ネットで見かけておもしろかった、”美しい日本語クイズ”があったので、みなさんにも。小学校1年生で習う漢字のひとつ、「音」。
「音楽」の音(おん)とか、「音色」の音(ね)など、読み方はいろいろありますよね。では、「音」に送り仮名の「り」をつけた「音り」は一体、何と読むのでしょうか?もちろん、「おとり」とは読みません。「音(おん)り」「音(ね)り」でもないとなると、はて…?

【美しい日本語クイズ】「おまけ」の語源を知っていますか?まさかの漢字も存在します!ヒントは…敗北!?

漢字って奥深い!「音り」の読み方はまさかの…!!

美しい日本語クイズの時間です♪

【問題】
「音り」は何と読むのでしょう?

thinking time♪





正解は

「たより」でした。

意味は、「便り」とほぼ同じ。「知らせ」や「消息」「訪れ」といった意味だそうです。

「音り」を「たより」と読むとは、初耳。習った記憶もないけど…。みなさんは、ありますか?

どうやら、「音」という漢字は小学校1年生で習うものの、「音(たよ)り」という訓読みは、常用漢字表にない「表外読み(表外音訓)」。そのため、なじみがないのかもしれません。

ちなみに、パソコンに「たより」と入力しても「音り」と変換されませんでした。これも、表外読みだからですかね?

そして、「音」という漢字を調べてみると、

「音」の音読みは「オン」「イン」、訓読みは「おと」「ね」、そして、表外読みの「たよ(り)」と書いてありました。

【美しい日本語クイズ】「音り」は何と読む?もちろん「おとり」ではありませんよ!日本人らしい感性が光る話


意味は、物音や楽器の音色といった、空気の震えなどが耳に伝わり聞こえる音(おと)。
そのほか、音という漢字自体にも、知らせ、消息、訪れといった意味があるようです。

【美しい日本語クイズ】「音り」は何と読む?もちろん「おとり」ではありませんよ!日本人らしい感性が光る話


しばらく”連絡がない”ことを、「音沙汰がない」と言いますよね。音沙汰の「音」は「知らせ」「便り」の意味。また、「沙汰」にも「知らせ」「便り」の意味があるそうです。

そして、「音(おと)に聞く」という慣用句。どういう意味かご存じですか?

「音を聞く」のではなく、「音に聞く」。ここがポイントです。

実際に何か音(おと)が聞こえるのではなく、「人伝えに聞く、うわさに聞く、名高い、有名である」といった意味があるんですって。

知らせや便りという意味から派生した表現という感じですよね。

「音に聞く」という言葉は、現代では使うことが少ないようですが、古文などではよく見られるそう。

あっ!

百人一首にもありますよね。

「音に聞く 高師の浜の あだ波は かけじや袖の ぬれもこそすれ」

平安時代後期の歌人で、後朱雀天皇の皇女・祐子内親王の女房(朝廷に仕える女性)だった、紀伊という人の歌です。


実はわたし、小学校の頃は百人一首クラブに所属し、百人一首をひたすら覚えたんです。

ただ、小学生時代のわたしは、カルタを取ることが第一。歌の意味まで把握していませんでしたが、どうやらプレイボーイからの誘いを、さらっと粋に断った歌みたいです。

直訳すると「”噂に名高い”高師の浜のいたずらに立つ波にかからないように気をつけましょう。袖が濡れると大変ですから」と、なります。一見、有名な高師浜の様子を詠っているだけのようですが…。実は、「浮気者で有名なあなたに思いを寄せないようにしよう。涙にくれて袖を濡らさないように」という意味を含んでいるそう。

「音に聞く」のは、高師の浜ではなく、あなたが浮気者であること。いたずらに立つ「あだ波」を”浮気な人からの誘い”に例え、「かけじや」に、波と恋心を掛けている。さらに、波で袖が濡れるのと、涙で袖が濡れることを掛けているわけです。

粋ですね~。


そして驚くのが、相手の男性は29歳で、この歌を詠んだ紀伊はなんと70歳!

なんでも、この歌は、貴族が恋の歌を女房(朝廷に仕える女性)に贈り、それを受けた女房が返歌をするという趣向の歌会で詠まれたものとか。

”音に聞く”プレイボーイ、29歳の藤原俊忠からの「人知れぬ 思いありその 浦風に 波のよるこそ 言はまほしけれ(私は人知れずあなたを思っています。荒磯の浦風に波が寄せるように、夜にあなたと話したいのですが)」という歌に対し、70歳の紀伊が、「音に聞く 高師の浜の…」という歌を、粋に返したわけですね。

歌会で、29歳の若き俊忠が70歳の紀伊に恋歌を贈るというのは、ちょっとからかう気持ちもあったのかもしれません。ところが、ウィットに富み、エスプリの効いた粋な歌が返ってきて、俊忠もさぞ、驚いたんじゃないでしょうか。

…って、かなり横道に逸れちゃいましたね。すみません。

逸れたついでに、余談をもう少し(笑)。

「音」という漢字を調べていたら、興味深いこんな疑問にも出くわしました。

それは、「笛の音」と「ピアノの音」。

「笛の音」は「笛のおと」ではなく「笛のね」と読み、「ピアノの音」は「ピアノのね」ではなく「ピアノのおと」と読むのはなぜかという疑問です。

「笛の音(ね)」と「ピアノの音(おと)」違いはナニ?

【美しい日本語クイズ】「音り」は何と読む?もちろん「おとり」ではありませんよ!日本人らしい感性が光る話

画像出典:photiAC

実際には、明確な使い分けはなく、「笛の音(おと)」「ピアノの音(ね)」と読んでも間違いではないみたいです。
けれど、感覚的に「笛の音(ね)」「ピアノの音(おと)」の方が、しっくりきますよね。

どうやら、日本人は古くから、虫の声や自然の音、小さな音、心地のいい音、人の声などには「ね」を使い、鐘などの大きな音には「おと」を使っていたようです。『デジタル大辞泉』には、「”おと”が大きな音響を指すのに対し、”ね”は比較的小さな、人の感情に訴えかけるような音声をいう」と補足されていました。

これに従うと、ピアノは心地のいい音なので「ピアノの音(ね)」と言ってもよさそう。ですが、小さな音ではないので「ピアノの音(おと)」としたのかもしれませんね。そういえば、ピアノの心地よい音を表現するときは、音色(ねいろ)と言いますし。

聞こえてくる音によって、「おと」と「ね」を使い分けるのは、日本人らしい細やかな感性と言えるかもしれません。

実際、西洋人とは違う、日本人独特の”音の捉え方”があるみたいですよ。

世界でも稀!?日本人独特の”音の捉え方”とは?

【美しい日本語クイズ】「音り」は何と読む?もちろん「おとり」ではありませんよ!日本人らしい感性が光る話

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東京医科歯科大学の角田忠信名誉教授の研究によると、西洋人は、「虫の音」を機械音や雑音と同様に「右脳」で処理するのに対し、日本人は人間の話す声の理解など、論理的で知的な処理を行う「左脳」で受け止めるそうです。

西洋人は「虫の音」を雑音と捉えて無意識に”聞き流す”のに対し、日本人は雑音ではなく「虫の声」として”聞いている”ということのよう。

これは文化の違いによるもので、この特徴は、世界でも日本人とポリネシア人だけに見られ、中国人や韓国人も西洋型を示すそうです。

虫の音のほか、波や風、雨の音、小川のせせらぎなどもその違いが見られるそうなので、古くから自然に対して五感を働かせ、様々な歌を詠んできた、日本人ならではの音の捉え方かもしれませんね。


ちなみに、この研究は、角田教授がキューバの学会に参加した際、会場の周りで蝉しぐれのように虫の音が激しく聞こえていたのに、他の国の人たちはその虫の音を気にする様子がなく、聞こえていないように見えたことがきっかけになったみたいです。

ということで、今回は「音り」の読み方から始まり、「音」という漢字、そして、日本人独特の音の捉え方について紹介しました。だいぶ横道に逸れてしまった部分もありますが(笑)。

西洋人が自然や虫の音を雑音と感じることに、けっこう驚きました。日本人は、自然や虫の音に趣を感じるもの。そんな日本人特有の感性が、「音」という漢字の使い方などに影響しているのは、興味深いですよね。

<参考文献>

『漢字ペディア~音~』
https://www.kanjipedia.jp/kanji/0000596200

『名古屋刀剣ワールド~祐子内親王家紀伊と百人一首~』
https://www.meihaku.jp/hyakunin-isshu-kajin/kajin-yushinaishinnokeno-kii/

『ことのは社~音ー「おと」と「ね」ーどう違うの?~』
https://tyugakunyushi-kokugo-shoronbun.com/newsdetail?wgd=news-32&wgdo=date-DESC

『メガネ・補聴器のカワチ~『なぜ日本人には虫の「声」が聞こえ、外国人には聞こえないのか』ってホント?~』
https://i-love-megane.jp/hearing_blog/archives/2379
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