ワンオペ解消を求めて厚生労働省に要望書を提出

介護職員の労働組合がワンオペ解消に賛同する4万人の署名を集める

2022年11月11日、介護職員らの労働組合が、施設での1人夜勤を行う「ワンオペ」をなくして複数配置を前提とするよう求める要望書を、4万人超の署名を添えて厚生労働省に提出しました。

組合側は要望書の中で、介護施設において夜勤のワンオペが多いこと、夜勤職員の責任が非常に重いことを指摘。

ワンオペでの夜勤時、介護職は事故を起こさずに過ごすことで頭がいっぱいとなり、そのストレスの大きさから退職につながるケースがあることも言及しています。

ワンオペの負担軽減策としてはICT(情報通信技術)の活用に近年注目が集まっています。例えば、人感センサーなどを居室内に設置することで、介護職の見守り業務の負担を軽減するといった方法です。

しかし、要望書の中では、ワンオペによる負担の大きさはICTの活用では必ずしも軽減できないと指摘しています。実際、センサーなどが異常を検知しても、現場で対応するのは介護職自身となるため、「一人で対応する」という重圧は避けられないからです。

労働組合の幹部は記者会見の場で、人権問題を解決する方向で議論を進めるべきと主張。介護施設での夜勤のワンオペは介護職の人権に関わる問題であるとし、国による対策を求めました。

ワンオペとは?

ワンオペとは「ワンオペレーション」を略した言葉で、介護施設におけるワンオペとは、主に夜勤を1人体制で行うことを意味します。

介護施設の働き方には大きく分けて2交代制と3交代制の2種類があり、2交代制は施設での勤務時間を日勤と夜勤の2つの時間帯に分ける方式、3交代制は勤務時間を早番、遅番、夜勤の3つの時間帯に分ける方式のことです。

勤務時間帯は一般的に、2交代制では日勤が9時~17時、夜勤が17時~翌9時、3交代制では早番が6時~12時、遅番が12時~17時、夜勤が17時~翌6時とされます。

どちらの勤務方式でも夜勤は発生しますが、特に2交代制の場合は16時間も夜勤をこなす必要があり、ワンオペに従事すると特に負担が大きいです。

日本医療労働組合連合会の「2021年介護施設夜勤実態調査結果概要」によると、2交代制を採用している施設では、夜勤時に複数体制が行われているのは調査対象施設全体(n=160)の46.8%で、残りの5割以上は1人体制以下でした。

グループホームや「泊まり」のサービスを提供する小規模多機能型居宅介護・看護小規模多機能型居宅介護の事業所では、すべての施設が夜勤はワンオペとの結果です。

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出典:『2021年介護施設夜勤実態調査結果概要』(日本医療労働組合連合会)を基に作成 2022年12月15日更新

この調査結果からは、ワンオペ夜勤は一部の施設においてのみ行われているわけではなく、介護現場ではどこの施設でも当然の業務として行われ、介護職に負担を求めている現状が読み取れます。

緊張と恐怖をともなう介護施設のワンオペ業務

介護施設におけるワンオペの夜勤業務

夜勤業務では、出勤後に日勤の人からの仕事の引継ぎが行われます。引継ぎ方法は施設ごとに異なりますが、日中の間に入居者の心身状態に関する注意事項があれば、その報告を受けるのが通例です。

引継ぎが終わると入居者の夕食時間となるため、その配膳、介助、片付け、服薬管理などを実施。夕食後は就寝時間を踏まえて、歯みがきや寝巻への着脱介助を行います。就寝時間後は、1~2時間おきにすべての部屋を巡回する安否確認が必要です。

また、入居者様によっては毎日同じ時間に排泄介助を行う必要がありますが、決まった時間外であっても、ナースコールで呼び出しがあれば居室に駆けつけて排泄の支援をします。

さらに、安否確認と排泄介助の合間に、介護記録の作成と館内の掃除などを実施。

その間、もし入居者に急な体調不良が生じれば、介護職がどうすべきかを判断し、医療機関に連絡をするなどの適切な処置をとる必要があります。そのため、気が休まる時間は事実上ないわけです。

そして、夜勤の最後の難所とも言えるのが、起床介助です。

入居者は5時頃から目が覚め、それに合わせて排泄介助を望むナースコールが増えてくるため、ワンオペの場合は1つひとつの求めに順番に応えなければなりません。寝たきりの方の場合は、おむつ交換も必要です。

起床介助が終わると、朝食の準備を行います。

夕食時と同じく、食事の配膳、介助、片付け、服薬管理を実施。朝食が終わるころには、日勤の人が出社するので、引継ぎを行います。

つらいワンオペ業務

夜勤がワンオペの施設では、膨大な夜勤時の作業を一人でこなす必要があります。しかし、ワンオペ夜勤のつらさは業務量の大きさだけではありません。

夜勤では2交代制だと約16時間、3交代制でも12時間以上も施設内で勤務し続けることになりますが、労働基準法34条では労働時間が8時間を超える場合、少なくとも1時間の休憩を与えなければならないことが規定されています。

しかし実態として、ワンオペ夜勤の現場では休憩の取得は難しいのが実情です。

「なくせワンオペ!プロジェクト」が主に愛知県の介護施設を対象に行ったアンケート調査によれば(2021年9月実施)、夜勤時は「全ての時間1人」である介護職に「休憩時間に施設外に出られるか」を訪ねたところ(有効回答100)、「常に出ることができる」は4%のみ。「まったく出ることができない」は70%に上っていました。

"ワンオペ解消"を求めて介護職員の労働組合が4万人から署名を集める!現場の声は国に届くのか
夜勤時の休憩時間に施設外に出れる人の割合
出典:『介護・障害職場の夜勤実態アンケートまとめ』(なくせワンオペ!プロジェクト)を基に作成 2022年12月15日更新

休憩時に館外に出られないとは、休憩時間中も館内に待機して入居者からのナースコールに備える状態が続くことを意味します。

当然ながら、呼び出しがあれば休憩中であっても即座に対応しなければなりません。これでは気が休まる時間を確保できず、事実上休憩時間は無いも同然です。

また、休憩時間が取れないこと以外にも、利用者の健康・事故のリスクに一人では対応しきれない、という問題も大きいです。もし利用者に何かあればすべて自分の責任となり、そのことへの恐怖、ストレスは多大なものとなります。

介護施設の「ワンオペ問題」への対応策は?

複数配置で負担軽減を望む声

「なくせワンオペ!プロジェクト」が行った調査では、介護施設で夜間のワンオペをしている介護職に「夜間の複数配置を望んでいますか」を訪ねたところ、71.9%が「はい」と回答しています。ワンオペを避けたい介護職が大半であるわけです。

"ワンオペ解消"を求めて介護職員の労働組合が4万人から署名を集める!現場の声は国に届くのか
夜間の複数配置を望む介護職の割合
出典:『介護・障害職場の夜勤実態アンケートまとめ』(なくせワンオペ!プロジェクト)を基に作成 2022年12月15日更新

確実にワンオペをなくすには、国が夜勤の人員配置体制基準を2人以上にすることを制度化することが必要です。

例えば、特別養護老人ホームの場合、夜勤時の職員配置は利用者25人以下の場合だと1人以上、26~60人だと2人以上と義務付けられています。これを、25人以下においても2人以上の配置を義務付けるよう制度改正を行うわけです。

冒頭で紹介した約4万名の署名と合わせて提出された要望書も、まさにこの点を求めています。要望書が作成された背景には、名古屋市の短期入所施設でワンオペ夜勤中に30代の職員が倒れ、亡くなったという事実もありました。

ワンオペ夜勤は介護職の健康リスクを高めることにもなり、このような悲劇を二度と繰り返さないためにも、複数配置を義務付けるべきと指摘しているわけです。

根本的解決に必要な「介護人材の確保」

一方で、夜勤の複数配置をすぐに実現するのが困難な面もあります。実際に夜間に複数配置を行うには、当然ながらそのための人員を確保できていることが不可欠です。

もし確保できなければ、現状の人員数で、複数人数体制とはいえ夜勤に入る回数を大幅に増やすことにもなるでしょう。夜勤の配置体制を適切な形で充実させていくには、やはり介護人材の確保・増加が欠かせないといえます。

介護現場からは人材確保のための待遇改善策を求める声も多いです。

「なくせワンオペ!プロジェクト」のアンケートでは、現場の職員から「増員のためにも賃金の処遇改善をお願いします」「もう少し賃金をあげてほしい」「賃金水準の引き上げを最優先にして頂きたい」など、人員配置に関する制度改正だけでなく、処遇改善を求める声も多く上がっていました。

待遇改善策を充実させていき、介護分野で働きたい人を増やすことも、ワンオペ夜勤の現状を改善するための現場からの声として、国・行政に求められているわけです。

今回は、介護施設におけるワンオペ夜勤の問題について考えてきました。介護現場から上がっているワンオペ夜勤のつらさを訴える声に、国・行政はどう対応するのか。引き続き注目していきたいです。

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