大規模事業者で活用される介護ロボット
介護ロボットの定義
政府は介護人材不足を補うため、介護現場での生産性向上に取り組んでいます。その一環として導入を進めているのが介護ロボットです。
政府はロボット開発に対する補助金制度などを整備し、2018年には厚生労働省に介護ロボット開発・普及推進室を設置。
近年は介護ソフトなどのICT機器の導入も進められていますが、厳密に言えばロボットは次の3つの機能を持つと定義されています。
- 情報感知(センサー系)
- 判断(知能・制御系)
- 動作(駆動系)
こうしたロボット技術を活用して介護施設の利用者の自立支援や介護者の負担の軽減に役立つ介護機器を介護ロボットと呼んでいます。
現在、介護施設で主に活用されている介護ロボットは次の4つです。
移乗支援 移乗とは要介護者をベッドから車椅子に移動させるなど、介護でよく使う動作のこと。主に介助者の体に装着して移乗の動作を支援してくれる介護ロボットです。 移動支援 自分で歩くのが不自由な方などを支援する機器を指します。主に歩行アシストカートなどが当たります。 排泄支援 排泄が困難な方に向けた機器のことを指します。寝たきりの方向けの自動排泄処理装置などが代表的です。 見守り 施設や家の中にセンサーを取り付けて、要介護者の様子を見守る機器です。介護現場で最も普及しており、近年はバイタルデータなども同時に計測できる高機能のものも増えています。介護ロボット導入による効果の実証
現在、厚生労働省では「令和4年度介護ロボット等による生産性向上の取り組みに関する効果測定」という実証事業を進めています。
これは、介護ロボットや専用機器を導入することで介護現場にどんな影響が出るのかを長期間調査して、その効果を測定する事業です。
この事業にはいくつかの事業者が選ばれていますが、そのうちのひとつが業界最大手のSOMPOケアです。
結果の取りまとめはまだ公表されていませんが、SOMPOケアでは一部の施設での導入効果を報告しています。
その報告では、導入済みの機器ではなく、新たに導入した機器について、どの程度介護職員の時間短縮につながっているかを分析しています。
その結果、そんぽの家成城南では1日の業務時間のうち約926分の短縮に成功したそうです。こうして省略された時間は、人の手でしかできない直接介護の時間を増やすとしています。
介護ロボットで生産性はどう向上するか
介護職員の負担が軽減
では、具体的にどのような効果が得られるのでしょうか。
一般財団法人厚生労働統計協会が発行している「厚生の指標」に、介護ロボットの導入効果を検証した論文が掲載されています※
※「厚生の指標」第65巻第3号,2018年3月
この論文ではロボットスーツを導入した効果について、施設職員にアンケート調査を実施。その結果をもとに詳しく分析しています。
それによると、「腰の負担軽減」や「作業負担の軽減」という意見が多くなり、職員の意識向上にもつながったと報告。また、介護ロボットへの理解が深まり、その有用性を実感したという意見も聞かれました。
厚生労働省が過去に行った実証結果によれば、見守りセンサーの導入では、ケアの質の維持・向上と作業効率の上昇が明らかになりました。
また、日常的にテクノロジーを活用している施設職員は、より多くの時間を直接介護の時間に充てていることがわかっています。
いずれの検証結果でも、介護職員の負担が軽減され、ケアの質を保つ効果が得られていると結論づけています。
施設の課題などに合わせて導入することが大切
これらの調査に共通しているのは、効果だけではありません。導入するポイントについても明らかにされています。
特に、導入した介護ロボットが施設の課題に応じているかどうかが効果をより向上するためのポイントだとしています。
例えば、排泄支援を必要とする利用者が少ない施設に、自動排泄処理装置などを導入してもあまり効果はありません。
見守りセンサーについても多様なシチュエーションに合わせた機能が搭載されていますが、ほかの設備との兼ね合いも考慮して、どのような機能を活用すべきか検討する必要があります。
そのため、施設においてどこに課題が生じているのかを洗い出し、それに応じた介護ロボットを選ぶことが大切です。
中小事業者にどう広めていくか
高コストで導入が難しい
福岡県北九州市は早くから介護ロボットの導入支援を独自に実施し、その結果を検証してきました。
市内の介護施設にアンケート調査を実施したところ、介護ロボットを導入しない理由としては次のような回答が多かったとしています。
- 経営者が、投資に消極的
- 補助金を利用しても一定額の支出があり、現状では導入が難しい
- 小さな施設に必要なのか、それに見合ったコストなのか
- 使用するメリットがない
- 施設の規模が小さく、収納場所がない
実際にSOMPOケアで施設に導入した費用は約2,800万円に及ぶとされています。
また、前出の「厚生の指標」では、介護ロボットを使用することによって、職員が「壊してしまわないか」という精神的な不安感を与えているというデメリットも指摘されています。
中小の施設では、ただでさえ経営が厳しい状況で介護ロボットを導入する余力がないと考えられます。こうした障壁がある限り、介護ロボットが業界全体に普及するのは難しいと言えるでしょう。
まずは低コストのものから広めて意識の向上を
現在、政府は介護ロボット導入支援事業を実施しており、全国に相談窓口を設置することも決めました。
こうした窓口を活用すれば、補助金などの申請も何が活用できるのか検討しやすくなることでしょう。
また、見守りセンサーなどは低価格のものも増えてきており、徐々に普及が進んでいます。北九州市でのアンケート調査によれば、今後介護ロボットの導入を考えている施設のうち、54.7%が「見守り機器」を挙げています。
中小の施設でも、見守り機器などの手軽に設置できる介護ロボットから導入を始め、職員にその効果を実感してもらうことが大切ではないでしょうか。そして、介護業界全体で介護ロボットへの理解を深め、導入を進めていけば、より普及が進むことでしょう。