個人株主が「株主総会」に参加したほうがよい理由の画像はこちら >>


多くの企業が毎年6月頃に開催することの多い「株主総会」。株主に向けて企業の経営や事業についての報告を行い、重要事項に関する決議を行う場だ。



基本的に単元株式数(多くの企業では100株)を保有している株主であれば参加できるもので、NISAで株式に投資している人も対象となるが、参加したことがないという人は多いだろう。

「せっかく株式投資をしているのであれば、その企業の株主総会には参加してみてほしいと思います」

そう話すのは、SBI大学院大学教授・京都大学経営管理大学院客員教授の上田亮子さん。株主総会に参加するメリットは、どこにあるのだろうか。

「株式を買う」=「その企業の経営に参画する」

個人株主が「株主総会」に参加したほうがよい理由


「株式=資産運用の手段と捉えている人は多いと思いますが、株式を買うということは、その企業の株主となり経営に参画することでもあります。個人株主もインベストメントチェーンの一角を担っているのだという意識を持つと、その企業に対する向き合い方が変わってくると思います」(上田さん・以下同)

インベストメントチェーンとは、投資家から企業に回った資金をもとに企業がさまざまな投資を行うことで企業価値が高まり、そこで得られた利益が従業員の賃金上昇や投資家への配当につながるという連鎖のこと。その起点となるのが、個人株主も含めた投資家なのだ。

そして、その立場にいることを自覚するきっかけとなるのが、株主総会だという。

「株主総会ではその企業の業績や事業だけでなく、目指している方向性や中長期の計画についても知ることができます。質疑応答を通じて、株主や世のなかの人が求めているものも見えてくるでしょう。株価だけを追っていると数字やデータしか目に入りませんが、企業は人が集まってできている組織です。経営層や株主の生の声に触れることでその企業を身近に感じ、より深い理解につながります」

個人に対して企業側が事業や業績について説明する場という意味でも、株主総会はとても貴重な機会。決算書などで数字を追うよりも理解しやすい、というメリットもあるだろう。

「企業側がわかりやすいスライドなどの資料を用意して説明してくれるので、特に投資初心者にとっては貴重な学びの機会となるでしょう。

単に業績をなぞるだけでなく、業績が好調だった、または不調だった背景や今後の施策・改善策などに関する話も出てくるので、これからも引き続き期待できるかという観点でも企業を見ることができます」

近年は株主総会以外に、個人株主を対象とした職場・工場見学、経営層や事業責任者とのコミュニケーションの場などを設けている企業も出てきているそう。

「さまざまな場に参加することで、企業の理念や経営層の思いを強く感じることができると思います。ただ、わざわざお休みを取って行くとなるとハードルが高くなるので、まずはタイミングが合うときに、ちょっとおでかけするついでくらいの気持ちで参加してみてはいかがでしょうか。株式を買うという縁でつながった企業ですし、興味があるから投資しているのだと思うので、さらに踏み込み、経営に参画する気持ちで株式を保有してほしいと思います」

リアルな株主総会だからこそわかることがある

個人株主が「株主総会」に参加したほうがよい理由


最近はオンライン上で株主総会に参加できるシステムを導入する企業が増えてきているが、「時間があったら、一度リアルの株主総会に参加することで見えるものがある」と、上田さんは言う。

「オンラインでは、話している議長や経営陣の顔を中心に映していたり、報告用のスライドだけが映し出されたりすることがあります。それでも事業内容や経営層の思いは伝わりますが、実際に会場に行ってみると、実は議長となる社長がステージ上を歩き回って株主の近くで話していたり、大きな身振り手振りで遠くの席の人にも伝わりやすいように話していたりと、経営層の人となりがわかるものです。重厚長大型のお堅い企業かと思ったら、社長の話しぶりがとてもフレンドリーで親しみやすさを感じるというよい意味でのギャップもあるかもしれません」

投資を行ううえで、企業の業績や事業、経営の方向性はとても大事だが、同じように経営層のキャラクターや組織の雰囲気も重要な判断材料となるだろう。

「株主総会の雰囲気を受けて、自分の考えと合うか合わないか、応援したいと思えるかという視点で改めて企業を見ることも大切だと思います。短期的に売買する目的であればあまり関係ないといえますが、中長期的に保有しようと考えているのであれば、積極的に応援したいと思える企業のほうが精神的な負担が少なく、楽しく投資できるでしょう」

個人投資家もチェックしてほしい「統合報告書」

個人株主が「株主総会」に参加したほうがよい理由


企業が発信する情報を得ていくうえでは、ひとつ注意点があるという。

「最近は、総会の招集通知や事業報告書の電子化が進んでいます。データであればかさばらないですし、パソコンやスマートフォンでいつでも見られて便利ですが、企業によっては簡易版の資料になっていることがあります。簡易版で十分という人はそのままでよいのですが、詳細な情報を見たい場合は、企業に冊子の資料を申請したり総会でもらったりしなければいけません。企業から届いた資料がすべてではない、ということは覚えておいたほうがよいでしょう」

企業をより深く知るための資料は総会のタイミングで配布されるものだけではないという点も、押さえておきたいポイントとのこと。

上田さんが「情報収集に適している」と話すのは、統合報告書。主に機関投資家に向けた資料で、企業の財務情報に加え、中長期の戦略やガバナンス、サステナビリティ(持続可能性)などの非財務情報もまとめられたものだ。

「統合報告書には、社長や各担当役員のメッセージ、社外取締役の対談、従業員の声などが載っていることが多いので、企業の雰囲気を知る一助になります。従業員の有休取得率や産休・育休取得率、役員の構成比率、サステナビリティに関する取り組みなども紹介されているため、企業文化や企業風土に触れることもできるでしょう。機関投資家も参考にするものなので、個人投資家の皆さんにとっても有意義であることは間違いありません。1000社以上が手間と費用をかけて制作し、誰でも見られるようにホームページに掲載しているので、気になっている企業の統合報告書を見てから投資するか判断してもよいでしょう」

株式投資は資産運用の手段であると同時に、その企業の経営に参画し、よりよい方向に導いていく方法ともいえる。数字だけでなく企業の思いや経営陣・従業員の人柄に触れることで、いままで以上に信念を持って投資に取り組めるだろう。

(取材・文/有竹亮介 撮影/鈴木真弓)

編集部おすすめ