企業にとって個人株主の存在は、安定的な成長を実現するために重要だと考えられている。個人株主は長期的な視点で投資をする可能性が高いからだ。
2024年4月1日に株式分割を行ったのが、JR東日本(東日本旅客鉄道)。1株を3株に分割したことで、分割直前に80万円台だった最低投資金額が30万円以下に下がり、個人でも保有しやすい水準になった。
JR東日本が株式分割に至った背景や個人株主向けに力を入れている施策について、同社総務・法務戦略部法務ユニット(※)の青木義和さん、新川浩介さん、後藤宏基さんに聞いた。
※取材当時の情報です。
自社サービスのユーザーとのつながりを強化していきたい
JR東日本にとって、個人株主の存在はとても大きな意味を持つという。
「2025年9月末現在で当社の株主数は28万人を超えており、人数ベースで見るとそのうちの約99%が個人株主の方々です。個人株主の方々はニアリーイコールで、当社のサービスをご利用いただいているユーザーの方々でもあると捉えています。通勤通学で鉄道をご利用いただくだけでなく、その道中で駅ビルやエキナカの商業施設に寄る、帰省や旅行のタイミングで新幹線を使うといった形で何かしらの接点があると考えています」(後藤さん)
自社のユーザーに株主になってもらうことで、会社に対する愛着が増し、長い支援につながっていくと考えている。
「鉄道をはじめとする当社グループのビジネスやプロジェクトは、数年かけて花開くものも多く、比較的保有期間が長い傾向にある個人投資家の方々との相性がいいと考えています。そのため、近年は個人投資家・個人株主に向けた施策に積極的に取り組んでいます」(後藤さん)
その施策のひとつが、2024年4月に行われた株式分割。
「当社グループは1日に約3500万人の利用があり、若い方もご年配の方も、当社とは何かしらの接点があると思います。その接点をきっかけに株主になっていただき、いろいろな年代の方の意見を経営に反映していきたいと考えています。
「株式分割」のタイミングで「株主優待」も見直し
株式分割のタイミングで、株主優待も見直された。分割前は、100~1000株保有している株主に対して、年に一度100株ごとに1枚の株主優待割引券(鉄道4割引)が発行されていた。3分割後は、株主優待割引券を1枚受け取れる株式数が100株から300株に引き上げられたが、2枚受け取れる株式数は600株ではなく400株、3枚受け取れる株式数は900株ではなく600株といったように引き下げられた。分割前よりも優待を受けやすくなったのだ。
また、長期保有株主向けの優待も期間が変更された。分割前は「3年以上」継続して保有していると株主優待割引券が追加で1枚発行されたが、分割後は「2年以上」となった。
「株式分割には、新たな株主を呼び込みたいという目的もありました。ただ、『通常の株主優待割引券は300株以上から』という基準にしたため、株式分割を機に新たに100株保有していただいた方が株主優待割引券を得られるのが3年後というのは、今の時代ではさすがに長すぎるのではないかと考えました。また、私たちとして『100株主も大歓迎です』という思いも伝えたかったことから、分割を機に『2年以上』に変更して継続保有期間を短くするという結論に至りました」(後藤さん)
「株主優待割引券の配付基準を変更したのは、既存の個人株主の方々に買い増ししていただきたいという思いもあったからです。分割前の最低投資金額80万円台だと、追加購入のハードルが高いですよね。しかし、30万円以下であれば、ある程度資金が貯まってきたタイミングで『買い増そうかな』『あと30万円投資すれば、株主優待割引券が1枚増えるな』と思っていただくことを狙いました」(新川さん)
「株式分割も優待制度の見直しも株主イベントも、JR東日本グループとして個人株主の方々とのつながり(エンゲージメント)をもっと強くしていきたいという思いの表れです。これをきっかけに、当社グループに興味を持っていただけたらと思います」(青木さん)
株式分割を行ってから、想定ほど株主数は増えていないものの、売却されることが少なくなったとのこと。
「分割を行った2024年4月はアフターコロナで、業績も株価も徐々に上がってきているタイミングでした。分割したことで部分的な売却もしやすくなったので、売りが増えると思っていたのですが、思いのほか売却されませんでした」(新川さん)
「株式の売買動向にはさまざまな要素が絡んできますので、その要因の断定はできませんが、株主優待割引券の配付基準の工夫のほか、多くの方にとって身近な会社であるという点や、株主の継続保有期間が比較的長い点などの当社の特性ともいえるところが多少プラスに働いた部分もあると感じています」(青木さん)
「デジタル化」によるコスト削減以外の効果
株式分割や株主優待の見直しによって株主が増えると、各種通知書類の印刷や郵送にかかるコストも増加するといった課題がある。JR東日本では、どのように解決したのだろうか。
「数年前から電子化を進めています。株主総会関係書類でいえば、招集通知を段階的にアクセス通知(ウェブ上の総会資料にアクセスできるURL・QRコードを記載した書類)に移行しました。2026年6月の総会からは、招集通知のメール提供も開始します。郵送のタイミングは、株主優待の発送タイミングを見直し、年4回から年3回に減らしました。また、株主優待の一部は2024年から電子提供としています」(新川さん)
「株式を複数銘柄保有していると、同じタイミングでさまざまな書類が届くので、分厚い招集通知を開くだけでも億劫になる方も多いのではないかと考えています。当社に対する興味や愛着の度合いを高めていただくため、電子化を進めながらも、デジタルネイティブの方でなくても簡単に情報を探し出しやすい書類になるよう心掛けています。例えば、重要な情報がパッと見てわかる紙面にしつつ、詳細についてはQRコードを読み込んでもらう構成にするなどの工夫をしています」(後藤さん)
株主総会の招集通知のアクセス通知化は、思いがけない効果が出ているそう。
「株主総会や議決権に関して詳しくない方にも理解していただけるよう、招集通知に記載されたQRコードを読み込むと、1年間の事業報告と総会の議案、議決権行使の方法を社長が案内する動画が再生される構成にしています。トータルで10分ほどのコンパクトな内容にしているのですが、視聴数は年々増えており、2025年度は2万3000回再生されました」(後藤さん)
動画を用意したことで、個人株主の議決権行使率が上昇しているという。
「かつて個人株主の方々の議決権行使率は3割程度で推移していましたが、動画を掲載し始めてからは行使される方が増え、2025年度には5割を超えました。
「議決権を行使していただけるのは、とてもありがたいことですし、会社と個人株主のエンゲージメントの状況を表すひとつの指標と捉えています。最初にお話しした通り、個人株主の方は当社のユーザーである可能性が高いので、きちんと意見を聞いて経営に反映していきたいと思っています」(新川さん)
個人株主向けイベントを月1回以上のペースで開催
株式分割や株主優待以外にも、個人株主に向けて力を入れている施策があるという。
「個人株主の方々を対象にしたイベントに力を入れています。当社グループは多岐にわたった事業を展開していますが、まだまだ知られていない部分がたくさんあると感じています。当社をより深く知っていただくため、事業やサービスをご紹介する機会としてイベントを実施し、年々規模を大きくしています」(後藤さん)
過去には、宮城県の新幹線総合車両センターを現地で働く社員が案内するイベントや首都圏の鉄道の電力をまかなう水力発電所の見学ツアー、親子向けの新幹線清掃体験教室など、さまざまなイベントが実施された。
「コンテンツの豊富さは当社グループの強みであり、『株主イベントといえばJR東日本』と認知されることを、この数年目指してきました。2025年度には14回のイベントを実施し、2026年度は19回の実施を予定しています。以前は、参加者を募集するタイミングが年2回の書類を送付する時期に限られたのですが、数年前に個人株主の方々を対象にしたメールマガジンを開始し、いつでも募集できる環境が整ったことが影響しています」(新川さん)
「イベントに参加された方にアンケートにご回答いただき、そこでいただいた感想やご指摘をもとに、イベントをブラッシュアップしています。継続的に実施しているイベントもありますが、毎回同じメニューではなくよりよいものにするため、関係者一同頭をひねって企画を立てています」(後藤さん)
個人株主向けのメールマガジンを用意したことで、株主の属性や要望を拾いやすくなったという側面もある。
「従来の株主名簿だと、株主の方のお名前、ご住所、保有株式数ぐらいしか把握できません。しかし、メールマガジンを登録していただく際に年齢や性別などをご入力いただくことで、どのような方がイベントに参加し、ポジティブな感情を抱いてくださっているかということがわかります。
「ユーザーを分析して、ニーズに沿うものを提供するのはビジネスの基本。個人株主の方々も当社のユーザーであると考えると、皆さんのことを知ったうえで喜んでいただけるものを提供するのはごく自然なことです。株主優待だけでなく、イベントや情報発信にもこういった視点で戦略性を高めています。こうして株主の方々にロイヤルカスタマーになっていただけたらうれしいですし、その結果として当社の企業価値も上がっていくと考えています」(新川さん)
日常的にサービスに接している人も多いであろうJR東日本。その知名度にあぐらをかかず、株主に喜んでもらえる施策を追求する姿が、ファンを増やすのだろう。
(取材・文/有竹亮介 撮影/森カズシゲ)

![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 昼夜兼用立体 ハーブ&ユーカリの香り 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Q-T7qhTGL._SL500_.jpg)
![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 就寝立体タイプ 無香料 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51pV-1+GeGL._SL500_.jpg)







![NHKラジオ ラジオビジネス英語 2024年 9月号 [雑誌] (NHKテキスト)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Ku32P5LhL._SL500_.jpg)
