みなさんが初めて観た映画はなんですか?わたしはきっとドラえもんか、名探偵コナンとかだったと思うのですが、正直あまりよく覚えていません。私が強烈に覚えている映画体験は、ジブリの「もののけ姫」。
兄と、兄の友達と、横並びで、吉祥寺オデヲンで観ました。付き添いの大人たちは劇場を出てすぐの喫茶店で待ってるからねと言って、私たちを席に座らせて、映画館を出ていきました。初めての”子どもたちだけで過ごす時間”。まだ幼かった私には大冒険でした。冒頭のタタリ神が出てくるシーン。画面から飛び出してきそうなタタリ神があまりに怖く、映画の途中で席を立ち、喫茶店で待つ母に会いに行ったのを覚えています。怖いからもう観ないという私に、母は「続きが気になるでしょう」と言いました。確かに続きは気になる。てか、かなり気になる。「お兄ちゃんが居るから大丈夫」と母に言われて、映画館の前まで一緒に戻ったのを覚えています。でも扉は自分で開けました。席に戻った私に、兄が「トイレ?」と聞いたので「うん」と答えました。
怖いから出ていった、とは気恥ずかしくて幼心に言えなかったのを覚えています。これが私の映画の原体験です。鮮烈でした。この体験があまりにも鮮烈だったので、実は大学生になるまで映画館が苦手でした。今では年間に100本近くは映画を観ています。今までに観た映画は1200本ほど。映画通の中ではかなり少ない方だと思います。映像作家のJo Motoyoです。
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広告映像や、ショートフィルムを作って暮らしています。昨年末にTSUTAYA CREATORS’ PROGRAMで監督賞を受賞し、長編映画デビューが決まったので、それに向けた脚本を書いたりしています。

みなさんは自粛期間中、どんな映画を観ましたか?

観る映画を選ぶ基準として、とりあえず気になるものを観る、好きな俳優で選ぶ、興行的にヒットしている映画、友達のオススメ、色々な選び方があると思います。とにかくなんでもいいから映画に親しみをもって鑑賞することが重要なので、選び方は本当になんでも良いと思います。最近はAIでアルゴリズムされたものなど、レコメンドもかなり精度が高いので、個人的にはとても重宝しています。
わたしは映画を観ているときが一番幸せなので、もっと映画を観たいのですが、仕事をはじめてから、必然的に映画を見る機会がぐっと下がりました。いまは限られた時間の中で、いま私はどの映画を見るべきかを考えながら鑑賞するようしています。私が映画を選ぶときに参考にしているのが、映画史に基づく映画選びです。映画の歴史は意外と短く、まだ120年程度です。色々なジャンルが作られ、様々なクリエイターが、様々なクリエイターたちに影響を与え合い、技術進歩と発展を繰り返し、映画という概念そのものも拡張されて、大きな大きな海のように映画が広がってるように思います。この連載では映画史にふれながら、オススメの作品を紹介していきます。もちろん、私は専門家ではないので、あくまでもいちファンとして、映画史に名を残す作品の中からオススメのものを紹介していこうと思っていますので、この連載は、みなさんの映画選びの一要素、程度に思ってくれたら幸いです。ここでは映画史のさわりだけ抜粋しますので、映画ファンの方には物足りないかもしれません。連載を読んで、もっと勉強したい方がいたら、ぜひフィルムアート社の映画史についてまとめた一冊『映画史を学ぶ クリティカル・ワーズ』を買ってみてください。

映画誕生からチャップリン時代まで

ではさっそく映画史を一緒に辿りましょう!第一回、第二回はかなりお勉強感が強いかもしれないですが、これを知っておくと、色々なクリエイターの頭の中を理解しやすくなるような気もします…!まずは映像の成り立ちから。映画(映像)はもともとは写真の技術の応用です。

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エドワードマイブリッジ撮影 連続写真のイラスト

1800年代後半、写真家エドワードマイブリッジが制作した連続写真や、連続する絵をかいて筒状にし、筒を回転させると絵が動いて見えるという錯覚を用いたゾーイトロープという技術が時間をかけて発展していき、発明家のトーマス・エジソン、リュミエール兄弟によって今の形の映像の基礎が出来ました。ちなみに世界最古の映像は1888年にフランス人の発明家ルイ・ル・プランスが作った『Roundhay Garden Scene』。

なめらかな映像というより、コマ撮り作品に近いですよね。その後フランスの映画発明者であるリュミエール兄弟が撮影した機関車が駅に到着する映像をみて、当時の観客は驚いて思わず映像小屋を飛び出した、という逸話があったり。映像は見世物小屋的な要素として上映されていたようです。1902年にフランス人のジョルジュ・メリエスによって作られた世界初のSF映画とされる作品『月世界旅行』。

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『月世界旅行』のイラスト

ジョルジュ・メリエスは元々は手品師で、現在の映像の礎ともなるような、たくさんの映像的なトリックを発見しました。彼が見つけた技術が、当時あまりにも流行した技術だった為、私たちの日常生活で目にするような映像表現も、実は彼が発見したものだったりします。例えば、オーバーラップやディゾルブといわれるような、フェードアウトと同時にフェードインする技術も彼が発見しました。

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ディゾルブ例

当時はまだ真新しかった映像トリックがふんだんに使われた『月世界旅行』は今みてもユーモアがあって飽きずに見れる作品です。1910年あたりになると、トーマス・エジソンが、自分が特許を持つ映画技術を勝手に使用しているとして、映画人たちを訴訟しはじめます。この特許戦争から逃れてきた映画人たちがアメリカのカリフォルニアへたどり着き、ハリウッドを作ったとも言われています。気候がよく、砂漠や森に囲まれた映画に適した条件が揃うハリウッドに移ったことにより、映画制作はより一層盛んに作られるように。バスター・キートンやチャールズ・チャップリンといったみんなも知っているような映画監督/俳優たちがこの時代から現れ始めます。

映画スター登場の時代です。バスター・キートンで一番有名な作品は『A house falls on Buster Keaton』。40秒目あたりからご覧ください。本当に体を張って撮影している…どうやって撮影したんだろうと思うような作品をこの時代の人たちはたくさん残しています。今の時代にバスター・キートンいたら、TikTokでバズっていただろうなと思ったり。笑ちなみにバスター・キートン、めちゃくちゃイケメンなのご存知ですか?

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Photography provided: WikiImages

バスター・キートンとGoogle検索すると、「バスター・キートン イケメン」とリコメンドに出てきます。笑チャールズチャップリンやバスターキートンは自分で監督もしつつ、主演も務めていました。チャップリンで有名な作品は「街の灯」「モダンタイムズ」そして「独裁者」。この3作品は見ておいて損はない作品です。全てAmazonプライムにてご覧頂けます。「独裁者」の中のセリフで、「私は誰のことも支配したくない。出来る限り多くの人を救いたい。

ユダヤ人もユダヤ人以外も、黒人も白人も、実は互いを支え合いたいのだ、人間とはそういう生き物だという言葉が出てきます。Black Lives Matterの活動にも通ずる精神がありますよね。チャップリンはもともとサイレント映画でコミカルな動きやパントマイムで人気を博した役者/監督です。

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チャップリンのイラスト

時代とともに、映画の技術が発展していき、サイレント映画は姿を消し、トーキー映画という音声と映像を同時に再生する技術にとって変えられました。技術躍進の中で、失われつつあったサイレント映画で作品を作ろうと闘ったのがチャップリンです。トーキー映画が主流になる中、抵抗するようにサイレント映画で制作したのが『街の灯』と言われています。それでも時代に押され、モダンタイムズや独裁者は最後の部分だけ歌を歌ったり、セリフを喋ったりして、部分的にトーキー映画の技術を使ったようです。最近でも、2012年に公開されたサイレント映画で「アーティスト」が話題になりましたね。どの時代でもそうですが、いろんな監督がその時の映像技術を駆使して、どんなことが出来るのかを実験しています。そういった観点から映画を見るのもとても楽しいですよね。前述したアーティストのように映画の原点に戻るような作品もあったり。ちなみにこの時代、赤狩りと言われる共産主義への圧力によって、映画人がハリウッドから追放されるということも起こりました。

トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』という映画がこの時代をわかりやすく描いていますので、興味のあるかたはぜひ観てみてください。ちなみにトランボはオードリー・ヘプバーンが出ていた「ローマの休日」の脚本家です。次回はモノクロ映画の黄金期を作った作品たちについて書くつもりです。ヒッチコックや黒澤明など、名匠たちの作品を時系列でご紹介したいと思います。

不況の時は映画産業が伸びる

この原稿を書きながら、少しハラハラもしています。けっこううんちくと言いますか、なんかお勉強要素が強くて、みんなうんざりしていないかなと…どうか映画を嫌いにならないでほしい….です….つい先日まであった自粛期間で、たくさんの人が映画、もしくは映像を観ていたと思います。昔、「不況の時は映画産業が伸びる」というグラフを授業で目にしました。気分が沈んでいるとき、将来が不安なとき、お金はあんまりないんだけど、映画を観に行きたい気持ちになる。それって人間の真理なんだ、という話でした。自粛期間中、NetflixやAmazonの株価は最高値を更新し、Youtubeの再生回数も増えたそうです。未曾有の今この時代に私たちは映画(映像)をたくさん消費しています。その反面で、ミニシアターと呼ばれるようなインディペンデント系の映画館や劇場などは非常に苦しいところに立たされています。多方面でミニシアターを支援するようなクラウドファンディングやチャリティー、署名活動が行われていて、なんとなく、KindleやAmazonの台頭により淘汰されていく街の本屋を支援する活動が盛んだったあの時期を思い出しました。結局、街の本屋は減りましたよね。サイレント映画がトーキー映画に打って変わられたように、時代、技術の中で変容していく映画の歴史。これからの時代がどうなっていくかは誰にもわかりませんが、映画が映画館を離れ、自宅での鑑賞がメインになったとき、映画は『体験』するものから、『消費』するものに変わっていくのだと思います。自分の好きなタイミングで、好きなときに再生ボタンを押し、携帯をいじりながら鑑賞して、トイレ休憩の為に映画を止める。幼い頃のわたしが、重たい防音扉をあけて観にいった映画体験のようなものは、もしかしたら過去の産物になるかもしれません。それが良いとか、悪いとかはそれぞれの人の価値観なので、別に映画館こそ映画の真髄だという話をしたいわけではないのをご理解頂きたいです。ただ私は、時代とともに変容していく映画の姿を、これを読んでくれているみなさんと一緒に、しっかりと見つめていきたいと思います。この自粛の時間で各々、いろんな副産物がありましたよね。みなさんはどんな映画を観ましたか?そして何を思いましたか?ぜひ、聞かせて欲しいです。

Motoyo ‘Jo’ Uzawa

Filmmaker / 映像作家

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武蔵野美術大学映像科卒。在学中からフォトグラファーとして活動し、ポエティックで奥行きのある画作りに定評がある。2015年よりTOKYO所属。コピーライターとしてWieden+Kennedyへの出向を経て、2019年、監督復帰作となる「Midnight 0時」を制作。Adfest 2019で Fabulous Five 観客賞を受賞、Young Director Award 2019のShort Film部門で、日本人女性初ののSilverを受賞。同年、Jo Motoyoが自ら書き下ろした脚本企画が Tsutaya Creators’ Awardにて監督賞を受賞し、長編映画監督デビューが決定している。年間100作以上の映画を鑑賞。日本語、英語、中国語を話す。
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