日本の金利が上昇傾向にあるいま、資産運用の手法のひとつとして「国債」が注目され始めている。
前編では、『はじめての日本国債』(集英社新書)の著者である経済学者の服部孝洋さんに、投資対象となる有価証券を選択する基準や金利変動の仕組みについて伺った。
後編となる今回は、「国債」を資産形成に取り入れる方法をより具体的に聞いていきたいところだが、服部さんは「『国債』にもリスクがあることを把握しておくべき」と話す。
「国債」のリスクは“年限”
「『株式』の場合、企業の業績によって配当がゼロになったり株価が下がって損したりする可能性がある点です。また、企業が破綻した場合に、株式の価値がゼロになるという可能性もあります。『社債(企業が発行する債券)』も同様に、企業が破綻すると元本は戻ってきません。その点、『国債』は日本政府が破綻しない限り、利子を受け取ることができ、元本も戻ってくるので、『株式』や『社債』と比べるとリスクは低いといえます」(服部さん・以下同)
一般的にも、「国債」はリスクの低い資産として取り上げられることが多い。金融のテキストでは、安全資産とされる。だからこそ、「株式」「社債」ほどのリターンは期待できないが、安定的な運用を実現しやすい。では、「国債」のリスクはどこにあるのだろうか。
「『国債』にリスクがないかというと、そうではありません。『国債』のリスクは“年限”に依存します。実際、国債市場の投資家は、年限が長い『国債』はリスクが高いと考えています。リスクとは、価格が上がることもあれば、下がることもあるという『変動』に立脚した概念ですが、『10年債(10年後に満期を迎える国債)』に比べると『40年債(40年後に満期を迎える国債)』のほうが価格が大きく変動するのです。年限が長い『国債』ほど、金利が動くと価格が大きく変動することから、金利が変化するリスクを『金利リスク』といいます」
「国債」は購入した時点で、満期まで持ったときのリターン(金利)が決まるという特徴がある。
「例えば、金利1%の『10年債』を100円で買った場合、毎年1円の利子を得て、10年で合計10円の利子を得ることができます。また、10年後には100円の元本も返済されます。債券への投資は、投資した時点で将来得られるキャッシュを固定させる点が特徴であり、将来にわたってキャッシュを固定することこそが『金利リスク』の根源です。再び繰り返しますが、リスクとは『変動』に立脚した概念であり、損をすることもあれば、得をすることもあるという概念である点に注意してください」
仮に、金利が年1.5%の「5年債(5年後に満期を迎える国債)」を購入したとする。これは将来5年間にわたって、年1.5%の利子が支払われることが確約された「国債」だ。
「『5年債』の金利が年1.5%のまま変わらなければ問題はないのですが、『国債』の金利は日銀の金融政策などによって変化します。仮に、『5年債』を購入した後に日銀が利上げを発表し、結果として『5年債』の金利が年2%になったとします。こうなると、自分が保有している『5年債』は年1.5%のリターンしかもたらさないのですから、『金利が上がってから買えばよかった』という気分になりますよね。前編で、『国債』にはプロの投資家を中心とした中古市場(流通市場)があると説明しました。流通市場において自分が持っている『国債』を売りたいなら、大幅にディスカウントしなければいけません。リターン(金利)が2%になる価格でなければ、投資家を説得できないからです。ちなみに、個人も流通市場での取引が可能です。
ただし、「国債」のリスクがプラスに働くこともあるという。
「逆に、金利が年1.5%の『5年債』を購入した後に景気が悪くなり、日銀が利下げをした結果、『5年債』の金利が年1%に下がったとします。そうなると、今度は『金利が1.5%のときにリターンを固定しておいてよかった』と感じるはずです。リターンを固定することがプラスに働くこともあれば、マイナスに働くこともあります」
このようなプラスとマイナスは、投資した時点で「国債」が生み出すキャッシュ(利子)を固定しているからだといえる。
「『1年債(1年で満期を迎える国債)』を買っていれば、金利が上がったとしてもすぐに元本が戻ってくるので、金利が高い水準ですぐに再投資できます。逆に、『40年債』などを低い金利で買ってしまい、その後金利が上がると、40年にもわたる長い間、かつての低い金利を享受せざるを得ません。例えば、2020年に金利が年0.5%の『40年債』が発行されたとします。これは40年間、毎年100円に対して0.5円の利子しかもたらしません。その後、金利が上昇し、2025年に金利年3%台で発行された『40年債』が流通していたら、投資家が2020年に買った『40年債』を市場で売ろうと思っても、大幅にディスカウントしなければ、買いたいと思う人は誰もいないということになるのです」
「国債」にも「固定金利」と「変動金利」が存在する
「国債」には「将来のリターンを固定する」というリスクがあることがわかったが、資産形成に活用するとしたら、どのような点に注意するといいだろうか。
「前編で、国債市場は銀行や生命保険会社を主軸としたマーケットと説明しましたが、個人投資家には『個人向け国債』が発行されています。これは、個人にとって買いやすい仕組みがなされています。利子の放棄などのペナルティはありますが、途中で解約することができるなど、定期預金に似た商品性になっている点です。また、金利についても、『固定金利型5年満期(固定5年)』のように金利が5年間変わらない商品もあれば、『変動金利型10年満期(変動10年)』という変動金利の商品もあります」
住宅ローンで考えるとより身近に感じ、理解しやすくなる。
「『金利リスク』の話をする際、しばしば『住宅ローンを変動金利で借りていますか? 固定金利で借りていますか?』と問いかけます。30年の住宅ローンを組んでいて、固定金利を選んでいるとしましょう。その後、金利が上がっていくと、『金利が低いうちに固定金利を選んでおいてよかった』と思いますよね。逆に、金利が下がってくると、『金利が低くなってから借りればよかった』という気持ちが生まれてきます。このような気持ちは、固定の契約期間が長ければ長いほど強く感じます。契約している30年ローンを固定金利にしたのに、金利が下がり続けたら、30年にわたって損した気分になるからです。逆に、金利がそのときに合わせて変化すれば、このような問題を避けられます。これが変動金利です。『個人向け国債』も10年間リターンを固定せず、そのときどきで金利を見直す仕組みにすれば、『金利リスク』を落とした運用ができるというわけです」
変動金利を実現するための選択肢として出てくるのが、「変動10年」だ。「国債」にも種類があり、それぞれに特徴があることがわかると、選択しやすくなるだろう。
「前編では、『株式』から『国債』まで、リスクとリターンのグラデーションがあるといいましたが、『国債』のなかでも、年限が短い『国債』のリスクは低く、年限が長い『国債』のリスクは高いという形でグラデーションがあります。このようにして考えると、結局『国債』についても、我々がどのようにリスクとリターンに向きあうかであり、投資家がどのリスクとリターンのプロファイルを選びたいかということに尽きます」
資産形成で大切なのは「自分で勉強して納得してから実践に移すこと」
服部さんは個人の資産形成に対して、伝えたいことがあるという。
「資産形成の手法を検討するときは、“自分で主体的に勉強する姿勢”が大切だと思います。私が話したことも含め、人から聞いた情報を鵜呑みにするのではなく、改めて自分で調べたり情報を探したりして、納得したうえで『債券』や『株式』を購入することが大切です。その結果、『預金』を選択するということもありだと思います」
例えば、パソコンを購入するとき。多くの人は自ら価格比較サイトや家電量販店などを訪ねて、価格やスペックを見比べ、吟味したうえで購入を決めるだろう。
「パソコンや食材など、身近なものを買うときは驚くほど細かくウェブをチェックして、安いものを買おうとするのに、投資信託や保険といった金額が大きい買い物は、他社との比較もせず、すぐに決めてしまう事例をたくさん見てきました。金額を考えれば、投資信託や保険などの金融商品を買うことは、人生における大きな買い物になるはずです。それにもかかわらず、金融機関の販売員に言われるがままに始めてしまう人も少なくないように感じます。自分が金融機関に就職したと仮定し、なぜその商品を勧めるのだろう、と想像することも大切だと思います。人に勧められたものを鵜呑みにして買った場合、仮に損をしたときに納得がいかないはずです。人の話を参考にしつつ、自分でしっかり調べて納得のいく手法で始めれば、仮に損をしたとしても『自分はそのリスクを取ってチャレンジしたんだ』と切り替えられると思います。自分にとって大切な資金を運用するならば、せめて金融に関する書籍などを何冊も読んで、情報を仕入れてほしいですね」
服部さんは、「そのうえで『投資をせずに、預金でいい』と感じるのであれば、それもひとつの選択」と話す。
「資産運用の勉強に多くの時間を使うことが本当に幸せかというと、私自身はそうでもないと思うこともあります。
注目度が高まっている「国債」だが、まずはしっかり情報収集を行い、自分の考え方や目標とマッチしているか確認することが大切だ。納得して活用できるものを探そう。
(取材・文/有竹亮介)

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