介護事業者の倒産が過去最多に

東京商工リサーチが老人福祉・介護事業の倒産状況を調査

12月3日、東京商工リサーチは『2020年「老人福祉・介護事業」の倒産状況』で2020年における1月~12月2日までの老人福祉・介護事業者の「倒産」件数と、「休廃業・解散」件数を明らかにしました。

それによると、その間の介護事業者の倒産件数は112件。この数字は前年比で0.9%も上回っており、過去最多を記録しています。

このペースが続けば、2020年の年間倒産件数は120件を超える見通しとのことです。

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出典:『2020年「老人福祉・介護事業」の倒産状況』(東京商工リサーチ)を基に作成 2020年12月10日更新

また、2020年1月から10月までに「休廃業・解散」した事業者は406件。前年の395件をすでに上回っている状況です。これまでの過去最高記録は2018年の445件でしたが、こちらも上回る可能性が高いとみられています。

倒産した介護所業者の特徴として、8割が負債額1億円未満の事例が占められており、中小規模の介護事業者は厳しい状況であることが伺えます。

介護施設が倒産すると利用者・入居者に負担がかかる

介護施設の倒産は、その施設に入居している入居者に大きな負担を背負わせることになります。一般企業が倒産する場合は、民事再生手続きを経て事業譲渡や事業再建をしていくのが一般的。介護事業所の場合でも民事再生法の活用が上手く進めば、倒産後の新しい運営者が見つかり、入居者はそのまま入居し続けることが可能です。運営者が変わるために従来のサービスが受けられない可能性はあるものの、基本的にそのまま入居できます。

しかし、介護事業者が倒産直前まで経営が悪化してしまうと、法人を解散して清算に入るケースが多く見られます。破産手続きを取られてしまえば、事業譲渡の道はなくなり現行のサービスは停止。入居者は一定の猶予期間のうちに退去しなければなりません。

別の介護施設や自宅への転居費用は入居者負担となります。

何より、住み慣れた環境を突然離れなくてはならないため、心身両面で大きな負担がかかってしまうのです。住環境はもちろん、これまで築いてきた利用者同士の人間関係やスタッフとの信頼関係もリセットされてしまいます。

介護施設によっては、新しい入居先探しをサポートしてくれる場合もあります。しかし、現在の介護施設から距離が離れていたり、これまでのようなサービスが受けられない施設へ移転する可能性もあります。入居者やその家族の不安は計り知れないものとなるでしょう。

倒産件数が過去最多となった理由

1:従来からの人手不足や他社との競争の激化

介護事業者の倒産件数が過去最多となった要因として、『2020年「老人福祉・介護事業」の倒産状況』では以下のように述べています。

新型コロナの影響や人手不足で先行きがわからず廃業を決断するケースも増えており、休廃業・解散も年間最多の2018年(445件)を大幅に上回る可能性が高い。

引用:『2020年「老人福祉・介護事業」の倒産状況』(東京商工リサーチ)

人手不足に関しては、現在の介護現場では増加する高齢者数に対して、十分に対応できるだけの人材確保ができているとは言い難い状況です。

『令和2年版高齢社会白書(全体版)』によると、2019年10月1日の段階で日本の総人口は1億2,617万人。うち65歳以上人口は3,589万人と、高齢化率は28.4%にまで達しています。

1950年の日本の高齢化率は5%に過ぎませんでした。しかし1970年には7%、1994年には14%と増加傾向が強まって、現在は国民の約3人に1人が65歳以上の高齢者です。いわゆる団塊の世代が75歳以上になる2025年の時点で、予想されている65歳以上人口は3,677万人。

高齢者数の増加は、そのまま介護の需要増大を示唆しています。

しかし、介護労働安定センターがまとめた『令和元年度「介護労働実態調査」』では、事業所調査において現場の人材不足感は依然として高い状況が続いています。人材不足感を感じているか調査したところ、従業員が「大いに不足」「不足」「やや不足」と回答した介護事業所は全体の65.3%。とくに訪問介護員の不足感を訴える事業所は81.2%、介護職員の不足感は69.7%と高くなっていて、介護サービスの中核を支える2つの職種の人材不足は厳しさを増していることがわかります。

不足している最大の理由は「採用が困難である」(90.0%)こと。事業所の大多数が介護人材の売り手市場に直面しており、採用が困難であることの理由として約6割が「同業他社との人材獲得競争が厳しい」(57.9%)と回答しています。このほか、社会的に介護業界の労働条件や待遇が良くないことや、景気の後押しで介護業界への人材流入が減少していることなども、採用困難の状況を強める理由です。

2:新型コロナによる影響

長年、介護業界が抱えてきた人手不足感にくわえて、2020年の新型コロナによる影響は介護施設の経営悪化に拍車をかけました。

NHKが全国の自治体を対象に調査したところ、新型コロナにより入所系の介護施設では2020年4月までに550人が感染。このうち60人、1割が死亡しました。こうしたコロナの感染拡大を受けて、厚生労働省は4月24日、デイサービスを中心に全国858の介護事業所が休業したことを発表。休業した事業所の98%が感染防止を理由に休業を決めたのもポイントです。

このように、介護施設では新型コロナの感染者や死亡者が発生して運営そのものがダウンしてしまうケースはもちろん、感染防止のために休業や運営縮小などを余儀なくされる施設も目立ちました。

現に、厚生労働省が発表した『新型コロナウイルス感染症の介護サービス事業所の経営への影響に関する調査研究事業(速報)』によると、2020年10月時点で「新型コロナの感染拡大で経営が「悪くなった」と回答しているのは全体で32.7%。このうち通所系や入居系の事業所の割合が特に高く、通所介護や通所リハビリテーション、短期入所生活介護は40%以上。介護老人保健施設は50.2%となっています。

介護施設の倒産件数が過去最多!新型コロナの影響で廃業が増えている
新型コロナにおける経営の影響 「悪くなった」と回答した事業所上位4位 (2020年10時点)
出典:『新型コロナウイルス感染症の介護サービス事業所の経営への影響に関する調査研究事業(速報)』(厚生労働省)を基に作成 2020年12月10日更新

介護報酬について、厚生労働省と財務省で意見が食い違う結果に

新型コロナ補助金の追加支給を自民党・厚労部会が提言

このような結果を受けて、政府は介護現場への補助金の追加支給が検討されています。2020年11月25日、自民党の厚生労働部会が第3次補正予算案に関する提言で盛り込みました。

提言の大きな柱の一つ「医療・介護・福祉の提供体制を守る」のテーマのもと、補助金による支援を実施すべきとまとめています。今回の提言は、冬が間近に迫っている中で、感染の第3波にさらされる重症化リスクの高い高齢者と介護の現場へさらなるフォローの必要性からです。提言の内容は大筋で了承されていて、今後2020年12月8日に第3次補正予算案において閣議決定の見通しです。

2021年度の介護報酬改定で労働環境が好転するかが鍵

介護の労働環境の改善が求められる中、2021年度の介護報酬改定に注目が集まっています。

介護報酬とは、介護事業者が介護保険サービスの利用者につき原則1割が利用者負担、残り9割分を保険者である市町村に介護給付等の請求をおこなう仕組みのこと。事業者の収入源のベースとなっているのが介護報酬の基準額です。介護報酬は3年ごとに改定されていて、2021年度は次の改定時期に当たります。

介護施設の倒産件数が過去最多!新型コロナの影響で廃業が増えている
介護報酬支払いの流れ
出典:『介護報酬の仕組みについて』(厚生労働省)を基に作成 2020年12月10日更新

2020年11月、田村憲久厚生労働相は、介護報酬の引き上げに意欲的な姿勢を見せました。

11日の厚労委でも必要なものを主張して介護現場を守るために報酬を決めていくべきだと発言しています。

一方で、財務省は介護報酬の引き上げには否定的な立場を取っています。2020年11月25日の財務省の財政制度等審議会による提言で2021年度の介護報酬改定に触れられました。40歳以上の介護保険料や利用者の自己負担額の増加につながるため、全体的な報酬引き上げは、そして介護職員の処遇改善も先送りする姿勢です。

財務省は、今後も増加傾向が強まるとみられる介護関連予算や新型コロナウイルス感染拡大の影響から、介護報酬の引き上げではなく、ICT化による運営の効率化や失業対策の一環で介護人材の流入促進を優先すべきとしています。

しかし、現状で介護施設の倒産が過去最多ペースを更新しつづける中、介護現場に手厚いフォローをしなければ、現に介護サービスを受けている利用者の生活をおびやかす事態にもなりかねません。国として介護を守る取り組みをどう決定していくのか、適切な判断が期待されます。

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