります。

  • A:生活援助など
  • B:住民の自主活動として行う生活援助など
  • C:保健師などによる居宅での相談指導
  • D:移動支援
通所型サービス

機能訓練や集いの場など、日常生活上の支援。

そのほか、多様なサービスとしてA~Cのサービス種別があります。

  • A:ミニデイサービス、運動など
  • B:運動など、住民主体の自主的な通いの場
  • C:運動器の機能向上や栄養改善のプログラム

総合事業は、各市町村の判断による報酬・基準の緩和が認められており、住民やボランティアなど多様な事業主体の参入が期待されています。

しかし、とても複雑な構造になっており、要介護1・2の方の総合事業への移行ということになれば、大きな問題が生じる可能性があります。

2015年4月の改正で、要支援1・2の方が総合事業への移行された際、「事業主体となる団体や住民が本当にいるのだろうか?」と疑問視されていました。

制度開始当初は参入があったものの、その後ほとんど参入が続いていません。一方で、総合事業の対象者となる要支援者数は年々増加しています。

サービスが受けられなくなる可能性も⁉総合事業の要介護1・2の...の画像はこちら >>
出典:『令和元年度 介護保険事業状況報告(年報)』(厚生労働省)を基に作成 2022年06月16日更新

つまり、改正から7年が経過した今でも、需要と供給がアンバランスなのです。特に、訪問型サービスを望む利用者が事業者を探すことに時間がかかり、すぐに利用できないケースも少なくありません。

担い手不足の原因は高齢化と低い報酬

担い手の高齢化が深刻

厚生労働省が2020年に行った『介護予防・日常生活支援総合事業及び生活支援体制整備事業の実施状況に関する調査研究事業』には、総合事業を行うサービス事業者の伸び悩みが明確に示されています。

その報告によると、以前とは異なる多様なサービスを実施している市町村は、訪問型サービスで1,051市町村(61.1%)、通所型サービスで1,193市町村(69.4%)でした。現状で、まだ3~4割の市町村で整備が遅れています。

また、サービスの実施事業所数(団体)は、訪問型で4万2,034ヵ所、通所型で5万257ヵ所で、2017年当時と比較すると訪問型は約1,000件の減少、通所型はほぼ横ばいの状況です。

サービスが受けられなくなる可能性も⁉総合事業の要介護1・2の受け入れが危ない理由
サービス実施事業所数の推移(訪問型サービス)
出典:『介護予防・日常生活支援総合事業及び生活支援体制整備事業の実施状況に関する調査研究事業』(厚生労働省)を基に作成 2022年06月16日更新

増えない理由としては大きく2点あるのではないかと考えられます。

まず、担い手となる地域住民が高齢化している点です。日常的にサービスができる方となると、現役で仕事をされている方には困難なので、自ずと退職している高齢者がメインになります。

つまり、高齢者が高齢者を支えているわけです。総合事業が開始された当初は、その理念を果たそうと賛同した方々が手を挙げて参入してくれましたが、中には年齢を重ねられ、後継者に悩んでいる事業者も少なくありません。

先述の調査研究事業のアンケートにも以下のような課題が挙げられています。

  • 次の世代の実施主体や担い手がいない
  • 現在、実施主体や担い手がいない
  • 地域にニーズがあるか把握が難しい
  • 総合事業に位置づけることにより実施主体の事務負担が大きくなる
  • 地域住民による活動が生まれない
  • 担い手の育成方法がわからない

総合事業の報酬が低い

これらの担い手不足となる理由には、報酬の低さもあると考えられます。

介護事業所が総合事業で受け取れる報酬は、全国一律の介護報酬ではなく、市区町村ごとに単価や利用料を決定しています。2021年の介護報酬改定で上限額が弾力化されましたが、自治体の経済力にも左右されるため、「報酬が見合わない」とする事業所も少なくありません。

担い手を増やすためには、現役の方にも参入してもらう必要がありますが、実際には報酬が低いために、現役世代が働こうと思える環境とはいえません。

結局、総合事業の理念に賛同する人だけで支えることになり、担い手が高齢化するばかり…といった悪循環に陥っているのです。

総合事業を推進するための受け皿が必要

過去には厚生労働省でも議論されていた

今でも需要と供給がアンバランスな総合事業の対象が要介護1・2の方まで拡大されれば、サービスそのものを受けられないケースが生じかねません。

過去、厚生労働省は要介護1・2の方の介護費用のうちデイサービス18.9%、ホームヘルプ8.9%を地域支援事業へ移行していくと提言していました(『2019年度介護保険事業報告年報』より)。

こうした提言は、デイサービスやホームヘルプの事情を根拠としています。

例えば、デイサービスはサービスの種類や内容・人員基準・単価などが全国一律となっています。

そこで、地域の実情に応じて、ボランティアなど、住民主体の取り組みなど効果的・効率的なサービス提供を実施すれば、総合事業への移行も可能だと主張しています。

また、ホームヘルプのサービスの約3割は、調理や掃除、洗濯などの生活援助です。そのため、総合事業でも対応可能だと考えられているのです。

受け皿をつくることが大切

これらの提言が、2024年から開始される第9期介護保険事業計画にどれだけ盛り込まれるかは不透明です。医療介護福祉の関係団体もさまざまな要望や意見を出しており、反対の声も聞かれます。

町田市医療と介護の連携支援センターでセンター長を務める長谷川昌之さんによれば、「要支援1・2の方が総合事業のサービスを受けるために複数の事業所に連絡をしてようやく探し当てるという状況に何度も直面している」そうです。

このように、現状でも厳しい状況にもかかわらず、その枠組みに要介護1・2の方が入るのは現実的といえません。

総合事業の考え方そのものは決して悪いものではありません。地域の実情に合わせて多様な主体(特に地域住民)が、同じ地域の住民を支えていく取り組みは、まさに包括支援センターで取り組むべき地域包括ケアシステムの構築・推進と重なります。

ただ、この理念を推進するためには国や都道府県、市区町村がビジョンを持って担い手を育て、受け皿をつくらなくてはなりません。

こうした受け皿を増やすために何が必要なのか、地域住民が一体となって自治体に働きかけていくことが大切になるでしょう。

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