地域包括ケアシステムの概要と看護師の役割

地域包括ケアシステムとは何か?目的と構成要素を理解しよう

地域包括ケアシステムとは、高齢者が住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、医療・介護・予防・住まい・生活支援が一体的に提供される体制のことを指します。その目的は、高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援を目指すことにあります。

地域包括ケアシステムの構成要素は、大きく分けて「医療」「介護」「予防」「住まい」「生活支援」の5つです。

医療と介護の両方を必要とする高齢者を地域で支えるためには、これらのサービスを切れ目なく提供することが重要となります。

2025年には、65歳以上の高齢者が3,677万人に達し、総人口の30%を占めると推計されています。

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今後ますます高齢化が進む中で、地域包括ケアシステムの構築は喫緊の課題と言えるでしょう。

地域包括ケアシステム構築の背景にある高齢化社会の現状と課題

日本の高齢化は世界に類を見ないスピードで進行しており、2025年には65歳以上の高齢者が総人口の30%を超えると予測されています。それに伴い、要介護者数も増加の一途を辿っており、2025年には約700万人に達すると見込まれています。

地域包括ケアシステムにおける看護師の役割とは?3つの視点から現状と課題を解説!
高齢化が進む日本

こうした高齢化の進展は、医療費や介護費の増大につながります。持続可能な社会保障制度を維持するためにも、住み慣れた地域で自立した生活を送れるよう支援していく地域包括ケアシステムの構築が求められているのです。

しかし、地域包括ケアシステムを推進する上では、医療と介護の連携不足、サービス提供体制の整備の遅れ、地域差の存在など、さまざまな課題が指摘されています。これらの課題に対応していくためには、関係者の協力体制の構築と、地域の実情に応じた取り組みが不可欠です。

地域包括ケアシステムにおける看護師の役割の全体像

地域包括ケアシステムにおいて、看護師は医療専門職として重要な役割を担っています。特に、在宅医療の推進と医療機関との連携、介護との協働、予防活動の推進、生活支援などの側面で、看護師への期待は大きくなっています。

2018年の在宅医療・介護連携推進事業の実施率は、全国平均で92.1%に達しました。看護師は、こうした連携の要として、多職種をつなぐコーディネーターとしての役割も担っています。

地域包括ケアシステムの中で、看護師は患者の生活を支える視点を持ち、疾病管理だけでなく、予防的観点から健康問題を捉え、住民に寄り添いながら支援していくことが求められています。

看護師自身も、地域の一員として、住民との協働を意識しながら活動していくことが重要です。

地域包括ケアシステムにおける看護師の役割と多職種連携

予防における看護師の役割:健康教育と早期発見・早期対応

地域包括ケアシステムにおいて、看護師は予防活動の推進に重要な役割を果たしています。特に、住民に対する健康教育と、疾病・介護予防のための早期発見・早期対応が重要な柱となっています。

健康教育では、住民の健康リテラシーの向上を図り、セルフケア能力を高めていくことが目標となります。看護師は、住民が主体的に健康管理に取り組めるよう支援し、生活習慣病予防などの保健指導を行います。

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保険指導も大きな役目

また、早期発見・早期対応の観点からは、地域での健康診査や訪問活動を通じて、虚弱高齢者や閉じこもりがちな高齢者を把握し、適切な医療や介護サービスにつなげていくことも看護師の重要な役割です。

2018年度の介護予防・日常生活支援総合事業の利用者数は、要支援認定者の約50%に当たる約90万人でした。

看護師は、こうした事業の中で、要支援・要介護状態になることを予防する活動を担っています。

医療における看護師の役割:在宅医療の推進と医療機関との連携

地域包括ケアシステムの中で、在宅医療の果たす役割は非常に大きくなっています。看護師は、在宅医療の推進と、病院・診療所等の医療機関との連携の要として重要な役割を担っています。

在宅医療の現場では、看護師は医師との協働の下、患者の疾病管理や医療処置を行うと同時に、生活支援や療養環境の調整なども行います。また、緊急時の対応や、患者・家族への心理的支援、意思決定支援なども看護師の重要な役割となっています。

2018年の在宅患者訪問診療料算定回数は、前年比6.1%増の1,671万回でした。在宅医療のニーズが高まる中で、看護師には、医療機関間の連携を推進し、切れ目のないサービス提供体制を構築していくことが求められています。

介護における看護師の役割:生活支援と多職種連携のコーディネート

地域包括ケアシステムにおいて、医療と介護の連携は欠かせません。看護師は、介護職をはじめとする多職種との協働を推進する上で、重要な役割を担っています。

特に、ケアマネージャーとの連携は重要です。看護師は、ケアマネージャーと協力しながら、利用者のアセスメントを行い、適切なケアプランの作成と、サービス提供体制の調整を行います。

また、サービス担当者会議等の場を活用しながら、多職種間の情報共有と連携を推進することも看護師に求められる役割です。看護師には、医療的な視点を持ちつつ、生活者の視点に立って利用者を支援していくことが期待されているのです。

2018年度の地域ケア会議の開催回数は、前年度比7.1%増の11万9,423回でした。

地域ケア会議は、多職種協働を推進する上で重要な場であり、看護師の積極的な参画が求められています。

生活支援における看護師の役割:地域資源の活用と住民との協働

地域包括ケアシステムでは、インフォーマルサービスを含めた地域の支え合いの体制づくりが重視されています。看護師は、地域資源を活用しながら、住民との協働を進めていくことも求められています。

例えば、地域のボランティアや NPO 等との連携を図り、見守り活動や外出支援など、助け合いの活動を推進することも看護師の役割の1つです。また、介護予防教室の企画・運営や、認知症カフェ等の開催を通じて、住民同士のつながりづくりを支援することもあります。

こうした活動を通じて、看護師は地域のネットワークを広げ、互助の基盤を作っていくことができます。専門職の視点を活かしつつ、住民の生活課題を共有し、ともに解決策を探っていく。

そんな協働の姿勢が、看護師には求められているのです。

地域包括ケアシステムにおける看護師の役割とは?3つの視点から現状と課題を解説!
住民の生活課題を解決していくことも看護師には求められる

2018年度の生活支援コーディネーターの配置人数は、前年度比19.6%増の4,172人でした。地域のニーズに即した支援体制を整備していく上でも、看護師と生活支援コーディネーターの連携は重要と言えるでしょう。

地域包括ケアシステムにおける看護師に求められるスキルと課題

地域包括ケアシステムで働く看護師に必要なスキルと資質

地域包括ケアシステムで活躍する看護師には、これまでの病院での臨床経験を活かしつつ、地域で求められる新たなスキルを身につけていくことが求められます。

具体的には、アセスメント力、コミュニケーション能力、他職種との調整力、マネジメント能力などが重要なスキルとして挙げられます。

利用者の心身の状態を把握し、必要とするサービスを適切に組み合わせ、関係職種との連携を調整する。そうした能力が、地域で活躍する看護師には欠かせません。

加えて、地域の文化や価値観を理解し、住民に寄り添う姿勢も大切です。画一的なサービス提供ではなく、一人ひとりの生活や人生を理解し、その人らしさを大切にしたケアを心がける。そんな資質も、地域で求められる看護師像と言えるでしょう。

2018年度の特定行為研修修了者は、前年度比28.8%増の2,759人でした。今後は、特定行為研修の活用等により、さらなる看護師の役割拡大と専門性の向上が期待されています。

訪問看護の現状と課題:人材不足と報酬体系

地域包括ケアシステムの中で、訪問看護の果たす役割はますます大きくなっています。しかし、その一方で、訪問看護の現場ではさまざまな課題を抱えているのも事実です。

特に大きな課題となっているのが、慢性的な人材不足の問題です。訪問看護師の確保が難しく、ニーズに見合うだけのサービス提供が困難な状況も生じています。人材の育成・定着に向けた取り組みの強化が急がれます。

また、現行の介護報酬体系では、短時間の訪問や緊急時の対応等への評価が十分とは言えません。サービスの継続性と質の確保に向けて、報酬体系のさらなる改善も課題の1つと言えるでしょう。

2022年度の訪問看護ステーション数は、前年度比約10%増の14,304カ所でした。

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訪問看護ステーション数の推移

在宅医療の需要増に対応できる訪問看護提供体制の整備が急務となっています。

病棟看護師から地域看護師への転換における課題と対策

地域包括ケアシステムを担う看護師を確保していく上では、病棟で働く看護師の「地域への移行」を推進していくことも重要な課題です。

しかし、病棟と地域では、求められる知識・スキルも働き方も大きく異なります。スムーズな移行を図るためには、さまざまな課題の解決が求められます。

具体的には、地域で必要とされる知識・スキルの習得、地域の社会資源や連携方法の理解、利用者の生活を支援する視点の獲得など、病棟とは異なる視点や能力が求められます。

こうした学びの機会を確保し、キャリア形成を支援していく仕組みづくりが重要となります。

また、病棟と地域の仕事の違いから、地域への不安を抱える看護師も少なくありません。意識の変革を促し、地域でのやりがいを見出せるような取り組みも必要です。

病棟と地域の交流の機会を増やすことで、互いの仕事への理解を深めていくことも大切でしょう。

2018年度の病床機能報告における退院調整部門の設置率は、一般病棟で68.1%でした。病棟と地域の連携を推進し、切れ目のない支援体制を構築していくことが求められています。

地域包括ケアシステムにおける看護師の役割拡大と専門性の向上

地域包括ケアシステムにおいて、看護師に期待される役割は今後ますます拡大していくことが予想されます。これからの時代の看護師には、これまで以上に高度な知識と技術、そして広い視野を持った対応力が求められるのです。

特定行為研修制度の活用は、看護師の役割拡大と専門性の向上に向けた大きな一歩と言えるでしょう。医療的ケアの必要な利用者への対応力を高めるためにも、特定行為研修の受講を推進し、より多くの看護師がより高度な医療的ケアを提供できるようになることが期待されています。

また、認定看護師や専門看護師など、特定の分野に特化した専門性を持つ看護師の活躍も重要です。例えば、地域で増加する認知症高齢者への対応を担う認知症看護認定看護師や、がん患者の在宅療養を支える緩和ケア認定看護師など、専門的な知見を持つ看護師のニーズは高まっています。

さらに、地域包括ケアを推進する上では、看護師自身のマネジメント能力の向上も欠かせません。多職種連携をコーディネートし、地域の社会資源を効果的に活用していくためには、看護師自身がリーダーシップを発揮し、地域をマネジメントする力を身につけていく必要があるのです。

2025年における看護職員の需要数は約194万人と推計され、2018年の約177万人から約23万人の増加が見込まれています。

地域包括ケアシステムにおける看護師の役割とは?3つの視点から現状と課題を解説!
看護職員の需要推計

量的な確保とともに、質の高い看護師の育成が、地域包括ケアシステムの成功の鍵を握っていると言えるでしょう。

地域包括ケアシステムの推進は、これからの超高齢社会を支える大きな柱です。医療と介護、予防と生活支援を一体的に提供し、住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最期まで続けられるようにする。

そのためには、地域の多様な専門職や住民が手を携え、協働していくことが何より大切です。

看護師には、自らの専門性を活かしつつ、他職種や地域住民とのつながりを広げ、支え合いのネットワークを構築していくことが期待されています。臨床での知識と技術に加え、地域の人々に寄り添い、共に歩む力を持つこと。これからの時代に求められる看護師の姿ではないでしょうか。

新しい時代の地域包括ケアシステムをともに創り上げていく。その担い手として、看護師の果たすべき役割はますます大きくなっていくことが予想されます。