高齢者のインターネット利用は5年で約2.5倍に

積極的に活用する人も増えている

これまで高齢者はインターネットなどを活用する機会が少ないとされてきましたが、その常識が大きく変わりつつあります。

2023年版高齢社会白書によると、「インターネットで調べることがある」と回答した割合は、2017年時で20%だったのに対し、2022年には50.2%と5年間で約2.5倍にまで拡大しています。

転機となったのは新型コロナの感染拡大だと考えられています。

同白書によれば、コロナ禍によって人と直接会ってコミュニケーションをとることが減ったと答えた割合は61.6%に上り、そのうち対面せずにコミュニケーションをとることが増えたと回答した割合は26.4%という結果になりました。

情報機器の利用状況をみると、「携帯電話・スマホで家族や友人などと連絡をとる」は75.7%と最多。ネットで情報を集めたりショッピングをしたりする」も28.3%で、前回調査の2倍以上となっています。

一方、情報機器を使わないという高齢者は、2010年時に44%だったのに対し、2020年調査では14.6%まで減少していました。

こうした結果から、白書ではコロナ禍が高齢者の非対面コミュニケーションのきっかけになっていると考えられると分析。インターネット上での情報収集や、連絡などにも意識の変化が見られ、高齢者の社会活動を向上させる効果が期待されています。

社会参加による健康増進効果も

高齢者のインターネット利用やICT活用は、かねてより健康効果が期待されてきました。

たとえば、川村学園女子大学と了徳寺大学の研究によると、後期高齢者がSNSなどのインターネットを利用することで精神的健康を向上させる効果が認められています。

こうした動きに合わせて、実際にICTを活用して高齢者の健康づくりに取り組む自治体も出てきました。

新潟県見附市では、筑波大学等の指導の下、ICTシステムを活用した健康づくり事業を実施してきました。その結果、高齢者の体力年齢が平均4.5歳若返り、健康づくり事業に参加しなかったグループと比べて医療費が年間10万円程度低くなることが明らかにされています。

このように、インターネットやICTは活用次第で高齢者の健康を増進させる効果があると考えられます。

高齢者のインターネットリスク

架空請求などの消費者トラブルに遭いやすい

高齢者のインターネット利用にはメリットがある一方、さまざまなリスクも指摘されています。そのうちの一つが消費者トラブルです。

国民生活センターの報告によると、コロナ禍にあった2020年は60歳以上の通信販売に関する相談が増加し、過去最高となりました。なかでも70~80歳代が占める割合が増加しています。

また、減少しているとはいうものの、架空請求も約1.6万件に上り、商品取引だけでなく、デジタルコンテンツやインターネット回線などの情報通信関連の相談件数も多数を占めています。

さらに年々増加傾向にあるのが定期購入やサブスクリプション。たとえば、サプリメントを定期購入したところ、初回は500円程度だったものがその後数ヵ月分が一度に届いて2万円を超える請求を受けたというケースが報告されています。

サブスクリプションについても、解約手続きの方法がわからず困っている等の相談が寄せられています。

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高齢者はデマにだまされやすい傾向も

インターネット利用のリスクの一つに挙げられるのがデマやフェイクニュースです。全世代において注意しなければならないことではありますが、特に高齢者はだまされやすい傾向があると指摘されています。

アメリカでは、ニューヨーク大学とプリンストン大学が高齢者のFacebook利用について分析したところ、フェイクニュースを共有する可能性が若年層よりも高いと報告されています。

日本国内でも、国際大学グローバル・コミュニケーション・センターがフェイクニュースに関する調査を実施。10代から60代までの6,000人を対象に、「電波でムクドリが大量死している」など実際に拡散した9つの「フェイクニュース」に対する反応を調査しました。

その結果、フェイクニュースを見て、うそだと気がつかなかった人は、60代が84.4%で最も多くなり、次いで50代が80.1%となりました。

一方、高齢社会白書では、高齢者が検索する事項として多いのが「病気について」(39.0%)、「病院などの医療機関」(30.1%)、「薬の効果や副作用」(25.1%)となっています。

つまり、病気や薬といった健康に直結する情報について、インターネット上のデマやフェイクニュースを信じてしまうリスクが高まるとも考えられます。

介護従事者が気をつけたいこと

間違った知識をかたくなに主張する高齢者の増加

高齢者のインターネット利用がショッピングだけにとどまらず、コミュニケーションツールとしても広がりを見せるなか、フェイクニュースやデマによる悪影響を考慮する必要があります。

近年、日本でもフェイクニュースが増えているとされており、前出の国際大学グローバル・コミュニケーション・センターによれば、年間2,615件のフェイクニュースが確認されているそうです。

このようなデマに騙された方への対処法に関する知見はまだ少ないものの、「筆者の意見が入った文章かわかる」「文章から確実に言えることが何かわかる」といった情報リテラシーが高い人ほどだまされにくいとも考えられています。

ただ、日本の高齢者はコロナ禍によって利用が促進されたため、それほどリテラシーが成熟していない可能性があります。

特に日本の高齢者は病気などに関する検索が多いため、誤った知識を得てしまうと、医師や看護師の意見に従わなくなってしまうといった事態も想定されます。

日頃からスマホを使用する機会の多い高齢者に対しては、普段からどのような情報を検索しているのか、注意が必要かもしれません。

仮にデマを信じ込んでしまった場合は、それに反証するようなデータやファクトチェックを行っている記事などを見せて、説得することが有効だともされています。

その際、大切なのは利用者との信頼関係。しっかりと信頼関係が築けていると「あなたがそう言うなら…」と信じてもらえる可能性が高まります。

高齢者のインターネット利用が増加している中、これまで以上に日常的なコミュニケーションや信頼関係の構築が大切になるのかもしれません。

インターネットの利用方法を一緒に考えておこう

インターネットは、施設にいても遠方の家族や友人などと交流する機会を増やし、精神的な健康効果が期待できるため、利用そのものを制限するのはあまり良いこととは言えません。

そこで、入居施設では、スマホの利用時間などを注視しながら、できるだけリアルなコミュニケーションを増やすような努力が求められるのではないでしょうか。

また、訪問・通所の場合はご家族などとインターネット利用についての情報交換をしておくと良いかもしれません。極端な意見を主張することが多くなっていたり、通信販売での購入が多くなっていたら注意が必要です。

検索や利用を制限するフィルタリング機能を活用するのも一つの手段です。あるいは、検索内容などを別の端末で確認できる共有機能を活用すれば、どんなことを検索し、どんなアプリを利用しているのかを把握することもできます。

こうした情報は利用者の関心事を知ることにもなります。介護従事者はご家族と連携して、高齢者の情報対策を考えておいたほうが良いのかもしれません。

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