介護報酬体系を簡素化すべきとの提言
社会保障審議会・介護保険部会で議論がスタート
9月15日、社保審・介護給付費分科会にて、介護報酬体系の簡素化をテーマとした議論が行われました。今後、2024年度の制度改定に向けて具体案をまとめていく予定とのことです。
厚生労働省によると、2023年時点における介護報酬のサービスコードは2万1,884。
サービスコードとは正式名称を「介護給付費単位数等サービスコード」と言い、介護給付費明細書、サービス利用表などに記載される6桁の数字・コードのこと。サービスの種類コード2桁、サービス項目コード4桁で構成されます。コードは、サービス提供事業所の規模、利用時間、介護度などによって数字が変わり、介護事業者が事務作業を行う際、適切なコードを逐一記入しなければなりません。
コード数が増えていることは、それだけ介護給付費=報酬制度が複雑化していることを意味します。実際にはまったく算定されていない加算も多く、報酬体系を見直すべきというのが、今回の議論の趣旨です。
「基本報酬」と「加算」で構成される介護報酬体系
介護報酬とは、介護サービス事業者が利用者(要介護者又は要支援者)にサービス提供を行った際に、その対価として事業者に対して支払われる報酬のことを指します。
介護報酬はサービスごとに規定され、大きく分けて「出来高報酬」と「包括報酬」の2種類に分けられます。
- 出来高報酬・・・「サービス提供1回ごとに提供時間別に決定」(訪問介護、訪問看護など)、「サービス提供1回ごとに提供時間別および要介護度別に決定(通所介護、通所リハなど)、「1日ごとに要介護度別に決定」(短期入所、グループホーム、特養など)の3タイプがあります。
- 包括報酬・・・「要介護度別に月額定額」(定期巡回、小多機、看多機など)、「要介護度に関係なく月額定額」(療養通所)の2タイプがあります。
また、出来高報酬、包括報酬のそれぞれは、さらに「基本報酬」と「加算」とで構成されます。
- 基本報酬・・・サービス種別ごとに単位数(1単位はおおむね10円で換算可能)が定められている報酬のこと。
- 加算・・・専門職・有資格者の配置割合、専門的なサービス提供の有無、人員配置体制、サービス提供体制の構築状況、中重度者の受け入れ度合いなど、多様な算定条件を満たすことで得られる単位・報酬のこと。なお、「加算」だけでなく、所定の基準を満たしていない状態でサービス提供を行った場合、「減算」もされます。
加算を増やし過ぎ⁉複雑化した介護報酬体系
介護保険制度が始まって以来、加算の数が激増
基本報酬と加算からなる介護報酬ですが、冒頭で紹介したサービスコード数の増加の背景にあるのが、制度改定のたびに追加されてきた「加算」の激増です。
厚生労働省によると、加算の種類は、介護保険制度が始まった2000年から2023年現在までの間に、以下のように増えてきたと言います。
- 訪問介護・・・2000年当時は3種類、2023年現在は22種類。
- 通所介護・・・2000年当時は5種類、2023年現在は31種類。
- グループホーム・・・2000年当時は1種類、2023年現在は31種類。
- 特別養護老人ホーム・・・2000年当時は8種類、2023年現在は65種類。
加算項目が増えると、そのたびに取得すべきかを検討し、書類上の作業も増えます。これだけ増えると、特に新規に介護事業に進出する事業者にとっては、取得の検討をするだけでも大変です。
算定されていない加算、算定実績1%未満の加算も多数
介護保険制度が始まって以来増え続けてきた加算ですが、加算率が高いものがある一方で、実は加算対象とならず算定がされていないもの、算定率が1%未満にとどまるものが多数あります。
厚生労働省が社保審・介護給付費分科会で提出した資料によると、2022年度に算定がなかった加算は20種類(延べ194種類)。療養型ショートステイなどにおける「若年性認知症利用者(入居者)受入加算」、夜間対応型訪問介護における「サービス提供体制強化加算」などが含まれています。
また、月間算定率の平均が1%未満(算定事業所数が月平均で9以下)の項目は、41種類、延べ175種類。予防認知症通所介護の「口腔・栄養スクリーニング加算」、地域密着型特養の「小規模拠点集合型施設加算」などが含まれています。
こうした算定がない加算、算定率が極めて低い加算は、無くしたり再編したりできるでしょう。
加算の種類が整理されることで期待できる効果
利用者にとっては、何に費用負担しているのか明確に
サービスを利用している側にとっては、加算の種類がスリム化されれば、何に費用負担しているのかが分かりやすくなります。
介護報酬には、利用者の自己負担額1~3割が含まれます。加算の種類が多く、介護報酬体系が複雑だと、どのようなサービスに対してどれだけ費用が掛かっているのかが分かりにくいです。もし簡素化されれば、利用者が理解・納得した上で介護保険サービスを利用できます。
また、介護報酬は利用者の自己負担額以外(7~9割)は保険者(市町村)の財源が充てられますが、この財源も市民が支払う介護保険料と公費(税金)で構成されています。「どんなサービスを提供し、それにどのような加算・費用がかかっているのか」を単純化して分かりやすくすることは、国民への説明責任を果たすという意味でも重要と言えます。
介護事務作業の軽減にも
介護報酬の体系が簡素化されれば、書類作成などの介護事務作業の量が減ります。加算の種類が多いと、介護給付費明細書、サービス利用表などの記載量が増え、書類作成作業が大変です。報酬体系が簡素化されてスリム化すれば作業が楽になります。
この点、特に中小・零細規模の事業所の恩恵が大きいです。大手の介護事業者であれば、必要となる介護事務職員を雇用する余裕もありますが、中小・零細は人手不足により、介護職が事務作業も兼務します。報酬体系の簡素化によりその作業量を減らすことが可能です。
事務作業の煩雑さは、「専門性・能力を発揮できない」として、介護職員の離職理由にもなり得るものです。
厚生労働省の資料(2018年公表)によると、全国の介護福祉士に対して前職を辞めた理由を尋ねるアンケート調査を実施したところ、全体の13.2%の人が「専門性・能力を発揮できないから」と回答していました。この専門性を発揮できない業務の最たるものが「事務作業」。事務作業自体は、介護福祉士になるために学んできたこと、介護のスキル・知識とは無関係の作業です。その作業量を減らすことは、介護職本来のやりがいを確保することにもつながります。
今回は社保審・介護給付費分科会で議論されている介護報酬体系の簡素化について考えてきました。介護保険制度が始まって約23年。足し算の論理で積み上げてきた加算の体系を、そろそろ一度見直してスリム化する作業が必要なのかもしれません。