福祉用具専門相談員の資格に更新制が導入される?
厚労省の有識者会議で有識者が「更新制」の導入を提案
2022年5月、介護保険サービスの福祉用具貸与・販売に関する厚生労働省の有識者会議の場で、「福祉用具専門員相談員」の資格に関する議論が行われましたが、その場で複数の委員が、同資格に対する「更新制」の導入を提案しました。
厚生労働省としてはこの会議の内容を受け、今後の制度改正における論点の一つとして扱っていくと考えられます。
ただし、現状ではまだ施策内容が具体的に決まっているわけではなく、更新制を導入するかどうかについても、今後さらに検討を勧めていくようです。
福祉用具専門相談員は、福祉用具貸与・販売事業所の運営基準により2人以上の配置が規定されている専門職です。
現行制度では資格を取得した後に更新の手続きなどは必要ない状態でした。その状況にメスを入れる議論が、現在本格化しているわけです。
実際に更新制を導入する場合、更新時に研修の受講も必要になると予想されます。
現在福祉用具専門相談員の資格を持っている人・これから取得を考えている人は、今後資格のあり方をめぐってどのような議論が行われるのか、引き続き注目していく必要があるでしょう。
福祉用具専門相談員は10年間で約1万3,000人増加
福祉用具専門相談員とは、介護を必要とする高齢者または障害者に、福祉用具の選び方や使い方を助言・指導する専門職です。福祉用具を使用しながら介護をしている家族から、利用方法の相談されることもあります。
職場となるのは福祉用具貸与・販売事業所であり、具体的な仕事内容は、福祉用具の選定相談、福祉用具サービス計画の作成、福祉用具を利用している人の適合チェックや取り扱い説明、利用者を定期的に確認するモニタリングなどです。
福祉用具専門相談員になるには、都道府県の指定を受けた研修事業者が実施している「福祉用具専門相談員指定講習」を受講しなければなりません。講習は計50時間で、受講後に修了評価の試験が行われ、それに合格すれば資格取得という形になります。
しかし、試験があるとはいえ、不合格の場合でも補講を受けたり、レポートを提出したりすることで合格できる学校もあるため、基本的には受講者のほぼ全員が合格可能です。受講資格・要件などもなく、指定講習を修了するだけで誰でも資格取得できます。
高齢化が進み、要介護認定を受ける人が年々増えている中、それに合わせて福祉用具専門相談員の数も増加しています。
厚生労働省の資料によると、福祉用具専門相談員の従事者数は2010年時点では2万1,366人でしたが、2020年には3万4,437人にまで増加。10年間で約1万3,000人も増えています。
出典:『介護サービス施設・事業所調査』(厚生労働省)を基に作成 2022年06月28日更新福祉用具専門相談員の資格を更新制にする理由とは?
更新制にすべきとの主張の背景にある知識・能力向上の要求
5月に行われた有識者会議では当初、「福祉用具専門員には最新の知識が求められる」との認識のもと、福祉用具専門相談員の能力を高めるためにはどのような取り組みを進めていくべきか、というテーマで議論されていました。
そして会議が進む中、能力向上を進める方策の一つとして、委員の中から福祉用具相談員に対する追加的な研修を行うべきとの要請が出され、そのためには資格の更新制が必要であるとの意見が出たのです。
つまり、福祉用具専門相談員資格に対する更新制の要求は、福祉用具に対する知識・取り扱い能力の向上を理由としたものだといえます。
こうした福祉用具専門相談員に対する能力向上を求める議論は、以前から起こっていました。
例えば、2013年に開催された「第54回社会保障審議会介護保険部会」の資料の中でも、「より専門的知識及び経験を有する者の配置を促進していくことについて検討する必要がある」との指摘がすでになされています。
長年議論されて続けてきた結果、2022年になり更新制の提案という形で本格的な検討が始まったと言えるわけです。
福祉用具専門相談員に求められる最新知識の更新
福祉用具専門相談員が扱う福祉用具は、福祉用具貸与サービスの対象である13品目、福祉用具販売の対象である5品目です。要介護認定を受けている人が対象品をレンタル・販売する場合、介護保険の適用を受けることができます。
具体的には、福祉用具貸与の対象となるのは以下のとおりです。
- 特殊寝台
- 特殊寝台の付属品
- 移動用リフト
- 床ずれ防止用具
- 体位変換機
- 車いす
- 車いすの付属品
- 手すり
- スロープ
- 歩行器
- 歩行補助杖
- 徘徊感知機器
- 自動排泄処理装置
福祉用具販売については「腰掛便座」「自動排泄処理装置の交換可能部品」「移動用リフトの吊り具の部品」「簡易浴槽」「入浴補助用具」が該当します。
これら福祉用具は、品目自体は規定されているものの、品目ごとに福祉用具製造企業が最新のものを次々と開発・販売していきます。そのため、利用者に対して適切な製品紹介を行うには、製品知識の更新は必須です。
福祉用具に対するニーズは年々増えており、例えば介護保険の福祉用具貸与サービスの利用者は、厚生労働省の資料によると2009年当時は約104万人でしたが、2021年には約250万人にまで増えています。ここ12年ほどの間に2.5倍近くも増えているのです。

福祉用具専門相談員の資格取得のハードルは上がる?
約半数の事業所で、研修・教育などが行われていない現状
最新知識が求められる福祉用具専門相談員ですが、各福祉用具貸与・販売事業所においてしっかりと研修が行われているかというと、必ずしもそうではないようです。
一般社団法人日本福祉用具供給協会「福祉用具貸与事業者の人材育成に関する調査研究事業報告書」によると、全国の福祉用具貸与事業者にアンケートを行ったところ(n=256)、「個別の福祉用具専門相談員ごとの育成計画」については「作成していない」が全体の50.4%を占める結果となっています。
約半数の事業所が、各福祉用具専門相談員のレベルに応じた研修・教育などを一切行っていないわけです。
さらに、人材育成の仕組み作りにおける課題について尋ねた質問では(複数回答可)、「人材育成計画通りに進まないことが多い」が41.0%を占め最多となっていました。
たとえ人材育成計画を策定しても、業務の多忙さなどの影響もあってか、計画倒れになることが多いのが現状であるわけです。

こうした現状を踏まえると、福祉用具専門相談員の製品知識更新・能力向上を各事業所に任せるだけでは限界があるのは確かなようです。
更新時のポイントは「受講時間」と「費用」
福祉用具相談員資格に更新制を導入した場合、これから資格取得を考える人にとってポイントになるのは、更新時の「受講時間」と「費用」です。
現在、福祉用具相談員資格を取得するには、スクーリング(通学講座)で50時間の研修を受ける必要があります。
車いすをはじめ、福祉用具貸与・販売の対象となっている品を実際に手で触れて構造・操作を学ぶ必要があるため、通信講座などによる受講は難しいのです。
資格取得にかかる費用は地域・学校によって多少差はありますが、おおむね4~6万円ほどとなっています。自費で負担するとなると、大きな金額です。
これらはあくまで資格取得に関するデータですが、更新の際はどのくらいの時間・費用がかかるのかは、更新制導入の議論における重要な検討内容と言えます。
更新に必要な時間制約・費用負担があまりに大きければ、資格を取得しようとする人の減少、更新せずに資格を失効する人の増加につながるでしょう。
今回は、福祉用具相談員の資格で更新制の導入が検討されていることをテーマとして分析・考察をしてきました。更新制導入に向けて今後どのような動きがあるのか、引き続き注目を集めそうです。