IFRSとは?導入メリット・デメリットや日本会計基準との違い...の画像はこちら >>


IFRS(読み:イファースなど)は、世界共通の会計基準として注目されています。導入することで、海外からの資金を調達しやすくなったり、海外企業と業績を比較しやすくなったりするでしょう。

ただし、導入にはコストや労力がかかる点に気をつけなければなりません。

本記事で、IFRS導入の流れについても押さえておきましょう。

IFRS(国際財務報告基準)とは

IFRSとは、International Financial Reporting Standardsを略した言葉で、国際財務報告基準のことを指します。読み方は「イファース」「アイファース」「アイエフアールエス」などさまざまです。

IFRSは、近年世界共通の会計基準として注目されています。ここから、日本や各国のIFRS導入状況を確認していきましょう。

日本におけるIFRSの導入状況

2025年1月末時点で、東京証券取引所に上場している企業のうち278社がすでにIFRSを適用しています(その他、8社も適用を決定)。

新市場区分(プライム市場・スタンダード市場・グロース市場)の中では、とくにプライム市場において、時価総額のうちIFRSを適用する企業の時価総額が占める割合が多いです。2024年6月末時点で、IFRS適用済企業・適用決定企業・適用予定企業の時価総額は489兆円で、プライム市場全体の時価総額968兆円のうち、およそ50.5%を占めています。

なお、東京証券取引所を運営する日本取引所グループも、2015年3月期よりIFRSを適用しています。

世界におけるIFRSの導入状況

EU(欧州連合)は、すでに2005年に域内上場企業の連結財務諸表にIFRSを適用することを決定しています。その後、オーストラリアやニュージーランドなどの国々でも、次々とIFRSの適用が進みました。

一方、米国ではUS GAAP(米国会計基準)を適用することが基本です。ただし、米国証券取引委員会(SEC)に登録している外国企業に対しては、IFRSを用いることが容認されています。

IFRS(国際財務報告基準)と日本会計基準の主な違い・特徴

日本には、元々独自の会計基準「日本会計基準(J-GAAP)」が存在します。IFRS(国際財務報告基準)と日本会計基準の主な違いは、以下の通りです。



・「原則主義」か「細則主義(規則主義)」か
・非上場株式を貸借対照表にどのように計上するか
・「のれん」を償却するか

それぞれ解説します。

「原則主義」か「細則主義(規則主義)」か

IFRSは原則主義を採用しているのに対し、日本会計基準では細則主義(規則主義)を採り入れている点が主な違いとして挙げられます。

原則主義とは、会計処理方法について原理原則のみを定め、数値基準などの詳細な取り扱いは設定しない手法です。それに対して細則主義は、会計処理に関する判断基準や数値基準など、細かなルールを規定する手法を指します。

そのため、IFRSの方が幅広い状況に対応しやすいです。その分、各社で独自にルールを定めなければなりません。

非上場株式を貸借対照表にどのように計上するか

保有する非上場企業の株式を貸借対照表上でどのように計上するかも、IFRSと日本会計基準における違いのひとつです。

IFRSの場合、非上場株式を時価で評価して貸借対照表に計上します。それに対し、日本会計基準では、実質価額が著しく低下しているなど特殊なケースを除き、取得原価で貸借対照表に計上する点が特徴です。

「のれん」を償却するか

「のれん」を償却するかという点も、IFRSと日本会計基準の違いです。のれんとは、M&Aで企業を買収した際に発生する、取得価額と買収対象企業の時価純資産額の差額を指します。

IFRSでは、規則的なのれんの償却はしません。それに対して日本会計基準では、20年以内の効果の及ぶ期間にわたって規則的に償却することが原則です。

企業がIFRSを導入・適用するメリット

日本企業がIFRSを導入して適用することの主なメリットは、以下の通りです。

・海外からの資金調達がスムーズになる
・海外の子会社・関連会社と情報を統合しやすい
・海外の競合企業と比較できる

ここから、各メリットについて解説します。



海外からの資金調達がスムーズになる

企業がIFRSを導入すると、海外からの資金調達がスムーズに進みやすくなるでしょう。

日本会計基準で作成された財務諸表を海外の投資家に提示しても、日本独自の基準であるため、日本の会計基準に精通していない投資家にはうまく理解してもらえない可能性があります。場合によっては、財務内容について追加で説明する必要が生じます。

一方、IFRSはヨーロッパを中心に世界中で導入が広がっている世界基準のため、海外の投資家も開示した財務諸表から対象企業の経営状況や財務状況をある程度理解できます。

海外の子会社・関連会社と情報を統合しやすい

海外に拠点を構える企業は、子会社・関連会社と情報を統合しやすい点がメリットです。

例えば、フランスの上場企業を関連会社とする場合、財務諸表をIFRSで作成しなければなりません。なぜなら、EUの域内上場企業に対してIFRSの採用が義務付けられているためです。

日本の親会社が日本会計基準を採用する一方で、海外の子会社・関連会社の財務諸表をIFRSで作成していると、グループ全体の数値を把握することが困難になります。それに対して、日本の親会社もIFRSを採用している場合は、計上方法が海外企業と同じため、スムーズにグループ全体の数字を把握できるでしょう。

海外の競合企業と比較できる

海外の競合企業と業績を比較できることも、日本企業がIFRSを導入するメリットです。

IFRSを取り入れた海外企業の財務諸表を見ても、日本会計基準で作成した自社の財務諸表とは適切に比較できません。その点、自社も同じ基準で作成していれば、それぞれの財務諸表をスムーズに比較できるため、経営判断に役立てられます。

とくに、海外進出・グローバル展開を目指している企業にとっては、大切なことでしょう。

企業がIFRSを導入・適用するデメリット

企業がIFRSを導入・適用する主なデメリットは、以下の通りです。

・コストや労力がかかる
・対応できる人材が社内にいない可能性がある

それぞれ解説します。



コストや労力がかかる

企業が新たにIFRSを導入して適用するには、コストや労力がかかる点がデメリットです。

自社の会計基準をIFRSにするには、会計システムを変更しなければならない場合があります。なぜなら、今までの会計システムがIFRS対応でない可能性があるためです。システムを新たに導入・改修するために、多額の費用がかかるケースも少なくありません。

また、IFRSは原則主義の会計基準のため、新たに社内のルール設定をしたり、業務プロセスを変更したりするなどの手間もかかります。

対応できる人材が社内にいない可能性がある

IFRSに対応できる人材が社内にいない可能性がある点も、デメリットです。

IFRSの基準書の原文は英語で記されています。さらに、IFRSの財務諸表は英文での作成が必要になるケースもあるため、英語ができてIFRSについての知識も持つ人材がいないと、スムーズに導入することは難しいでしょう。

導入してからも、適切に運用するために担当する従業員たちに研修を実施したり、マニュアルを整備したりする必要があります。

IFRSを導入・適用するまでの流れ

IFRSを導入・適用するまでの一般的な流れは、以下の通りです。

1. 導入時期を決め、システム変更の必要性や人材の確保方法などを盛り込んだ計画書を作成する
2. 必要に応じてシステムの変更、人材の確保などを進めたうえで、会計方針を文書にする
3. IFRSを採用した財務諸表を試作する
4. 試作した財務諸表の課題を解消できたら、運用を開始する

なお、運用後も必要に応じて社内ルールの修正が必要です。

IFRSを導入する際のポイント

早めに準備を進めておくことが、IFRSを導入する際のポイントです。適用するまでには、システムの変更や人材の確保などに時間を要するため、導入を決めたら早めに動き出さなければなりません。

また、IFRSの導入にはリソースが必要です。専門部署を設けて、導入に専念できる体制を構築しておきましょう。

さらに、会計基準の変更は会社全体に関することのため、従業員に周知することも必要です。



IFRSはさまざまな国で導入されている国際会計基準

IFRSとは、国際財務報告基準のことです。2005年以降、EU諸国など、さまざまな国々で導入されています。

日本企業がIFRSを導入することのメリットは、海外からスムーズに資金調達できる点や、海外の子会社・関連会社との情報を統合しやすくなる点などです。一方で、コストや労力がかかるなどのデメリットもあります。

株式投資をしている方、投資を始めたいと考えている方は、自分の関心がある企業がIFRSを適用しているかチェックしてみてはいかがでしょうか。

参考:日本取引所グループ「IFRS(国際財務報告基準)への対応」

ライター:Editor HB
監修者:鈴木 靖子(ファイナンシャルプランナー、AFP認定者)
監修者の経歴:
銀行の財務企画や金融機関向けサービスに10年以上従事。企業のお金に関する業務に携わる中、その経験を人々の生活に活かすためにFP資格を取得。現在は金融商品を売らない独立系FPとして執筆や相談業務を中心に活動中。フリーランスがお金の知識を持つことの大切さを実感しており、フリーランス向けマネーブログを運営している。

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