『鬼滅の刃』煉獄杏寿郎が嘴平伊之助を変えた。野生児が"少年"に成長するまで【鬼滅キャラの魅力解剖】 (2021年10月31日)

大ヒット作品『鬼滅の刃』に登場するキャラクターの魅力に迫る連載コラム、今回は炭治郎たちと共に旅をする嘴平伊之助をピックアップします。人の心を知らなかった彼を変えたのは……。いよいよ無限列車編＆遊郭編もTVアニメ放送開始となり、まだまだ大勢の注目を集める『鬼滅の刃』。今作に登場する様々なキャラクターの魅力を解説する本連載コラム、炭治郎＆禰豆子や我妻善逸や煉獄杏寿郎らに続き今回ピックアップするのはは炭治郎たちと共に旅をするメンバーの内の一人、嘴平伊之助です。トレードマークの猪頭に上半身は裸。その野性味あふれるルックスから、初見で彼のことを鬼側の人物だと勘違いするアニメ視聴者も多々見受けられた様子。特に映画から『鬼滅の刃』の物語に触れた人の中には、彼の猪頭の下の素顔を結局知らないまま、という方も多いことでしょう。『鬼滅の刃』煉獄杏寿郎が嘴平伊之助を変えた。野生児が"少年"...の画像はこちら &gt;&gt;DVD『鬼滅の刃』6巻via DVD『鬼滅の刃』6巻荒々しい態度とは裏腹に、実は伊之助の猪頭の下の素顔は、まるで女の子のような端正な美しい顔。そのギャップもさることながら、幼い頃親に捨てられ野生の猪に育てられたという奇妙な生い立ちも、彼を強く印象付ける要素の一つかもしれません。そんな破天荒な出生の中で鬼殺隊となり、炭治郎一行と行動を共にすることとなった伊之助。ですが実は彼もまた炭治郎や善逸と同じように、その旅路の中で大きな成長を見せた人物の一人でもありました。※本記事は性質上、アニメ未放送の原作内容を含みます人の営みを知らぬ少年…人の死は動物の死と変わらなかった母に捨てられ、野生の猪を母として育った伊之助。時折人間との交流も行いながらも、山生まれ山育ちの文字通り生粋の野生児としてこれまで彼は育ってきました。だからこそ炭治郎たちと出会ったばかりの当時、伊之助はいわゆる人間らしい感情や思考がすっぽりと抜け落ちた少年として登場しています。生き物は全て自分より強いか弱いかの二択。その中で自分の為すべきことは、より強い者を倒して自分自身が強くなることのみ。誰かを労り慈しむという価値観そのものが、獣の中で生まれ育ってきた彼には一切存在しなかったのです。「生き物の死骸なんて埋めて何の意味があるやらねぇぜ 手伝わねぇぜ！！ そんなことより俺と戦え！！」（『鬼滅の刃』4巻より引用）炭治郎たちと出会って初めての任務を終えた後、犠牲となった人々を埋葬している面々に伊之助は何の悪意もなくこう言い放ちます。山で育ち人の営みを知らず、数多の動物たちと育ってきた彼にとっては、人間を埋葬するという価値観は理解できないものだったのでしょう。TVアニメ「鬼滅の刃」嘴平伊之助スペシャルPVvia www.youtube.com死んだ生き物は自然に風化して崩れ去り、地に還るのを待つだけ。厳しくも美しい自然の掟しか知らない彼が人間の埋葬の概念を理解できないのも、ある意味当然かもしれません。このように、人の死を目の前にしても何の感情も抱かなかった伊之助。そんな彼の様子に最初の変化が訪れたのは、炎柱・煉獄杏寿郎の死を間近で見た時のことでした。死んだ人間は戻らない。それでも悲しみや怒りを抱き始める「死んだ生き物は土に還るだけなんだよ べそべそしたって戻ってきやしねぇんだよ悔しくても泣くんじゃねえ」（『鬼滅の刃』8巻より引用）上弦の参・猗窩座との激闘の末に命を落とした炎柱・煉獄杏寿郎。炭治郎と同じく伊之助もまた、目の前で彼が命を落とす瞬間をただ見ている事しかできなかった人物の1人です。その後自身の無力さに泣き崩れる炭治郎に対し、伊之助が言い放ったこの台詞。一見初期の彼の価値観と同じにも見えますが、決定的に違うのはこの言葉を口にした伊之助自身も、被り物から涙があふれるほどに号泣していた点でしょう。命あるものは皆死んでしまえばそれで終わり。何があっても戻ってくることはない。自然の中で生きてきた彼だからこそ、誰よりもそれを身に染みてわかっていたはずです。しかしそれでも、煉獄の死は伊之助にとってもあまりにも大きな喪失でした。家庭用ゲーム「鬼滅の刃 ヒノカミ血風譚」キャラクター紹介映像04・嘴平伊之助via www.youtube.com山々で共に育った獣たちと同じ生き物であるはずの人間。その中でもとりわけ、自分との関わりがある人や、自分にとって大きな存在だった人物。彼らと出会う事で、伊之助の中では確かに。「人が死ぬこと」の価値観が、徐々に変わっていったのです。また彼の価値観が変わったことを示す、大きなもう一つのターニングポイント。それも同じく柱であった蟲柱・胡蝶しのぶの死と、同時に明かされた自身の出生の秘密でしょう。無限城の最終決戦の中で上弦の弐・童磨と相対した伊之助。そこで彼は目の前で相対する鬼が、自分をずっと気にかけてくれていたしのぶと母の仇であることを知るのです。「本当に奇跡だぜ この巡り合わせは俺の母親と仲間を殺した鬼が 目の前にいるなんてなァア！！」（『鬼滅の刃』18巻より引用）大切な仲間と母を殺した相手に対し、これまでになく激昂する伊之助。ですがもし元々の価値観のままの彼であれば、しのぶや母の死に対しても、「弱い者が強い者に喰われただけ」という弱肉強食の信条のまま、ここまでの激情を見せることはなかったでしょう。数多の仲間との関わりの中で、人を慈しみ死者を悼む心を知った伊之助。その振る舞いは初期の頃に比べ、ずっと「人間らしい心」を持った一人の少年へと成長していました。猪に育てられた少年が、人間らしい心を育む物語でもある「あっちこっちに転がってる死体は一緒に飯を食った仲間だ返せよ 足も手も命も全部返せ それができないなら 百万回死んで償え！！」（『鬼滅の刃』23巻より引用）戦いの中でたくさんの人の死を経験した伊之助。その中でいつしか彼は人間の死を、ただの生き物の死と同等には扱わなくなっていました。劇場版「鬼滅の刃」無限列車編 キャラクター別ファイナルCM（伊之助）via www.youtube.comそれを何よりも証明したのが、鬼舞辻無惨と対峙した時のこの台詞でしょう。煉獄やしのぶ、自身の母ほど、直接的な関わりはなかったかもしれません。それでも彼はすでに事切れた隊士の死体を物のように扱う鬼舞辻に対し、涙を流して怒り狂う姿を見せています。また全ての戦いが終わり、炭治郎と共に彼の家に住むことになった伊之助たち。そこでも彼が埋葬された竈門家の人々へ、手を合わせているシーンが描かれています。一度も会った事も見たこともない人へ、弔いの気持ちを込めて手を合わせる伊之助。大きな戦いを乗り越えた後、そこに「人の心」を知らない彼の姿は、もうどこにもありませんでした。獣に育てられ人の心を知らなかった少年が、人間らしい男の子へと成長するまで。彼のそんな物語に注目すると『鬼滅の刃』はまた新たな楽しみ方のできるお話へと、姿形を変えるのではないかとも思います。（執筆：曽我美なつめ）「『鬼滅の刃』吾峠呼世晴原画展」PV 30秒バージョンvia www.youtube.com嘴平伊之助プロフィール嘴平伊之助（はしびら・いのすけ）CV.松岡禎丞年齢：15歳誕生日：4月22日身長: 164cm好物：天ぷら炭治郎と同期の鬼殺隊士。常に猪の頭を被る不思議な風貌で、好戦的な性格をしている。山育ちで触覚が鋭く、視界に入っていないものでも居場所を捉えることができる。（公式サイトより引用）TVアニメ『鬼滅の刃』遊郭編TVアニメ「鬼滅の刃」遊郭編 第1弾PV 2021年放送開始via www.youtube.com2021年 TVアニメ化決定スタッフ原作：吾峠 呼世晴（集英社ジャンプ コミックス刊）監督：外崎春雄キャラクターデザイン：松島晃アニメーション制作：ufotableキャスト竈門炭治郎：花江夏樹竈門禰豆子：鬼頭明里我妻善逸：下野紘嘴平伊之助：松岡禎丞宇髄天元：小西克幸（TVアニメ『鬼滅の刃』遊郭編公式サイトより引用 https://kimetsu.com/anime/yukakuhen/）■ アニメ『鬼滅の刃』キャラクターの魅力徹底解剖まとめ！【竈門炭治郎＆禰豆子、我妻善逸、胡蝶しのぶ、煉獄杏寿郎、鬼舞辻無惨etc.】https://numan.tokyo/anime/yakmL■『鬼滅の刃』炭治郎と禰豆子が示した現代のヒロイン像。“幸せ”を自ら決める強さ【キャラの魅力徹底解説】https://numan.tokyo/anime/HpneO■鬼舞辻無惨が持つ“傲慢さ”の理由とは。底知れぬ自己愛の裏にあるもの【鬼滅の刃キャラの魅力】https://numan.tokyo/anime/qdk1q