学習指導要領の改訂等に伴い、学校でも金融教育が盛んな昨今。「東証マネ部!」では、教員経験を持つ作家の乙武洋匡氏をレポーター役に、金融教育の最前線を追っていく。
今回は、“おこづかい制度”を廃止して、子どもたちが家庭内で自営業を通して経済感覚を養う新商品、「ユニコーンラボ」に着目! 発案者である株式会社UNICORN PoPoの代表、永野天実氏に話を聞いた。
学習指導要領の改訂等に伴い、学校でも金融教育が盛んな昨今。「東証マネ部!」では、教員経験を持つ作家の乙武洋匡氏をレポーター役に、金融教育の最前線を追っていく。
今回は、“おこづかい制度”を廃止して、子どもたちが家庭内で自営業を通して経済感覚を養う新商品、「ユニコーンラボ」に着目! 発案者である株式会社UNICORN PoPoの代表、永野天実氏に話を聞いた。
自分で育てた野菜を売って稼ぐ!
乙武 この「ユニコーンラボ」、親から子どもにおこづかいを渡すのではなく、家庭内で商売をして収入を稼がせるというのは、とてもユニークな発想ですよね。
永野 ありがとうございます。「ユニコーンラボ」はおこづかいという制度をなくし、子どもがキットを使って育てた野菜を、親やおじいちゃんおばあちゃんに買ってもらうことで収入を得る仕組みです。主に小中学生が対象で、お金を“もらえるもの”ではなく、自分で稼ぐものと体感してもらうことで、子どもに金銭的な自立を促すのがコンセプトです。
乙武 非常に斬新ですが、どのような経緯で生まれたものなんですか?
永野 私自身、物心ついた時からおこづかいをもらっていなかったことが大きいと思います。そこで、自分で焼いたお菓子を親や祖父母に売って収入を得るようになり、その体験がそのまま「ユニコーンラボ」の着想に繋がりました。
乙武 なるほど、ご家庭の環境もまたユニークですね。子どもの頃から“商い”をしていたわけですね。
永野 そうですね。
乙武 それに加えて、お菓子作りのスキルもめきめき上がっていくわけですから、本当によくできたスキームですよね。
永野 そう思います。自分で考えて作ったものを、他人から評価してもらうことの大切さを学べますし、何よりお金を大切に使うようになると思います。

乙武 素朴な疑問ですが、永野さんはそのままお菓子の開発や調理などの分野に進もうとは思わなかったんですか?
永野 おっしゃる通りで、本当は製菓の世界に進むつもりでいたのですが、大学4年生の時にビジネスコンテストの募集を見つけて、何か応募してみようと思い立ってまとめたのが、この「ユニコーンラボ」の事業プランだったんです。
乙武 マイクロソフトが主催する日本最大級のビジネスコンテスト「IDEACTIVE JAPAN」で最優秀賞を受賞されたそうですね。この快挙で、大学を卒業してすぐに事業を起こす方向にシフトしたというのは、実に面白い展開です。
“商売”をきっかけに育まれる様々なアイデア
乙武 「ユニコーンラボ」の発売が2024年6月。反響はいかがでしたか?
永野 発売直後に想定の3倍以上の注文をいただき、最初に用意した100台があっという間に完売してしまいました。これは私としてはかなり想定外でしたね。
乙武 というと、もっとスロースタートをイメージしていたんですか?
永野 そうですね。たしかに新しいものではあるものの、「果たして受け入れられるのか」という不安のほうが大きかったです。
乙武 その反響の源は何でしょう? 何か特別なプロモーションを行ったんですか。
永野 もちろん自分でもある程度の発信はしましたが、取り上げていただいた記事がSNSでバズったり、様々な経営者や起業家の方に評価していただいたことで、急速に広まったようです。
乙武 それだけこのモデルにインパクトがあったということですよね。また、実際に「ユニコーンラボ」を使ったご家庭からは、どのような声が届いていますか?
永野 たとえば、お子さんが自発的に物事を考えるようになったという声や、一緒に買い物に行った時に、店頭で野菜の価格をチェックするようになったという声が多く寄せられています。

乙武 マーケティング意識というか、自然と市場に目が向くようになったわけですね。私がチェックした記事では、「もっと売上げを伸ばすために、偏食だった子どもが自ら進んで野菜をもりもり食べるようになった」という声があって爆笑しました(笑)。
永野 そういう声もよくいただきます(笑)。結果として食育にも繋がっていて、たとえばほうれん草の苦手なお子さんの場合、お母さんが「ほうれん草だったら500円で買うよ」と誘導するようなケースも耳にします。
乙武 なるほど。「食べなさい」と強要するよりも、たくさん消費すれば自分が儲かるという方向に持って行くんですね。
永野 ユニークなところでは、「ユニコーンラボ」を始めたお子さんが、釣りに行く前日に、「明日釣る魚を200円で買ってほしい」と、前もって親に売るモデルを編み出したという話もありました。
乙武 え、それは先物取引のようなこと?
永野 そうみたいです(笑)。
乙武 へえ、面白いなあ。子どもの発想力を鍛えることに一役買っている様子が窺えますね。
永野 おじいちゃんおばあちゃんの目線からしても、お孫さんが野菜を持って定期的に会いに来てくれるようになって、喜んでいる方が大勢います。なかには野菜の定期便を始めたお子さんもいるほどで、良い関係が作れているようです。
乙武 なるほど。たとえ営業がてらであっても、お孫さんが来てくれるのはやはり嬉しいですよね。
永野 こうして3世代でのコミュニケーションが増えたというお言葉は、非常に多いですね。
月額3000円超を売り上げる子どもも
乙武 ところで、「ユニコーンラボ」を使っている子どもたちは、実際のところ月にどのくらい稼げているんですか?
永野 家庭内のことなので精密なデータが採れているわけではないのですが、小学校1年生にして月額3000円以上も売り上げる子どもも珍しくありません。
乙武 それは素晴らしい。しっかり狙い通りに機能しているということですよね。「ユニコーンラボ」を商品化するプロセスで、とりわけ苦労したのはどのような点でしょうか。
永野 どうすれば簡単に早く、美味しい野菜を作れるかという仕組みの部分ですね。幼いお子さんほど、失敗するとモチベーションが下がってしまいますから、いかに続けてもらうかがカギでした。
乙武 そのあたりは様々な機材を試しながら、ひたすら実証実験を重ねるしかないのでしょうか。
永野 そうですね。LEDライトも専門のメーカーさんに高性能なものを特注して、レタスが3週間前後で育つ仕様になっています。子どもの側からすれば、1カ月の収入が立てやすいペースですね。

乙武 そもそも、庭の家庭菜園やベランダのプランターで育てるのではなく、室内で、それもLEDライトで野菜が栽培できるという仕組み自体が手軽でいいですよね。
永野 単純に、水耕栽培キットとしてもリーズナブルだと思います。そのためか、大人の方からも「楽しい」という声をよくいただきます。私もこの2年、ずっと野菜を育てていますが、苦手な虫が寄り付くことがないので助かっています(笑)。
乙武 逆に、ここまでの半年間で、ユーザーからネガティブなフィードバックもありましたか?
永野 発表当初に寄せられたコメントのなかには、「最初に親が3万円ほど出して導入するものだから、これは本当の自立ではない」という意見もありました。
乙武 でも永野さんは、家計への貢献も数値化されていますよね。
永野 はい。事前に小学生約20人と1年間の実証実験を行った結果、子どもは本来もらえるおこづかいの平均額の、2倍以上の収入が得られ、親は親で相場より安く野菜が購入できるため、年間約1万7000円の節約に繋がるという試算が出ています。
乙武 ということは、親からしても2年間も続けてくれれば十分にペイするわけですね。まあ、それ以上に教育的効果が大きいわけですが。
永野 ただ、そうしたご意見があることを踏まえて、子どもが自分で月額料金を払うリース型のサービスを現在検討しています。たとえば月に3000円売り上げる子どもからすれば、月額600円程度のレンタル費は十分に払える範囲だと思いますので。
乙武 たしかに。あるいは、親が買って子どもから毎月レンタル代を徴収する仕組みにしてもいい。野菜の代金と相殺することもできますし。
永野 ああ、なるほど。それもありですね。
乙武 いろんな意見を取り入れながら、「ユニコーンラボ」がまだまだ進化の途上にあることがよくわかります。