厚労省が2023年4月から「ケアプランデータ連携システム」を開始

介護保険最新情報Vol.1096にて改めて通知

2022年9月6日、厚生労働省が「介護保険最新情報Vol.1096」を発出し、各自治体に対して、2023年4月から本格稼働する「ケアプランデータ連携システム」について、利用可能な環境も含めて内容に関する解説を行いました。

ケアプランデータ連携システムは、居宅介護支援事業所と他の介護サービス事業所との間でやりとりされているケアプランの情報(予定や実績)を、オンライン化するシステム。

これまでの紙を使ったやり取りをなくし、介護職の事務負担を減らし、費用の削減を図るのが導入の目的です。

厚生労働省の試算によると、このシステムを導入することで、一事業所あたり年間平均で約81万6,000円、毎月6万8,368円のコストカットを図れるとのこと。

削減した費用分を、職員の給料アップや人手不足の解消、職場環境の改善に充てられるとも指摘しています。

2023年4月より"ケアプランデータ連携システム"が本格稼働...の画像はこちら >>
出典:『介護保険最新情報Vol.1096』(厚生労働省)を基に作成 2022年10月06日更新

厚生労働省のスケジュールによると、ケアプランデータ連携システムの開発は2023年1月まで続き、来年2~3月にかけて自治体を限定してパイロット運用を行う予定。2023年4月からの本格稼働に向けて、介護分野における注目が高まっています。

ケアプランデータ連携システムとは

では、ケアプランデータ連携システムとは具体的にどのような仕組みなのでしょうか。

厚生労働省によれば、同システムは居宅介護支援事業所と各介護サービス事業所のパソコンで利用できる「ケアプランデータ連携クライアント」のソフトと、運用センターに設けられる「ケアプランデータ連携基盤」により構成されるとのこと。

ケアマネージャーが利用者のケアプランに関するデジタルデータを、「ケアプランデータ連携クライアント」を使ってネット経由で運用センターに送付。運用センターは「ケアプランデータ連携基盤」においてそれを保管します。

そして各介護サービス事業所の担当者は、「ケアプランデータ連携クライアント」を通して、保管されているケアプランのデータをネット経由でやり取りできるという仕組みです。

「ケアプランデータ連携クライアント」は、国保中央会のホームページからダウンロードし、全国の居宅介護支援事業所・各介護サービス事業所で利用できるようになるといいます。

これまでは、ケアマネがケアプランについて各介護サービス事業所とやり取りする場合、いちいち書類を作成し、郵送するのが常でした。しかし、ケアプランデータ連携システムを導入することで、すべてオンライン上で行えるようになるわけです。

ケアプランデータ連携システムが導入された背景とメリット

ICT(情報通信技術)の導入による負担軽減の必要性

ケアプランデータ連携システムの導入が進められた背景にあるのが、介護現場の業務負担軽減、とくにICT(情報通信技術)の導入による事務負担軽減の必要性です。

特に、ケアプラン作成など介護の中心的役割を担うケアマネの業務負担が大きいことは、以前から各種アンケート調査でも明らかになっていました。

例えば、愛媛県介護支援専門員協会が2019年にまとめた「介護支援専門員の意識調査アンケート集計結果報告書」によると、県内のケアマネに「業務負担感」を尋ねたところ、過半数の57%が「負担あり」と回答しています。

同調査ではケアマネの「書類作成や保険者の手続きの多さ」に対する意見も提示され、「モニタリング訪問はきちんと出来ているが、毎月の書類が多く、たまっていく一方で負担になっている」「とにかく書類が多い。昼訪問して夜に書類をさばいている」などの意見が示されています。

こうした書類作成の事務負担が大きいのは、ケアマネ同様、各介護サービス事業所においても同じです。こうした状況を踏まえ、ICTの導入により負担軽減を図り、サービスの業務効率をアップさせようというのが厚生労働省の狙いです。

この点は、2022年5月19日に行われた岸田首相と介護職員との車座対話の中でも取り上げられました。

その際に首相は、「ICTを介護の現場の皆さんの負担軽減、さらには介護サービスの質向上という観点からも活用する、これは大変重要な視点ではないか、こうしたことも感じました」と述べています(首相官邸のホームページより)。

この首相の見解を実現するシステムの一つが、ケアプランデータ連携システムであるわけです。

導入による最大のメリットは人件費削減

介護現場にとってケアプランデータ連携システムの導入の大きなメリットは、事務負担が大きく軽減されることで残業時間などが減り、それに伴って残業代・人件費を大幅に減らせるという点です。

厚生労働省の試算によると、システム導入によって削減できる年間費用約81万6,000円のうち、約75万は人件費の削減です。

月あたりで計算すると、それまではケアプランのやり取りだけで毎月9万5,218円の人件費が発生していましたが、システムの導入により3万2,784円まで減らせるとのこと。試算通りであれば、かなりの費用削減が可能です。

2023年4月より"ケアプランデータ連携システム"が本格稼働。年間平均80万円のコストカットに期待
ケアプランデータ連携システム導入による人件費削減効果
出典:『介護保険最新情報Vol.1096』(厚生労働省)を基に作成 2022年10月06日更新

人件費を削減できれば、事業所としての収支状況を大幅に改善できます。

業績が悪化している事業所にとっては、導入の価値があるシステムと言えるでしょう。

ケアプランデータ連携システム導入によって懸念される点も

導入により事務費用もカットできる

ケアプランデータ連携システム導入による費用削減効果は、人件費がメインとなるものの、事務にかかる費用の面でも期待できます。

厚生労働省の試算によると、毎月約7,000円かかっていた事務の経費を、システム導入によって月当たり1,044円まで減らせるとのこと。毎月の減少額は5,935円となり、年間でみても7万円以上の費用削減につながります。

2023年4月より"ケアプランデータ連携システム"が本格稼働。年間平均80万円のコストカットに期待
ケアプランデータ連携システム導入による事務費用削減効果
出典:『介護保険最新情報Vol.1096』(厚生労働省)を基に作成 2022年10月06日更新

費用の内訳を見てみると、従来はケアプランのやり取りを事業者間で行う場合、平均で通信費(電子共有費、FAX代)が1,826円、印刷費792円、郵送費2,220円、交通費2,140円がかかっていたと試算されています。

紙の書類を作成する必要がある場合、やはり印刷費や郵送費、さらに郵便局への行き来などにかかる交通費(ガソリン代)が必要です。

しかし、ケアプランデータ連携システムを導入することで、紙のやりとりがなくなるため、印刷費、郵送費、交通費をカット可能。さらにFAXの送受信も必要なくなるため、通信費も大幅に削減できます。

人件費に比べると削減効果が低いとは言え、年間7万円以上も費用削減できるのは、各事業所にとっては利点です。

導入によって懸念される点もある

ケアプランデータ連携システムの導入に関しては、居宅介護支援事業所・各種介護サービス事業者にとって、いくつか懸念される点もあります。

一つは、システム導入によって全国的に各事業所で人件費や事務費用の削減が実現された結果、「支出が減ったので、介護報酬を上げる必要がない」という見方が生じる可能性がある点です。

社会保障費が拡大する中、国としては少しでも介護費用の支出を抑えたいと考えています(特に財務省)。費用負担が減ったので、減った分を人材確保や待遇改善に充てれば良いとの意見が強まれば、介護報酬改定においてプラス改定に向かう動きが弱まる恐れがあります。

また、実際の料金がどうなるのか、という点も懸念材料です。9月6日発出の「介護保険最新情報vol.1096」では、実際にかかるシステムの利用料金について明記されていません。「過度な負担にならないようにする」との記載はありますが、決定される金額次第では、費用削減効果が減る可能性もあります。

以上、2023年4月から本格稼働するケアプランデータ連携システムについて考えてきました。スケジュール通りに開発・導入が進むのかも含めて、今後の動きも引き続き注視したいところです。

編集部おすすめ