介護職の給与アップが着実に進む

政府支援の影響が顕著に表れる

2023年6月16日、厚生労働省は介護給付費分科会にて『令和4年度介護従事者処遇状況等調査結果』の取りまとめを行いました。

そのなかで公表されたデータによれば、介護職員の給与が大きくアップしていることが明らかにされました。

その要因となっているのが、介護職員等ベースアップ等支援加算(以下、ベースアップ等支援加算)と介護職員処遇改善支援補助金(以下、処遇改善支援補助金)です。

前者は、政府が推進した介護職の基本給を上げるために新設された加算で、後者はポストコロナの継続的な賃金アップを支援するために都道府県に交付された補助金です。

ベースアップ等支援加算を取得している施設・事業所における介護職員の基本給を、同加算の取得前(2021年12月)と取得後(2022年12月)で比較すると1万60円増(+4.4%)となり、平均給与は1万7,490円増えていることがわかりました。

対して、処遇改善支援補助金を取得している事業所では、基本給が9,210円増(+4%)で、平均給与は1万6,550円増となりました。

この値は、30年ぶりの高水準といわれる大手企業の賃上げ率3.91%(2023年)を上回る数値。政府の施策による効果が如実に表れているといえるでしょう。

ベースアップ等支援加算は毎月の手当に反映

では、給与のどのような面に影響を及ぼしているのでしょうか。

ベースアップ等支援加算の取得事業所では、「決まって毎月支払われる各種手当の新設」が65.9%、「賞与等の支給金額の引き上げまたは新設」が54.3%でした。

一方、処遇改善支援補助金を取得した事業所では、「決まって毎月支払われる各種手当の新設」が65.3%、「賞与等の支給金額の引き上げまたは新設」は65.7%でした。

多くの事業所で新たな手当などを設けるとして、毎月支払う給与を引き上げていることが推測されます。

ただ、「給与表を改定して賃金水準を引き上げ」した事業所は15%程度にとどまっています。つまり、賃金体系を根本的に見直す事業者は少ないことがわかります。

加算を取得していない事業所もある

約1割程度が加算を取得していない

介護給付費分科会では、いずれの加算・補助金とも取得していない事業所があることが問題視されています。

同調査では、ベースアップ等支援加算を取得(届出)している事業所の割合は91.3%。また、処遇改善支援補助金は88.7%となっています。

つまり、約1割程度はどちらの加算や補助金も取得していません。

取得していない理由をみると、ベースアップ等支援加算では、「賃金改善の仕組みを設けるための事務作業が煩雑であるため」が40%、「計画書や実績報告書の作成が煩雑であるため」が35.7%。また、処遇改善支援補助金でも「賃金改善の仕組みを設けるための事務作業が煩雑であるため」が34.3%、「計画書や実績報告書の作成が煩雑であるため」が34.2%が多くなっています。

いずれも事務作業が理由に挙げられており、取得のための作業を簡略化すべきだという声も挙がっています。

基本給が前年比で1万60円増加!加算を取得しない事業の問題点...の画像はこちら >>

小規模事業者の実態が調査ではわからない

介護給付費分科会に参加した専門家によれば、事務作業が煩雑というだけでは解決できない問題があるとも指摘されています。

今回の補助金や加算は、独自で経営改善が難しいために政府が支援する目的があります。ただ、取得していない事業所は給与の改善額も低いままにとどまっているそうです。

確かに、小規模事業者は経営が厳しく、事務職員も少数で運営しているので作業が煩雑になると大変ではあります。しかし、取得できそうな加算の取得にも消極的なことも問題です。

そもそも小規模事業者は、こういった調査に対しても回答率が低く、実態がなかなか明らかになっていません。

手続きの簡素化も重要ですが、仮に煩雑な事務が理由で賃上げにつながっていないことになると、今後、報酬改定などを行ってもそれらの事業所へは手当ができなくなることになります。つまり、どれだけ支援の施策を行っても効果が薄れてしまうのです。

賃金が改定されなければ、介護職員の確保がますます厳しくなることが予想されます。

最終的には、その事業所の経営に影響が出ることもあるでしょう。

少しでも処遇の改善を行っていかないと、せっかく介護業界に興味を持って入ってきた人材の流出につながりかねません。さらには、業界全体への影響も大きくなることも考えられるので、何らかの対応を検討する必要があるのではないでしょうか。

介護業界の実態把握がポイント

2024年から財務諸表の提出が義務化

大規模なアンケート調査などでも把握しきれない実態があるため、厚生労働省ではすべての介護事業者に対し、財務諸表の提出を義務づけ、公表する方針で進んでいます。

財務諸表とは、事業所の資産状況を示す「貸借対照表」、収益・損失を示す「損益計算書」(社会福祉法人等では「事業活動計算書」)、お金の動きを記載する「キャッシュフロー計算書」(社会福祉法人等では「資金収支計算書」)などがあります。

この提出が義務化されることによって、アンケート調査ではわからなかった小規模事業者などについても、財務状況が明らかになります。そのため、より実態に沿った施策を考えることも可能になるでしょう。

その反面、財務状況があまりにずさんな事業所はさまざまな加算が受けられなくなったり、何らかの指導が入る可能性もあります。

今後はより厳格な経営が求められる

中小の介護事業所では、財務諸表に対応していないケースも多く、今後はより正確な事務作業が求められるようになります。

事務作業がさらに煩雑になるリスクはありますが、アンケート調査ですべての実態を把握するのは不可能です。業界全体での人材確保といった視点で考えれば、財務諸表の提出の義務化は必要な措置ともいえるでしょう。

今後はいかに中小といえども、しっかりとした経営と財務に対応していく必要があります。今のうちに経営を見直し、取れる加算や補助金については、できるかぎり多くの事業所で取得することが求められています。

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