介護現場でのハラスメント

埼玉県では独自に実態を調査

厚生労働省は介護現場でのハラスメント対策を急いでいます。介護職員は利用者や家族からのハラスメントに悩まされており、たびたび実態調査などが行われてきました。

こうした国の動きを受けて、埼玉県も独自に県内の在宅介護事業者に調査を実施。

その結果によると、暴力・ハラスメントを受けたことがあるという人の割合は50.7%に及んでいます。

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出典:『在宅医療・介護の現場における暴力・ハラスメント対策の実態に関するアンケート結果について』(埼玉県)を基に作成 2022年10月18日更新

また、暴力・ハラスメントを受けたことがあると回答した人のうち、1年以内に受けたことがあるという割合は55.5%でした。

どんなハラスメントが多いのか

埼玉県の調査では、暴力・ハラスメントを受けたことがあると回答した人のうち、精神的な暴力(脅迫など)が最も多く、52%でした。次いで、セクシャルハラスメントが28%、身体的な暴力が20%と続きます。

ケアハラ(介護ハラスメント)経験者は約半数…対策はどうする?埼玉のケースに学ぶ
ハラスメントの種類
出典:『在宅医療・介護の現場における暴力・ハラスメント対策の実態に関するアンケート結果について』(埼玉県)を基に作成 2022年10月18日更新

また、ハラスメントを受けた場所では、患者・利用者宅(居住系施設の部屋も含む)において暴力・ハラスメントを受けたという回答が最も多く、69.9%に上ります。

一方、院内・事業所内において暴力・ハラスメントを受けた人は24.5%でした。

  • 物でたたかれた、つねられた、引っ掻かれた
  • 胸ぐらをつかまれた
  • 唾を吐かれた
  • 髪の毛を引っ張られ、転倒させられた
  • 包丁をもって威圧された
  • 通常提供する以上のことを要求され、断ると怒鳴られる
  • 訪問先で玄関の鍵をかけられ監禁された
  • 反社会的団体の名前を出しながら、特別扱いしろと脅された
  • 利用料の請求をめぐり、家族から執拗な暴言と脅迫、恫喝をされた
  • 性的な話をされた

在宅医療・介護の現場では、施設よりも周囲の目がなく、ハラスメントが起きやすい状況だと考えられます。埼玉県ではこのアンケート調査を基に、今後の取り組みの参考にする狙いがあります。

事業所だけでの把握は困難

事業所の多くでハラスメントの報告を受けていない

介護事業者には、ハラスメント対策をするよう運営基準にも盛り込まれていますが、事業所では実態把握が進んでいません。

三菱総合研究所の『介護現場におけるハラスメントに関する調査研究報告書』では、「ハラスメントは発生していない」と回答した事業所の職員に、1年間でハラスメントを受けたことがあるかどうか尋ねています。

それによると、事業形態によって差があるにせよ、約半数以上の割合でハラスメントが発生していることがわかりました。

つまり、現場でハラスメントが発生していても、事業者が把握できていないケースも多いのです。各事業所では相談窓口を設けるなどの対策に乗り出していますが、なかなか相談できずに泣き寝入りをしている職員もいると考えられます。

自治体による関与が必要

介護現場からはかねてより自治体レベルでの取り組みが求められていました。厚生労働省も自治体による積極的な取り組みを要請しています。

しかし、実態を見る限り、まだまだ十分に進んでいるとは言えません。

三菱総合研究所が、自治体によるハラスメント対策の実施状況を調べたところ、行政側からの積極的な情報収集を実施していない割合は94.2%、事業所の運営を支援するための施策も実施していない自治体も82.6%にも及びます。

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積極的な情報収集を実施していない自治体の割合
出典:『介護現場におけるハラスメント対策マニュアル・研修手引き等の普及啓発に関する調査研究』(三菱総合研究所)を基に作成 2022年10月18日更新

自治体による実態把握や支援が進んでいない理由に挙げられているのは、「介護施設・事業所におけるハラスメントの状況を把握していないため」でした。

自治体に相談窓口がない割合も72.6%に上り、その整備はまだほとんど進んでいないのが現状なのです。

自治体が関与すると改善効果が高まる

埼玉県が主体となって研修を実施

埼玉県の調査では、事業所で個別に取っている対策についてもアンケートを実施しています。

例えば、暴力・ハラスメントが発生する恐れが高い患者・利用者への対策を尋ねたところ、「複数人で対応」が最も多く、次いで「担当者の交代等、人間関係を固定化させない」「身の安全を優先した対応を従事者に徹底させる」と続きます。

また、暴力・ハラスメントが発生した以後の対応については、「身の危険があれば、業務を中止し、その場を離れる」「管理者などと連絡し、サービスの中止等を相談する」「相手方、発生経過、被害の内容等客観的事実を記録」の順に多くなっていました。

こうした対策に加えて、事業所ではハラスメントに対する研修の必要性を感じていることもわかっています。

そこで、埼玉県では病院・診療所など、在宅医療の従事者向けの研修動画をつくって配信しました。

埼玉県の対策は始まったばかりですが、今後はアンケート調査の結果を受けて、さまざまな取り組みが進められるでしょう。

国によるマニュアルをいかに活用するか

今後、自治体レベルでの対策を進めるうえで重要になるのは、国が配布している対策マニュアルの活用です。

厚生労働省では『介護現場におけるハラスメント対策マニュアル』をホームページで公開しており、誰でも簡単に閲覧できるようになっています。

しかし、現状ではその存在さえ知らない自治体も少なくありません。

対策マニュアルの認知度について、「知っており、活用している」は14.4%、「知らない」が25.8%でした。

一方、施設・事業所に対し「支援を実施している」と回答した自治体の場合、対策マニュアルを「知っており、活用している」と回答した割合は43.5%にも達しています。

つまり、取り組みを実施する自治体では認知度が高まっていることがわかっています。

埼玉県でも、国によるマニュアルを活用して実施されており、その周知や活用を広めていくことが今後の対策の進展を決めるカギになることでしょう。

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