執筆:山本 恵一(メンタルヘルスライター)
医療監修:株式会社とらうべ
尊大で自己愛と欺瞞(ぎまん)に満ち、共感的な感情が欠落し、衝動的で反社会的、また、無責任な生活スタイルを選択する傾向。
こうした反社会的な性格を「サイコパス」と呼びます。

かつては「精神病質者」と日本語訳されたときもありましたが、犯罪者というイメージが伴うので、今では用いられていません。
政治家、法律家、経営者、軍人、技術者、医師、ジャーナリストなど、社会で成功している人のなかにも、サイコパスはいると言われています。
今回はこのサイコパスについて、解説していきましょう。

サイコパス:魅力的?それとも嫌悪感?
次のような特徴をもった人を、あなたはどう感じるでしょうか。
・外見や語りが過剰に魅力的で、ナルシステックである
・恐怖や不安、緊張を感じにくく、大舞台でも堂々として見える
・多くの人が倫理的な理由でためらいを感じたり、危険に思ってやらなかったりすることも平然と行うので、挑戦的で勇気があるように見える
・お世辞がうまい人ころがしで、有力者を味方につけていたり、崇拝者のようなとりまきがいたりする
・常習的にウソをつき、話を盛る。自分をよく見せようと主張をコロコロと変える
・ビッグマウスだが飽きっぽく、物事を継続したり、最後までやり遂げたりすることは苦手
・傲慢で尊大であり、批判されても折れない、懲りない
・つき合う人間がしばしば変わり、つきあいがなくなった相手のことを悪く言う
・人当たりはよいが、他者に対する共感性そのものが低い
(中野信子『サイコパス』より)
以上は、脳科学者・中野信子さんの挙げるサイコパスの特徴です。

たとえば、国際的な政治家やワイドショーで連日取りざたされている教育者など、以上の項目にあてはまるように思われる人を想像してみると、その人はあなたにとって、魅力的に見えるのでしょうか、それとも、強い嫌悪を感じる存在なのでしょうか。
中野氏によれば、「その振る舞いは、しばしば非常に魅力的に映るため、本質を知らないままファンになってしまう人も、少なくありません。閉塞感のある社会ではなおさら、その人の行動は世の中に風穴をあけてくれるような、爽快な感じを人々に与え、人気はより高まります。このように、彼らは周囲の人々を強く惹きつける力をもち、巧みに他者を利用します。」とのことです。
要注意ですね。
サイコパス:セルフチェック
イギリスの心理学者K.ダットンは、サイコパスを見つけ出す次のようなチェックリストを提案しました。

1. 事前に計画することはほとんどない。行き当たりばったりのタイプである
2. バレなければパートナー以外の人と浮気をしてもよい
3. もっと楽しい予定が入った場合、以前からの約束をキャンセルしてもよい
4. 動物が傷ついたり、痛がっているのを見ても、まったく気にならない
5. 車の高速運転、ジェットコースター、スカイダイビングをすることに興味をひかれる
6. 自分が欲しいものを手に入れるためには、他人を踏み台にしてもかまわない
7. 私には説得力がある、ほかの人々に臨むことをさせる才能がある
8. 決断を下すのがとても早く、危険な仕事に向いている
9. 他の人々がプレッシャーで潰れそうになっていても、自分は落ち着いていられる
10. もし私が誰かをだますことに成功したら、それは騙される側の問題である
11. ものごとが違った方向に行く場合、その多くは自分ではなく、他人のせいである
以上の質問に関して、「全く当てはまらない」(0点)、「当てはまらない」(1点)、「やや当てはまる」(2点)、「当てはまる」(3点)として、合計29点以上がサイコパスを疑われるという次第です。
ちなみに、18~22点が平均点とされています。
サイコパスの発生率については、かつては、女性よりも男性に多く、集団主義的なアジア圏よりも個人主義的な欧米に多いといった統計的研究もありました。
しかし現在では程度の差はあれ、人類のおよそ1000人に1人くらいの割合でいるとされています。
これが正しいとすると、日本人の約120万人がサイコパス傾向を強くもっていると仮定されることになります。

反社会性パーソナリティ障害との相関
サイコパスは精神医学的な診断概念ではありません。
そこで、これと相関するものとして、最新のアメリカ精神医学会発行『DSM-5;精神疾患の分類と診断の手引き』では、「反社会性パーソナリティ障害」が類似する診断概念として挙げられています。

A.他人の権利を無視し、侵害する広範な様式。5歳以上に起こり、次の3つ以上によって示される。
・違法で社会的規範に適合しない行為:逮捕される行為の繰り返し
・虚偽性:嘘をつく、だます
・衝動性:衝動的、無計画
・いらだたしさと攻撃性:喧嘩、暴力
・無謀さ:自分あるいは他者の安全を考えない無謀さ
・無責任:仕事が持続しない、経済的な義務をはたさない
・良心の呵責欠如:他人を傷つける行為、いやがらせや盗む行為に無関心・正当化
B.少なくとも18歳以上である
C.15歳以前に発症した素行症の証拠がある
D.反社会的な行為が起きるのが、統合失調症や双極性障害の経過中ではない

サイコパスの原因は?
社会的な病質としてのサイコパスについて、その現代的特徴を描き出すことに注目が集まっているとともに、原因究明のため、遺伝学や脳科学の研究が進められています。
たとえば、情動脳といわれる「偏桃体」の活動が低い、衝動にブレーキをかける「前頭前皮質」と偏桃体との結びつきが弱い、などの知見も明らかになってきているようですが、総合的な原因の解明はむしろこれからのこととなるでしょう。

【参考】
・中野信子『サイコパス』文春文庫、2016
・『DSM-5:精神疾患の分類と診断の手引き』

<執筆者プロフィール>
山本 恵一(やまもと・よしかず)
メンタルヘルスライター。立教大学大学院卒、元東京国際大学心理学教授。保健・衛生コンサルタントや妊娠・育児コンサルタント、企業・医療機関向けヘルスケアサービスなどを提供する株式会社とらうべ副社長
<監修者プロフィール>
株式会社 とらうべ
医師・助産師・保健師・看護師・管理栄養士・心理学者・精神保健福祉士など専門家により、医療・健康に関連する情報について、信頼性の確認・検証サービスを提供