超高齢社会に向けて、介護業界のキーパーソンによるリアルな声を届けるインタビュー企画「ビジョナリーの声を聴け」。

今回は公益社団法人全国有料老人ホーム協会(以下、有老協)より、常務理事・渡邉潤一さん、事務局次長・光元兼二さんにご登場いただき、昭和57年の設立から40年以上にわたり入居者の保護と健全な事業運営の道を切り拓いてきた協会の歴史と今後のビジョンについて伺った。

昭和57年の設立――有老協の原点

みんなの介護 有老協は昭和57年(1982年)に設立されましたよね。当時、有料老人ホームの業界はどのような課題を抱えていたのか、教えていただけますか。

光元 1980年代はまだ介護保険制度が始まる前で、有料老人ホームの数も100に満たない時代でした。一定の年齢に差しかかった方が「子どもには迷惑をかけたくない」という思いから、元気なうちに住み替える自立型のサービスが中心だったんです。ただ、民間の有料老人ホームが増えるなかで、大小さまざまな問題が起きていました。そこで業界の有志が集まり、国に団体の設立を申請したのが有老協の始まりです。

みんなの介護 有志の方々が危機感を持って動かれたことが、現在の有老協の原点になったということですね。

光元 はい。民間の自主的な組織としてはじまりましたが、現在では老人福祉法の条文の中で有老協が規定されています。公的な役割を期待されている団体である、という認識を持っています。

みんなの介護 40年以上の歴史のなかで社会は大きく変化しました。そのなかで変わらない有老協のアイデンティティとは何でしょうか。

渡邉 ひと言で言えば「入居者本位」でしょうか。

90年代のゴールドプラン、2000年の介護保険制度の施行を経て、世帯構成も大きく変わりました。単身世帯や老老世帯の増加も相まって、民間企業によるいわゆる介護型の高齢者住まいが急増しました。有料老人ホームとサービス付き高齢者向け住宅の数は、2021年時点で約2.3万棟にまで伸びました。業界を取り巻く環境は変化しましたが、関係法に基づく制度の運用を“民間側”から支える団体であるというアイデンティティ、転じて入居者に対する保護と擁護のスタンスは今後も変わりません。

「入居者ファースト」を貫いて40年──有老協が描く、安心が“見える”介護の未来
常務理事・渡邉潤一さん

常務理事・渡邉潤一さん

消費者と事業者、双方へ届ける「正しい情報」

みんなの介護 有老協はYouTubeでの情報発信にも力を入れていらっしゃいますよね。どのような背景から始まった取り組みなのでしょうか。

光元 もともとは紙媒体やセミナーが中心でしたが、この30年間でメディア環境は大きく変わりました。通信環境が劇的に進化して、スマートフォンが普及しました。当時40代、50代だった方々も現在は80代以上になりましたが、ITへの抵抗感が少なくなってきたのではないかと思います。信頼できる情報をお届けするというコンセプトは変わらないまま、ハイブリッドな情報提供をはじめたのが経緯です。

「入居者ファースト」を貫いて40年──有老協が描く、安心が“見える”介護の未来
YouTubeの取り組み

有老協チャンネル(Youtubeリンク)

みんなの介護 シルバー川柳もおもしろい取り組みですよね。

渡邉 はい、2001年に「老いを楽しく」をコンセプトとしたシルバー川柳をスタートさせました。毎年15,000件を超える作品が寄せられ、最年長では101歳の投稿者もいらっしゃるんです。

コロナ禍には時事ネタを織り込んだ作品が話題を呼んだりと、25年にわたって大きな反響を得ている取り組みです。

「入居者ファースト」を貫いて40年──有老協が描く、安心が“見える”介護の未来
シルバー川柳

シルバー川柳(有老協公式サイト)

みんなの介護 事業者に対してはどのような取り組みをされていますか。

光元 直近では来年の介護報酬改定に向けた発信が中心です。行政任せにせず、事業者の皆さんが事前に何をすべきかをオンラインセミナー等で繰り返し伝えています。前回の改定では、サービス付き高齢者向け住宅等に併設するサービス事業所の減算がありました。なぜ減算になったのか、その背景や国の意図についてファクトを踏まえて、事業者として次に何をすべきかを皆さんと一緒に考えるスタンスで臨んでいます。

「入居者ファースト」を貫いて40年──有老協が描く、安心が“見える”介護の未来
事務局次長・光元兼二さん

事務局次長・光元兼二さん

光元 もう一つ力を入れているのが「生産性向上」の取り組みです。この言葉は、介護現場になかなか馴染みにくいんですよね。先日、ある事業者さんが職員にアンケートを取ったところ、「ICTって何ですか」「私たちは不要になるのでしょうか」といった声が返ってきたそうです。だからこそ私たちは、先進的なデジタル活用の事例ではなく、介護事業者の皆さんが取り組んでいる業務改善の事例を中心に紹介することを努めています。現場で使用されている手書きの申し送りノートなど、身近にあるものの中で非効率的だと思われるものを見直していく。その延長線上で、「じゃあ機械を入れたほうがいいよね」と職員さん自身が結論に至る。

そういったプロセスが大事なのだと思っています。

認定制度がもたらす「安心の可視化」

みんなの介護 厚生労働省の令和8年度概算要求に「高齢者向け住まい紹介事業者に対する認定制度」の創設に向けた調査研究が盛り込まれています。認定制度が実現すると、消費者にとってどのような変化があるのでしょうか。

光元 「どこに相談すれば安心できるのか」が“見える化”すると考えています。老人ホームの紹介事業者は、対面で相談に乗る会社もあれば、ネットやコールセンターで対応する企業など多種多様です。多くの方にとって老人ホーム探しは何度もあることではありませんから、どこに相談すれば安心なのかが分かる仕組みづくりは必要だと思います。

「入居者ファースト」を貫いて40年──有老協が描く、安心が“見える”介護の未来
認定制度について

光元 紹介事業者は全国に1,000社ほど、大手は10社ほどと言われています。紹介事業者は老人ホーム事業者から成約報酬を得て事業を運営していますので、間接的に税金と介護保険料に関わっているともいえます。公正・中立の確保に努めながら、“入居者第一”の業務運営をしていただくことが重要です。

みんなの介護 規制で縛るのではなく、紹介事業者と共に発展するための「共通ルール」はどう構築していくべきでしょうか。

光元 「絶対に守らなければならないこと」と「業界に一定の秩序を持たせるための努力事項」を分けて整備していくべきだと考えています。具体的に、消費者の意思決定を歪めない、社会保障制度の健全性を確保する、コンプライアンスを遵守する、などは前者の項目だと思います。

渡邉 一社一社の倫理観に頼るだけでは限界がありますから、いずれ「仕組み」は必要になると思います。

比較的新しい事業でもあるので、仕組み化に向けて現状を整理するところから進めていくことが大切だと考えています。

2040年へのロードマップ──「人生を続ける場所」へ

みんなの介護 10年後、20年後の有料老人ホームはどのような姿になっているべきでしょうか。

渡邉 労働人口が減少するなかで、各業界で生産性向上の取り組みが進んでいると思います。ただ先ほどの話のとおり「生産性向上」という言葉よりも、中長期で取り組む「業務改善」という表現のほうが、現場にはしっくりくるかもしれません。人は人にしかできないことに注力し、機械にできることは機械に任せる。10年後・20年後の次の世代のために、今の世代から一歩一歩進めていくことが大切です。

光元 有料老人ホームそのものの在り方を考えると、介護が必要になってからの住まいとしてのニーズがますます増える一方で、健康寿命の延伸と介護リスクへの備えを同時に志向する「自立型」のニーズも増えていくでしょう。有料老人ホームが「終の棲家」ではなく、むしろ「人生を続ける場所」。社会との接点を維持し、役割や生きがいを見つける場所に変わっていくことを願っています。

みんなの介護 ありがとうございます。最後に読者の皆さんへメッセージをお願いします。

渡邉 老人ホーム選びの際には、金銭面や立地、サービス内容といった客観的な要素に加え、最終的にはご自身の目で見て、ぜひ空気感や相性を確かめていただきたいです。

直接ホームに問い合わせる方法もあれば、紹介事業者を活用する方法もあります。何から始めてよいか分からない場合や、できるだけ中立的な情報がほしい場合は、公的機関や業界団体など、複数の相談窓口を活用して情報を整理していくのも一つの方法です。

光元 労働力人口の減少という厳しい局面を迎えますが、裏を返せば、仕事のやり方そのものを見直し、テクノロジーも活用しながら自分たちの手で新しい形を生み出せる時代です。介護の仕事は、その方の人生の最終章に寄り添い、時には彩りを添えながら日々の暮らしをお支えすること。この役割はどれだけテクノロジーが進んでも決して変わらない価値だと思います。


「入居者ファースト」を貫いて40年──有老協が描く、安心が“見える”介護の未来
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