人員配置基準の緩和が改正のテーマに

現状のルールの問題点とは

介護人材は2040年に約69万人不足するとされています。この問題に対応するため、国は介護人材確保の施策として大きく5つの柱を基本政策としています。

  • 介護職員の処遇改善
  • 多様な人材の確保・育成
  • 離職防止、定着促進、生産性向上
  • 介護職の魅力向上
  • 外国人材の受け入れ環境整備
  • 2022年10月17日の介護保険部会では、主に③の「生産性向上」を中心に議論が行われました。

    そこで挙がったのが、人員配置基準で求めている管理者らの常駐・専任のルールの緩和です。

    現行の制度では、訪問介護や通所介護、居宅介護支援事業所などで管理者や専従者の常勤が義務づけられています。専従とは、雇用形態は問わず、勤務時間中はその事業所の仕事だけをすることを指します。

    一方で、コロナ禍を契機にテレワークなどが進み、一般企業では必ずしも人員がいなくても業務を滞りなく遂行できることが実証されつつあります。

    デジタル庁は2022年6月に「デジタル原則に照らした規制の一括見直しプラン」を打ち出し、横断的な法改正プランを掲げました。そのなかで常勤・専従規制はデジタル化を進めるうえで緩和が必要だとされています。

    これに応じるかたちで厚生労働省でも今回の議論に至ったのです。

    厚生労働省で挙げられた改革案

    今回の介護保険部会では、利用者へのサービスに直接関わらない業務について、テレワークの取り扱いを明示してはどうかという指摘がされました。

    合わせて、地域単位での事業所の協働化を図り、人員などのリソースをより効率的に活用していく指針も示されています。

    つまり、看護師や理学療法士、ケアマネージャーなどの有資格者など、特定のスキルを保有している人材を地域の事業所間で柔軟に業務できるようにするということです。

    例えば、地方では複数の市による広域連合などでスキルを持った人材を共有し、不足している事業所に派遣をするなどといった協働を推進することを目指しているのです。

    介護事業所の業務効率化とは

    テレワークを導入すると現場は何が変わるのか

    介護人材が事業所間を超えて、さまざまな場所で能力を発揮するためには、専従ではなく、各事業所と常に連携を図りながら業務を遂行するようなワークモデルが必要になります。

    そこで活用を求められるのがテレワークです。

    国土交通省の『令和3年度テレワーク人口実態調査』によると、2021年の雇用型テレワーカー※の割合は27%で、過去最高を更新しました。

    ※企業などに雇用されている人

    介護業界にもテレワークの波が?人員配置基準の緩和は今後の事業...の画像はこちら >>
    出典:『令和3年度テレワーク人口実態調査』(国土交通省)を基に作成 2022年11月22日更新

    業種別では「情報通信業」が最も高く74%、次いで「学術研究、専門・技術サービス業」で55.4%と高くなっています。その一方で、介護も含む「医療・福祉」は5.7%で最も低くなっています。

    医療や介護は直接利用者にサービスを提供しているため、テレワークが難しい職種ではあります。しかし、ケアマネージャーなどは利用者訪問やケアプランの作成が主な業務となっており、必ずしも事業所に常駐する必要はありません。

    また、病院などに専従している理学療法士などを、介護サービスと連携して活用できれば、より効率的なサービス提供を実現できます。

    今後の経営には業務効率化が必須

    介護事業所の運営にかかる経費のうち、ほとんどの業種で5割以上を人件費が占めています。特に高いのは訪問系サービスで、訪問介護、訪問看護ともに75%を超えています。(厚生労働省『令和2年度介護事業経営実態調査』より)

    介護業界にもテレワークの波が?人員配置基準の緩和は今後の事業にどんな影響を与えるか
    訪問介護の人件費の割合
    出典:『令和2年度介護事業経営実態調査』(厚生労働省)を基に作成 2022年11月22日更新

    また、近年は介護職の待遇改善がたびたび図られており、昇給などの処遇改善を行うことで経営を圧迫していると考えられます。

    利用者に対する介護業務を簡略化することはできませんが、必要とされる事務処理や洗濯、掃除などは効率化を図れる部分でもあります。

    現在の人員でどれだけ効率的に質の高いサービスを提供できるかを考えたとき、職員一人ひとりが利用者への介護に充てる時間を増やすことが大切です。

    一人当たりの生産性を向上しない限り、介護経営はますます厳しくなっていくことが予想され、業務効率化は必要不可欠となっていくでしょう。

    デジタル化は何をもたらすか

    介護事業所が導入しない理由は予算不足

    介護事業所における事務処理などを簡略化するために、厚生労働省ではICTの導入を推進。補助金制度なども設けて、その導入効果を調査しています。

    2020年の調査結果によると、「間接業務の時間が削減された」が70.3%で最多で、次いで「業務管理が効率化された」67.8%、「業務上の単純ミスが減った」66.5%と続きます。

    導入した事業所では何らかの効率化が図られていることがわかっています。

    その一方で、まだICT導入に踏み切れない事業所があることも事実です。例えば、他事業所間や職員間の連携を効率的にする情報共有システムについて、現在運用していると回答したのは37.7%にとどまっています。

    そのうち情報共有システムを運用する予定がないとした理由について、「運営体制の確保が難しい」67.3%、「予算の確保が難しい」54.8%が多くなっていました。資金難や環境がICT導入を阻む要因となっています。

    介護業界にもテレワークの波が?人員配置基準の緩和は今後の事業にどんな影響を与えるか
    情報共有システムを導入しない理由(複数回答)
    出典:『介護事業所におけるICTを通じた情報連携に関する調査研究等一式』(厚生労働省)を基に作成 2022年11月22日更新

    情報共有システムは、地域における効率的な協働に不可欠といっても過言ではありません。電話やファックスではできないスケジュール管理なども一括してできるだけでなく、利用者の情報を適切に管理・共有できるからです。

    ICT導入で間接業務を改善

    また、ICT技術に対する現場の拒否感も少なくありません。そこには誤解もあります。

    情報共有システムなどのICT技術は、直接介護を簡略化するものではなく、間接業務を効率化するものです。先の厚生労働省の調査でもICTを導入して、直接介護に充てる時間が増えたという回答が増えています。

    つまり、介護職が本来持っているスキルを発揮できる環境を生み出すことができるのです。

    経営面でも職員のスキル面でもICT導入による業務効率化がもたらすメリットは非常に大きいといえます。介護人材が不足しても、最新技術を利用することでサービスの質を確保するといった視点が事業者にも求められています。

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