1株を2分割、3分割といったように分け、1株当たりの株価を下げる「株式分割」。最近、国内の上場企業の多くが実際に株式分割を行っているが、1株当たりの株価が下がるということは最低投資額も下がるため、個人投資家も購入しやすくなる。
日本最大手の鉄鋼メーカー・日本製鉄は、2025年10月1日に1株を5株に分割し、分割直前に3000円ほどだった株価は、分割直後に600円ほどになった。株式の最低売買単位である100株を購入すると、以前は30万円ほどだったが、分割後は6万円ほどで買えるようになったというわけだ。
日本製鉄が株式分割を行った理由と個人株主に期待していることについて、同社総務部総務室長の有村智朗さん、コーポレートコミュニケーション部IR室の三友脩太郎さんに聞いた。
個人投資家の投資の選択肢に入るための「株式分割」
日本製鉄では、以前から個人株主をキーパーソンと捉えていたという。
「2025年9月末時点で、株主全体のうちの3割が個人株主となっています。より多くの方に当社の株式を持っていただき、事業を支援していただきたいという思いはずっと抱いています。当社はBtoB企業ではありますが、多くの方の身の回りに我々の鉄でできた製品はあると思っています。会社と個人の結び付きを強める意味でも、個人株主の皆様の存在は大きいと認識しています」(有村さん)
重要な存在である個人株主を増やす施策のひとつとして、株式分割が行われた。今回の分割により幅広い層に手の届きやすい投資単位となったが、分割の検討に際して、東京証券取引所が個人投資家を対象に実施したアンケートの結果が参考になったという。
「株式を上場している発行体としてどうするべきかという議論は、常々社内で行っていました。そうしたなかで、東証のアンケートで個人投資家の方々が求める投資単位として一番多かった水準が『10万円程度』という結果は、個人投資家のニーズとして大いに参考になりました」(有村さん)
当時、日本製鉄の最低投資単位は30万円程度だったため、3分割でも「10万円程度」をクリアすることができたが、5分割にしたのには理由がある。
「分割によって『10万円程度』を実現するのではなく、その後も企業価値を上げていくことが前提にあると考えていたため、5分割としました。より多くの方に株主になっていただきながら会社を成長させ、還元していきたいと思っています」(有村さん)
「株式分割」における最大のハードルは「コスト」
株式分割に対して、社内から反対の声が出ることはなかったそう。
「社内では、個人投資家を含む幅広い層に当社の株主になってもらいやすい環境を整えることのほうが重視されたと感じています。
企業は株主に対して、株主総会の招集通知や事業報告書、配当金関係の書類などを送る。株主が増えると、印刷費や郵送費などのコストが増えていくのだ。
「社内で議論を行っていくなかで、『株式分割を行ったら株主が100万人を超えるのではないか』という話も出ました。2025年9月末時点で株主数74万人だったので、25万人程度の株主が増えることを見越し、どのような努力がコスト削減につながるか、話し合いました」(有村さん)
その努力のひとつが、招集通知の電子化。日本製鉄では、2023年3月以降に実施される株主総会に「株主総会資料の電子提供制度」が適用された時点から、招集通知の電子化を開始し、今後も継続していく予定とのこと。
「当社では、2023年の株主総会から『アクセス通知(株主総会資料を掲載したホームページのアドレスを書面で通知すること)』オンリーに切り替えました。当社にとっての費用削減、株主の方々にとっての迅速性、環境面への配慮など、制度上の主旨を踏まえて初年度から切り替えを行っており、これからも継続していく予定です。今後さらにコスト削減などにつながるような制度改正があれば、積極的に取り入れていきたいと考えています」(有村さん)
株主増加による懸念点として、多くの企業で挙げられるのが「問い合わせの増加」だが、日本製鉄ではそこまで大きなハードルにはならなかったという。
「BtoC企業の方のお話を伺うと、自社製品やサービスに対するご意見を株主の方からいただくことがあるそうなのですが、当社では個人の方からの製品や事業に関する問い合わせは多くありません。株主の方々からの問い合わせも、『配当金はいつ振り込まれるの?』といった株式関連のものがほとんどです。株式分割によって株主の方々が増えたからといって、対応し切れないほどの問い合わせが来るとは考えられませんでした」(有村さん)
「株式分割直後に『なんで分割したの?』という問い合わせをいただきましたが、ご苦言ではなく純粋な疑問という印象で、我々の目的をきちんと伝えることでご理解いただきました。分割から3カ月ほどが経った現在も、マイナスの声をいただくことはほとんどありません」(三友さん)
鉄鋼業界の魅力やチャレンジを知ってもらうための工夫
BtoB企業の日本製鉄だが、近年は俳優の川口春奈さんを起用したテレビCMを放映したり、YouTubeでQuizKnock(クイズノック)やVチューバ―とのコラボ動画を投稿したりするなど、情報発信を意欲的に行っている。これらの活動は同社の認知度向上に加え、個人株主増加に向けた取り組みのひとつでもある。
「我々はBtoB企業なので、まずは個人投資家を含む個人の方に当社のことを知ってもらうことがもっとも大切だと考えています。そして、当社に興味を持ってくださった個人投資家の方に株式を保有していただき、買い増ししながら株主であり続けていただくという3段階で関係を深めていけたらと考えています。その第一歩として、CMやYouTubeなどを通じて幅広い層に知っていただきたいという思いで活動しています」(三友さん)
興味を持ってくれた個人投資家に向けた施策として、経営概況に関するWEB説明会を年4~5回開催し、個人投資家に向けたIR情報を発信している。年々、参加者数が増えているそう。
さらに、株主となってくれた人には株主優待も用意。5000株以上保有している株主を対象にした工場見学会を、春と秋に開催している。
「これまでもさまざまな株主優待を実施してきたのですが、工場見学会がもっとも人気なので、今後拡充していく方向で考えています」(三友さん)
「鉄鋼の工場は音も熱もすごく、臨場感があり、重厚長大な物づくりが体感できるところを評価していただいているようです。来てくださった株主の方のほとんどに満足していただいています」(有村さん)
企業の魅力を感じてもらうため、スローガンとして打ち出しているのが“総合力世界No.1の鉄鋼メーカー”。
「国内には安定した収益基盤があり、その収益を維持・向上させつつ、海外に成長を求めていくフェーズにあると捉えています。USスチールをはじめとする海外事業を成長の柱に据え、“世界No.1”の実現を目指しています」(三友さん)
“世界No.1”を目指すにあたって、ひとつのキーワードとなっているのが「カーボンニュートラル」。
「カーボンニュートラルで鉄をつくる既存の技術はありません。技術開発を行い実装するまでにかかる費用は、当社だけでも4~5兆円を上回る規模と想定しています。
「鉄鋼業界は、もっともCO2を排出している業界のひとつです。ただ、鉄は一度つくれば、環境負荷もコストも低い形で何度でも何にでもリサイクルできる素材です。カーボンニュートラルでの鉄の製造は技術が確立されていない未知のものですが、当社では九州製鉄所八幡地区などの高炉を、脱炭素につながる電炉に変えるプロジェクトが動き出しています。個人投資家の方々にも日本製鉄の新たなチャレンジに興味を持っていただき、株主の輪を広げていけたらうれしく思います」(有村さん)
今後の課題は「株主とのコミュニケーションの活性化」
2025年12月に公開された「2030中長期経営計画」では、「1株あたり年間24円」という下限配当の設定を発表した日本製鉄。企業の成長性と安定性を体現しながら、株主還元につながる取り組みだ。
今後は、さらに株主とのコミュニケーションを重視していきたいという。
「CMやYouTubeをはじめとしたSNSでは『日本製鉄とは』『鉄鋼とは』といった基礎知識を発信することが多いのですが、今後はもう少し投資に寄った情報も発信していきたいですね。また、現在は10分程度の動画が多いのですが、データを見ると平均視聴時間は5分ほどなので、伝えたいメッセージをコンパクトにまとめた短い動画を増やし、より多くの方に見ていただけるように工夫していこうと考えています」(有村さん)
「個人株主の方が企業に直接質問をする場やタイミングを増やしたいと感じています。より簡易的な方法で疑問を解消できるようなシステムがつくれないかと、社内で検討したいと思っています。理想としてはチャットボットのようなものがいいと考えているのですが、どのような形にするか、今後検討を進めていきたいと思います」(三友さん)
鉄という素材を通じて、人々の便利で豊かな生活を支えている日本製鉄。株式分割に加え、日々の地道な情報発信が、多くの人の「応援したい」という気持ちを駆り立てるに違いない。
(取材・文/有竹亮介 撮影/森カズシゲ)

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