地域包括支援センターの業務負担が問題視
次期改定に向けて社会保障審議会・介護保険部会で論題に
2022年9月12日、2024年度の介護保険制度改正に向けた協議を行っている社会保障審議会・社会保険部会において、地域包括支援センターの負担軽減に関する議論が行われました。
地域包括支援センターとは、地域内に住む高齢者に対して、福祉に関する総合的な相談や支援体制作り、介護予防に必要な援助などを行う公的機関のことです。
現在国を挙げて進めている「地域包括ケアシステム」の実現に向けた中核的な機関として、全国の日常生活圏域(30分ほどでかけつけられる圏域)ごとに設置されています。
会議の場で厚生労働省は、特に現場のセンターでは業務負担が増えているため、今後その軽減に向けた議論を詰めていくべきと指摘。
参加した委員からの意見で目立ったのは、介護予防ケアマネジメント業務の負担の大きさです。各委員からは、居宅介護支援事業所への委託しやすいルール作りや、業務の簡素化などの必要性が指摘されました。
時期改正に向けて地域包括支援センターのあり方がどのように変わるのか、議論の内容に高齢者福祉業界全体が注目しています。
地域包括支援センターとは?
地域包括支援センターには、大きく分けて「総合相談支援業務」「権利擁護業務」「介護予防ケアマネジメント」「包括的・継続的ケアマネジメント業務」という4つの役割があります。
センターに常駐しているのは、保健師(または経験豊富な看護師)、社会福祉士、主任ケアマネージャーなど福祉・介護分野の専門家です。
総合相談支援業務とは、高齢者の生活上の困りごとに関するあらゆる相談に乗る業務のことです。例えば在宅介護のことで悩んでいれば、センターに相談することで一緒に解決策を考えてくれます。相談料は無料で、対応するのはすべて専門家です。
権利擁護業務は、高齢者に対する詐欺、悪徳商法の被害への対応、虐待の防止と早期発見などを行うことです。虐待防止については、虐待を受けている本人はもちろん、虐待行為に気づいた近所の人・第三者からの連絡も可能。さらに、成年後見制度の手続きをサポートする業務も行っています。
そして介護予防ケアマネジメントは、要介護認定で要支援1または2の認定が下りた人、もしくは自治体の「基本チェックリスト」にて総合事業の対象になった人に対して、介護予防ケアプランを作成する業務。
包括的・継続的ケアマネジメント業務は地域内の多職種の連携支援、ケアマネージャーへの支援業務などを指します。
現在、地域包括支援センターはすべての市町村に設置されていて、施設数は年々増加。2006年時点では3,436施設でしたが、2021年時点では5,270施設まで増えています。
その内訳を見ると、市町村が直営する施設は減り、社会福祉法人などに委託するケースが増加傾向にあります。
出典:厚生労働省の資料を基に作成 2022年10月20日更新地域包括支援センターが担う介護予防マネジメントの実態とは
地域包括支援センターが行う介護予防マネジメントとは?
今回、厚生労働省や分科会の委員から地域包括支援センターの業務負担増の原因として指摘された「介護予防マネジメント」について、もう少し掘り下げて見てみましょう。
センターが行う介護予防ケアマネジメントとは、介護保険の要支援認定者、および基本チェックリストにおいて該当者と認められた人に対して、予防給付や総合事業(介護予防・日常生活支援総合事業)によるケアを提供できるようケアプランを作成することです。
総合事業には、訪問型サービス、通所型サービス、生活支援サービス、一般介護予防事業、自治体独自の取り組みなどが含まれます。
介護予防のために行うケアマネジメントには、予防給付のみもしくは予防給付と総合事業のサービスを合わせて利用する利用者に行う「介護予防支援」、総合事業のサービスのみを利用する利用者に行う「ケアマネジメントA~C」があります。
ケアマネジメントAは予防給付の場合と同じく、原則的な形でのケアマネジメントを実施する手法。ケアマネジメントBは、サービス担当者会議を省略し、利用したサービスの評価はより間隔を空けて行う手法。ケアマネジメントCはBよりもさらに省略し、初回だけケアマネジメントを行う手法です。
予防給付ではなく自治体の総合事業で行うサービスであるため、プロセスを簡略化したB、Cも認められているわけです。
しかし、簡略化したケアマネジメントが認められてはいても、地域内の案件を地域包括支援センターで一手に処理するとなると、どうしても負担は大きくならざるを得ません。
介護予防マネジメントの業務負担
株式会社エヌ・ティ・ティ・データ経営研究所が、2021年10~11月に全国の市区町村1,741カ所、地域包括支援センター約5,200カ所を対象に行ったアンケート調査によれば、「介護予防ケアプラン作成業務が適切な業務量の範囲内に収まっている」との回答割合はわずか26.1%。無回答の3.4%をのぞくと、約7割以上が負担に感じていました。
しかも全体の37.1%が、「業務量が過大なのに対応策を行えていない」と回答。これが最多回答となっています。

介護予防ケアマネジメントの業務負担感は大きく、この状況を前に何ら対策を取れていないセンターが多いのが現状といえます。
介護予防マネジメントの業務量を減らすには
介護予防ケアマネジメントの業務量が多い
さらに、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社が地域包括支援センターを対象に実施した調査(2019年実施)では、介護予防ケアマネジメントの業務量の多さも明らかになっています。
同社の調査によると、地域包括支援センターで働く人の1週間の労働時間数を業務別に見たところ、「【個別対応】指定介護予防支援、第1号介護予防支援」、つまり利用者個別に対応する介護予防ケアマネジメントが607.3分で最も多い結果となっています。

もともと地域包括支援センターは「高齢者のよろず相談所」「地域ケア会議の主催者(地域ケア会議とは、高齢者への支援の充実とその社会基盤構築を地域で進めていくために、行政職員をはじめ地域の関係者が参加する会議のこと)」となるべく設置された機関でした。
しかし実際には、居宅介護支援事業所でも行える介護予防マネジメントに最も多くの作業時間を費やしているのが実態です。
介護予防マネジメントの業務負担軽減を図るには?
先の調査では、介護予防ケアマネジメントの業務負担の軽減化に取り組んでいる地域包括支援センターが、どのような対策を行っているかについても調べています。
それによると、軽減化対策として最も多かったのが「居宅介護支援事業所等への外部委託を行っている」で、全体の9割を占めていました。
他にも、「ケアプラン作成に関する研修(勉強会)を受講(実施)している」が約7割。「ICT機器やソフトウェアを活用している」が約6割となっていました。
こうした対策を、先の質問で「業務負担が大きいのに、何ら対策を取れていない」と回答した全国のセンターが取り組めるように、国・自治体が必要な支援策を打つことが、当座の対策として有効と考えられます。
今回は、地域包括支援センターの介護予防ケアマネジメントの業務負担感について考えてきました。
同業務の負担感を軽減できれば、相談業務や権利擁護業務など、その他の中核業務にもより注力できます。次期制度改定に向けて今後どのような動きがあるのか、引き続き注目したいところです。