「アナタの推しを深く知れる場所」として、さまざまな角度で推しの新たな一面にスポットを当てていくnuman。2024年8月の深堀りテーマは“ホラー”。
連日猛烈な暑さが続くこの夏。少しでも涼しい気分になるべく、こんな季節はゾッとするような漫画が読みたい。そして、ガチ腐女子の私はできることなら「BL」がいい……。
そこで今回はガチ腐女子ライターがホラーだけじゃない、“いろいろな”意味で読むと「ゾクッとする」BLコミックをご紹介します!
『カラーレシピ』はらだ:冷や汗ビッシャア!衝撃のラストに背筋が…

『カラーレシピ (上) 』(新書館)
“生真面目で無愛想…だから人気のないことが悩みなスタイリスト・笑吉の勤める美容室へ、嫌味でお調子者のトップスタイリスト・福介が入ってくる。
終電を逃した福介を泊めた夜、寝ている笑吉に跨りながら欲棒を押し付けてきた福介の変態行動により、ますます大嫌いな存在に。
しかし、気味悪い出来事が笑吉に起こり続けることで、福介への思いが変わっていき…。アイツは本当に王子様――?
手に入れたいものへの情念と執念の行方は?愛するが故に、愛したが故に堕ちていく二人の物語。
王道と非道が混ざり合う…究極のサイコパシー・ラブ!!”
(コミックス1巻あらすじより)
手段を選ばないってこーゆーことです、の極致BL。
【カップリング属性】お調子者のコミュ強スタイリスト×生真面目不器用スタイリスト
とにかく狂気以外の何者でもないサイコパス攻め・福介登場に戦慄。受けである笑吉に対する底なしの執着と、人間の心理の怖さがエグ過ぎて、読み進めるうちにハンディファンいらずのゾッとする冷えた心境になれること間違いなし!
ネタバレを避けつつあえて言うならば一見、人当たりも良くコミュ能も高く社交的でお調子者なスタイリスト福介ですが、本性や裏の顔はハンニバルレクター博士タイプの綿密な計画を立てて獲物を仕留めるタイプ。
よくよく注意深く読み進めれば福介の言動のところどころには不審な点がちょっとどころか、すべて怪しい部分だらけなのですが、巧妙なミスリードや誘導に乗せられて、気づけない笑吉にヤキモキしっぱなし! 性格が性善説ありきなのか、素直過ぎるのか、とにかく笑吉の脇ガバガバなところに上巻ではヒヤヒヤさせられて冷や汗ビッシャアになるのでご注意ください。

『カラーレシピ (下) 』(新書館)
また、もともと物語のスピードコントロールに長けた、はらだ先生ですが、本作の切れ味のシャープさはBL作品に限らず各ジャンル漫画全体の中で比べてみても突出しており、コマ割りによる読者の視線誘導もお見事。
読んでいる人の気持ちを本作の世界観にあっという間に引きずり込むダイ〇ソンもびっくりな吸引力がハンパないです。天下のはらだ先生ここにあり、をあらためて証明する本作といっても大げさではない気がします。
個人的には、重要なサイドキャラである女装男子・龍来(りく)くんのスーパーファインプレーに何度も救われて胸がスカッとしたのでこれから読まれる方は要チェック!
上下巻となった仕掛けにも意味があり、本作は下巻に移るとストーリーはますますトンデモどんでん返しの連続。結末まで一切気の抜けない展開が待っています。総毛立ち背筋が凍る驚愕のラストまで、ぜひネタバレなしで上下巻を一気読みすることをオススメします。
『蟷螂の檻シリーズ』彩景でりこ:少しずつ毒に侵されるような読み心地

『蟷螂の檻(1)』(祥伝社)
“孤独な御曹司に植え付けられた快楽。地方名家・當間家の跡取りとして厳しく育てられてきた育郎(いくろう)は、座敷牢に匿われる妾腹の兄・蘭蔵(らんぞう)に父の関心のすべてを奪われていた。
辛くとも気丈に振舞う育郎だったが、そのそばには、常に一人の男がいた。典彦(のりひこ)。育郎が幼い頃から仕える年上の使用人である。
典彦は、孤独な育郎を蛇のように愛でた。深い口づけを教え、性処理とうそぶきながら股を開かせ、その長い指で尻を抉った。そうして育郎に快楽の種を植え付け体をいやらしく変えていった。そして数年後、事態は一変する。當間家当主が死に、育郎が次代を継ぐ時が来て――!?”
(コミックス1巻 あらすじより)
どろどろ 背徳的に歪んで、美しい……昭和の闇BL
【カップリング属性】超絶鬼畜のお世話係×訳アリ雌御曹司
出ました執着攻めの金字塔。下克上主従が織り成す官能時代ロマン。執着攻めの狂気っぷりとストーリーの流れが激重。
昭和中期、地方の名家を舞台にした謀略家の使用人・典彦(攻め)が孤独で寄る辺のない跡取り御曹司・當間育郎(受け)を籠絡することを軸に、その一族全体を破滅に追いやろうとするストーリー。少しずつ毒に侵されていくような読み心地は最高です。
個人的に人間の汚れた部分がいっぱいのドロドロした作品は大好きで、當間一族怒涛の展開、色んな人々がそれぞれ自身の私利私欲で大胆に動くという地獄ぶりですが、とくに典彦のサイコパスっぷりは最高潮。
育郎がまだ幼い頃から長い年月をかけて、ゆっくり思いのままに操るさまや、育郎の身体を蹂躙するだけでは飽き足らず、その身を失脚させ、逃げ場のない暗黒に突き落とし、なお「壊れて行く様を見たい」と追い詰める。

『蟷螂の檻(2)』(祥伝社)
典彦は、ただ自分だけに縋りつくしか生き様がない程にと、奸計を張り巡らせ 周囲を巻き込んで狂わせていきます。愛しくて、愛しくて、大切にしたい。大切にしたいから、壊したい。壊れていくところが、見たい。その執念は、ちょっと凡人の自分には理解できなくてごめんね典彦。
「私以外の何もかも全部だめだったと 自分には何もできなかったと ただ私の手に落ちてきてほしかった」と、狂愛が行き過ぎてもはやホラー。求めていた愛を手に入れられなかった人たちが、心のより所を欲したために、相手や周りの人を傷つけて自分まで苦しむ辛いストーリー。
横溝正史と谷崎潤一郎をかけ合わせて煮詰めたような激重シリアスなこの作品は、まるで映画か大河ドラマのようで世界観の規模が広く、クセ強BLの頂点を極めている気がします。
そういった点でも、良い意味で胃もたれ怖すぎストーリーはクセになるはず! とはいえ最後の最後まで痛さも闇も途切れることなく描かれ、人の闇をどこまでも追いかけた展開は地獄で恐ろしい! 読後感の後味は苦みも甘みもえぐみも強いので喉の奥がコォッ! 濃ッ! ゴホッ! 味付け濃いめやメリバ属性が好きな腐女子の味覚にはぴったりだと思われます。
『バカで弱くて無様でも』千代崎:伏線の嵐にミステリー作家も顔負け

『バカで弱くて無様でも(上)』(
新書館)
“大学生モデルの菊丸は年上の男・邦之に口説かれ好きになるが、一方的に振られてしまう。諦めきれない菊丸は邦之がオーナーを務めるホストクラブに入店する。
新人ホストとして邦之の店で働き始めた菊丸。菊丸の想いを冷たく突き放しながら、邦之は彼を寮がわりに自宅に同居させてくれる。邦之を想う気持ちを捨てられない菊丸は……。”
(コミックス 上巻あらすじより)
最後の最後で衝撃の事実判明!ドープネス・ラブ
【カップリング属性】年上ホストクラブオーナー×大学生モデル
若くモテモテだがゲイであることを引け目に感じ、クローゼットとして生きてきた、純粋な恋に憧れる大学生モデル・菊丸(受け)と、人生の辛辣さを知り尽くした成熟した爆裂男前なホストクラブオーナー・邦之(攻め)の恋のストーリーが上下巻で描かれていく本作。
菊丸の、邦之に向ける初めての恋への突き進み方と、邦之の自己犠牲を重ねる様子にハラハラしながらも、上下巻で同じような言葉がまるで違う意味として発せられたりしているのがいくつかあり、ハッとさせられたりするなど、構成が絶妙に上手く練られています!
邦之と菊丸の気持ち、生き方はそれぞれ実は揺れています。クールで大人に見える邦之が長年抱えている自己否定感が菊丸の純粋さ、チョロさ、健気さ、諦めない素直さによって少しずつ救済されていく様子は、読みながら自分ごとのようにハラハラしたりホッとしたり心が動かされること間違いなし。

『バカで弱くて無様でも(下)』( 新書館)
また、菊丸と邦之の年の差や、愛の価値観の違いから生まれる心理がリアルで、二人が恋にたどり着くまでの展開にドキドキさせられっぱなし! そして登場人物たちそれぞれの個性も丁寧に描かれています。本作は登場人物みんなが誰かに執着していました。
菊丸以外はそれを隠して素直になれない人ばかり。その矢印一方通行な状態も不憫だったり、心配だったりと、捨てキャラやモブキャラが無く誰に感情移入しても没入感が味わえると思いました。
なかでも邦之が経営するホストクラブのNo.2キャスト・マヤは何くれとなく菊丸に寄り添い話を聞いてくれますが、マヤが笑顔で放った「恋愛に勝てる人は負けてあげられる人だよねえ」の言葉が名言過ぎて自分でもびっくりするぐらいブッスリ胸に刺さりました! 至高の名言キタコレ。あれ、なんで泣いてるんだろう自分。
ここまで「冷える」要素がないと思いきや、下巻で見事タイトル回収。ラストの秘密明かしにはミステリー作家・東野圭吾氏もびっくり。すべてを知った瞬間、鮮烈な驚愕感に叫びそうになるという衝撃があります! そしてもう一度上巻から読み返すと、伏線の嵐だったことに新たに気づき、そこでもう一度雄叫びを間違いなく上げるはず! ぜひ何度も読んで欲しい一作です!
『蛇喰い鳥』芽玖いろは:驚きすぎて変な声が大音量で漏れました
驚きのあまり声が大音量で漏れました“夜の街で偶然、男同士のSEXに遭遇した二条。
翌日の大学で抱かれていた方の男を見かけ、彼・千鳥が大学職員だと知る。
昼間に大学で見る彼と、夜の街で男に抱かれて喘いでいた彼。
二条は、その二面性が気になり始める。
バイト先に訪れた千鳥と話すと、妙に色気を感じるし、笑顔が可愛いと思った。
もっともっと色んな顔が見たくて、たまらなくなって……。”
(コミックス あらすじより)
色っぽくて綺麗なお兄さんは、好きですか?
【カップリング属性】年下リア充大学生×大学の学務課の職員
本作は全世界の年下攻め×美人受け好きな腐女子様にオススメするなら、と聞かれたらTOP3に入ります!(大声)
大学の友人と行った飲み屋の個室トイレから響く喘ぎ声。

『蛇喰い鳥』芽玖いろは
決してそれだけではないかもしれませんが、二条の千鳥への興味の根底にははじめから下心があったのだと思わせる描写は作中のあらゆるコマに散らばっていて、(無双してたリア充大学生モテ男がウロチョロしてるぞ…それは恋なんだぜ…)と読み進めながらニヤニヤが止まりません。
普通そんな強烈な出会い方をしたら、却って避けるものではないのでしょうか? あるいは一目惚れのようなものだったのか? などコマとコマの間を埋める妄想がはかどります、モグモグ。偶然の再会を重ねるうち、二条は千鳥の魅力にずぶずぶとハマってゆくのですが、その二条の一人あわてふためく様子がたまらなく可愛くて(初恋かよ!!!!)と画面にツッコミを入れたくなりました。
欲しいものは特に苦労する事もなく手に入れてきたのであろう主人公の二条が、初めて直面する簡単には手に入らない葛藤。二条のモノローグがメインでストーリーは進められていくために、一方通行の恋に奮闘するお話のようです。しかし二人が結ばれて明かされる秘密。
ペラ、とページをめくって、その明かされた秘密を知った瞬間、ニワトリのような鳴き声が自分の口から大音量で漏れました! 驚きすぎてホラーでもないのに心臓が跳ねるというか何というか、とりあえず尻がイスから浮きました。
しかも芽玖いろは先生、当時この作品がデビュー作!BL界の鮮烈デビューを飾るのにふさわしい一作。
『真夜中のクライングモア』遠藤巻緒:闇属性の腐女子にドンズバ刺さる
“緒方純の十代はぶっ壊れていた。
ゲイだとバレていじめられ、死にたいと思いながらも学校に通う毎日。
そんなとき出会った、オネエ口調の同級生・松永湊。
まわりとわけ隔てなく接してくれる湊に心惹かれていく純。湊との出会いが、純を救う――はずだった…。
(コミックス あらすじより)
陵辱される思春期――。僕のヒーローが僕を殺(おか)す。
【カップリング属性】オネエ口調の高校生×いじめられっ子高校生
鬼才・遠藤巻緒先生のデビュー作です。主人公の高校生・緒方(受け)は壮絶ないじめにあっています。きっかけは中学の頃、友達とトイレで触り合っていたのを見られたこと。
そこから始まる脅迫と屈辱、エスカレートしていく終わりのないいじめの悪循環。その緒方の心のより所がオネエ口調で飄々と話す松永ですが、実は松永もまた相当なトラウマを抱えており、その発散の矛先が暴力に向かうという凶暴さ。展開は重くしんどい内容です。
お互いに闇を抱えたまま一緒にいることで、二人の闇の濃さはより一層深くなったような気がします。しかし緒方にとっての松永は、深刻ないじめ地獄に堕ちている自分の一筋の光でありヒーロー。
松永がどんな人物であれ、緒方にとって松永がヒーローだったことは揺らぎない真実だと感じます。

『真夜中のクライングモア 』(一迅社)
絶望の中で緒方が勝手に作り上げたヒーローだったとしても、それが緒方の力強い救いになったのならそれで良かったと思えますし、松永が正しいか正しくないかもここではさておき、ただひたすらに、緒方にとって松永の存在は誰が何と言おうと正義の味方だったということです。この救いの少ないお話の中で大事なのはこの一点だと言えます。
またストーリーの始まり方でミスリードされますが、中盤以降であっ!と気づかされる展開もあり物語の構成も巧妙な仕掛けになっているので、そちらも見どころのひとつ!上手さに驚き(これがデビュー作って才能怖すぎでしょうが…)と別の意味でも発売当時、怖かったです。
99%の絶望の中で見つけた1%の光を、主人公が絶対に手放さないところまでの流れまでが込みで、少々辛く、痛々しい系BL。トラウマ持ちモノで、すべてを読み終えると重い読後感とともに、肝と心がスッと冷えるお話でこれまた違った角度と意味で「冷えるBL」。闇属性好きの腐女子の皆さんにはドンズバど真ん中の一作だと確信しています!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
以上、上記5作品を「冷えるBL」としてピックアップしてみました。定番モノから意外なモノまで様々な作品で心を冷やし、この夏の暑さを乗り切るために涼しいお部屋でぜひとも『BL冷え』をしてください。
(執筆:加藤日奈)