介護離職者は2022年時点調査で約10万6,000人

5年前の前回調査から7,000人増加

総務省は7月、2022年の「就業構造基本調査」の結果を発表し、2022年10月時点において直近1年間で介護・看護を理由として離職した人の数が、10.6万人であることが明らかにされました。前回調査の2017年から7,000人増加する形となっています。

介護離職者数は2007年時の調査では14.5万人。

2012年調査では10.1万人と約4万人減少しましたが、その後10年、減少傾向はみられません。介護離職が社会的に問題視されて久しいですが、毎年必ず10万人前後の介護離職者が発生し続けているという状況です。

また、介護離職者10.6万人のうち、離職してそのまま職に就いていない無業者は8.3万人、有業者は2.3万人でした。約8割の人が、介護と仕事の両立がしやすい職場などに再就職をせずに、自宅にて介護に取り組み続けているわけです。

働きながら介護をしている人は、男性が157万人で前回調査から5万人増、女性が208万人で同13万人増でした。高齢化が進展し、要介護認定者数も毎年増え続ける中、介護と仕事の両立を余儀なくされている人は増え続けています。

こうした介護離職の話題を扱う場合、念頭に置かれているのは一般企業に勤めるサラリーマンであることが多いのではないでしょうか。しかし当然ながら、介護現場で働く介護職もまた、老親が要介護状態となれば介護離職の危機に直面します。介護離職は、介護のプロである介護職にとっても決して他人事ではないわけです。

介護離職とは?

介護離職とは、要介護状態となった家族の介護を行うために、介護者がそれまで勤めていた職場を退職することです。

要介護者が軽度の段階であれば、仕事と介護の両立は何とか可能な場合もありますがが、次第に容態が悪化していくと介護に必要な時間が増え、それまでのように仕事に取り組むことが難しくなってきます。

しかし一度介護離職をすると、介護者にとっては多くの問題がありますが、そのうち最大のデメリットと言えるのが、再就職の難しさ・収入減です。

施設への入所や死別によって介護負担がなくなった後、当然ながら介護者としては、自分の生活・人生のために再就職を望みます。

しかし介護離職によりそれまでのキャリアが分断されたこともあり、希望通りの職場で働くことが難しくなることも多いです。

また本人の意思という面もあります。いったん仕事から離れ、仕事とまったく関係のない介護を長期間行うことで、就業意欲が低下しまうケースも少なくありません。そのことも再就職を難しくする要因と言われています。

介護離職後に、介護と仕事を両立できる職場に改めて転職するという方法もあります。

しかし実際に転職が成功しても、介護離職前に比べて待遇・給与額が下がることも多いです。2014年に「株式会社明治安田生命生活福祉研究所」と「公益財団法人ダイヤ高齢社会研究財団」が共同で実施した調査(介護離職者2,300人を対象)によると、介護のために転職した場合、引き続き正社員で働いているのは男性で34.5%。女性で21.9%でした。大半の人が、非正規雇用での就労となっています。年収額で見ると、介護離職前に比べて男性は約4割、女性は約5割の減少です。

介護と両立できるという条件を考えると、正社員では働きにくいのが実情であるわけです。

さらに介護離職をしても、精神的な負担は必ずしも軽くはなりません。

三菱UFJリサーチ&コンサルティングが2012年に実施した調査(介護離職経験者約1,000人を対象)によると、離職後に精神面、肉体面、経済面で負担が増したと回答した人の割合はそれぞれ6割を超えています。介護離職による収入減により経済的負担が増えることに加え、一日中介護をすることへの肉体的負担、介護生活によって社会から孤立することによる精神的負担が増えるため、と考えられます。

介護職にとっても介護離職は深刻な問題

介護離職の原因としての「職場」

厚生労働省の委託により株式会社NTTデータ経営研究所が行った調査研究(2019年実施)では、介護離職経験者2,000名に対して、介護離職に至った理由を尋ねるアンケートが行われています。

調査結果によると、「『手助・介護』を機に仕事を辞めた理由」を訪ねたところ(複数回答可)、最多回答となったのが「仕事と『手助・介護』」の両立が難しい職場だったから」で、全体の59.4%を占めていました。その次に多かった回答は、「「手助・介護」をする家族・親族が自分しかいなかったため」の17.6%、3番目に多かったのが「自分の心身の健康状態が悪化したため」の17.3%で、最多回答と2番目以降の回答の差が非常に大きい結果となっています。つまりこの調査結果は、「職場のせい」と考えている介護離職者が圧倒的に多い実態を明らかにしていると言えます。

なお、「自分の希望として[手助・介助]に専念したかったため」との回答割合は15.4%のみでした。約85%の人が、本当は働き続けたかったのに、望まない形で介護離職せざるを得なかったわけです。

介護職にとっても重要な問題である介護離職

介護離職というと、一般企業における離職が想定されがちですが、しかし実際には介護職にとっても重要な問題です。

公益財団法人介護労働安定センター「令和3年度介護労働実態調査」によれば、介護職の平均年齢は男性が42.3歳、女性が49.2歳です。専門職別にみると、介護支援専門員が53.4歳、訪問系介護職(ホームヘルパーなど)が48.6歳、居住系(有料老人ホームなど)が47.8歳、施設系(通所型・デイサービスなど)が46.3歳、施設(入所型・特養など)が44.4歳となっています。

介護職の年齢は平均40代であり、年齢が高めな介護支援専門員で50代。親世代がちょうど70~80代になる頃で、要介護状態になりやすい年代です。介護のプロである介護職自身も、親の介護に直面する、あるいは直面している人は多いと推測されます。

介護職は自身の専門知識・スキルがあるので、効果的、効率的な在宅介護ができます。介護の仕方を理解している点は他の職種の人より有益であると言えるでしょう。

しかし、夜勤があり、勤務体制は一般企業などよりも不規則です。施設によっては人手不足で、繁忙状態が長期的に続くこともあります。仕事内容を考えると、介護との両立が困難になりやすいと考えられます。

介護離職を避けるために必要な対策

仕事と介護の両立を実現するには?

「みんなの介護」では、「介護と仕事を両立するコツ」に関するネット上でのアンケート調査を実施しています。その回答を見ると、多かったのは「家族間で介護を分担する」「勤務先に相談する」「ケアマネジャーに相談する」「高齢者支援制度を利用する」などでした。それぞれのコツの具体的な内容は以下の通りです。

  • 家族間で介護を分担・・・自分だけに介護負担が集中しないように、親が元気なうちから、家族の間で介護負担の分担について相談しておく。
  • 勤務先に相談する・・・介護に取り組む必要が生じたことを職場の上司・同僚に相談し、勤務体制の見直しなどを図る。
  • ケアマネに相談する・・・在宅介護で利用できる介護サービスの利用について相談する。
  • 支援制度の利用・・・介護休業制度、介護休暇などの各種支援制度を利用する。

これらは一般企業に勤めるサラリーマンを想定しての回答と思われますが、介護職にとっても当てはまる内容と言えます。

介護サービスの利用については、介護職であれば知識も豊富で、より適切・合理的なサービスの選択が可能になるでしょう。

老人ホームを活用し、負担を減らす

コストがかかるものの、老人ホームなど入所施設を利用することで、介護負担をほぼゼロにできます。

老人ホームは、介護職の方はご存じの通り、現在では介護だけでなくリハビリ体制も充実し、レクリエーション、イベントも盛んです。同年代の入居者との出会いもあり、新しい知人・友人も増やせます。特別養護老人ホームなどの介護保険施設をはじめ、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅、グループホームなど種類が多く、それぞれ棟数・戸数は増え続けており、入居先となる施設の選択肢は多いです。

介護職は、自分が持つ専門知識・施設情報を活かせるので、一般の人よりも自分の老親に適した施設を探しやすいです。要介護者の介護度が上がり、「介護」と「介護のお仕事」との両立が難しくなってきた場合は、施設利用により負担を減らすことは有効な選択肢の一つです。

今回は介護離職の問題について考えてきました。介護離職は介護職にとっても重要な問題。ただでさえ人手不足が深刻化している介護職が介護離職しないように、行政の側も何らかの特別な対策が必要なのかもしれません。

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