かく語る『スラムダンク』とは……今回のゲストは、賞レースのファイナリストの常連でもある実力派芸人、さらば青春の光の森田哲矢さん。宮城リョータに芸能界を生き抜く術を学んだという森田さんは、『スラムダンク』をかく語る。
森田哲矢●1981年8月23日生まれ。大阪府出身。さらば青春の光のツッコミ担当。2008年、ボケ担当の東ブクロとコンビを結成し、2013年には個人事務所「株式会社ザ・森東」を設立。現在は、バラエティ番組を中心に活躍しながら精力的に単独ライブも行っている。古着好きとしても知られ、スニーカーは断然ローテク派。公式YouTubeチャンネル『さらば青春の光 Official Youtube Channel』。 Instagram saraba_morita
桜木花道に見る「同じ轍は踏まない」という教訓
どうも、さらば青春の光の森田哲矢です。もちろん大好きですよ『スラムダンク』。ど真ん中の世代ですから。まず、ベタ中のベタですけど、仕事で「もう無理やな……」って思うときは「あきらめたらそこで試合終了ですよ…?」っていう安西先生の言葉は自然と浮かんできますよね。
あとは何やろな~……。今、表紙の仙道を見て思い出しましたけど、「戻れっ!! センドーが狙ってくるぞ!!」っていう桜木の言葉も熱いっすよね。
神奈川県予選の決勝トーナメントの陵南戦で、桜木が最後にダンクを決めて死闘に決定打を叩き込むんですけど、練習試合では仙道に逆転を許しちゃったから、すぐさま自陣のコートに戻ってディフェンスに入るんすよ。あれもいいっすね~。同じ轍は踏まないっていう教訓を教えてくれます。
あと、よく真似して言ってたのは「蚊がいる」ですかね(笑)。やさぐれていた三井が、仲間を引き連れて体育館に現れるんです。バスケ部を潰しにくるんすよ。部員に暴力を振るったりもするんですけど、そこで三井と一緒に来ていた鉄男っていうヤンキーキャラに桜木が殴られて、そのときに言った言葉が「蚊がいる」。中学や高校ぐらいのとき、ヤンキーに絡まれてようその言葉使ってましたね~。それ言うと、ヤンキーの人らが笑ってくれるんですよね。結局、俺のようなキャラって、いかにヤンキーにいじめられていないように周りに見せるかが大事なんすよ。「いじめられてるんじゃない、イジられてるんですよ」って(笑)。ヤンキーも「こいつは悪い奴じゃないし、なんだったらおもろい奴だ」っていう認識になると、もういじめてこなくなる。
そのへんの教訓も得たと思います。そう思えば結構ありますね、学び(笑)。--{}--
さらば青春の光は桜木と流川。麒麟・川島は仙道
『スラムダンク』って、逆境に立ち向かう話ですからね。山王工業戦なんて特にそうじゃないですか。後半が始まってすぐ10点差、20点差をつけられて。追いすがるんですけど、またつき離される。最後には勝利をつかむんですけど、それがファンタジーじゃないっていうのがいいというか、ちゃんと説明できる勝ち方をしているんですよね。それがいいっすよね。僕らも常に立ち向かってきた人生やから、よりリアルにスッと入ってくるんでしょうね。
あと、山王工業戦で見せた安西先生のガッツポーズね。オフェンスの鬼、流川がパスをした後のアレですよ。
作者の井上先生も多分、プチ見せ場のつもりで描いていると思うんですけど、そのシーンが笑ってまうというか。本人も無意識でやったあの「グッ!」。あの拳の「グッ!」だけじゃダメなんですよ。この体勢の「グッ!」じゃないと(笑)。
あの形態模写を人生で何回もやりましたもん。基本『スラムダンク』って、真剣な中にもギャグ要素を入れるじゃないですか。緊張と緩和というか。そのちょっとおもろい間というのはお笑いに通じますよね。ときおり、さらば青春の光って桜木と流川みたいな感じなんかな~って思います。良く言うと、ですよ(笑)。
根暗で何考えているか分からん東ブクロがいて、明るい感じの俺がいて。普段は別にそんな喋らんし、別に仲も良くない。
でも、たまに賞レースの決勝を決めたときとかにバチーン!とハイタッチする……みたいなね。憧れのキャラだったら仙道ですかね~。ひけらかさないじゃないですか、実力を。あれがいいすよね。評価はいずれ周りがするものだ、みたいな。普通だったらすぐに褒めてほしいからひけらかしちゃうでしょ? そういう意味では、僕の周りだと麒麟の川島さんが仙道に近い気がします。川島さんてずっと面白かったんですけど、ひと昔前までは能力の割に世間から評価がそこまで高くなかったと思うんですよ。結果、世間も徐々に徐々に追いついてきて、今や佇まいは仙道じゃないですか(笑)。何を振ってもやってくれる。絶対にウケさせてくれるというかね。--{next}--
ネタこそが、さらば青春の光の“生きる道”
でも、桜木やら流川やらいますけど、いちばん感情移入しやすいのは宮城リョータですかね。僕はサッカーをやってたんですけど、身長はチーム内でも低い方です。
でも、体力にはめちゃ自信がありました。フルで試合をしてもバテませんでしたから。
宮城の「ドリブルこそチビの生きる道なんだよ!!」っていうのに重ね合わせて、とりあえずフルで動き回れるやつでいるべきだって思ってましたね。今もそう。自分は芸能界で主人公じゃないっていうのはわかっているんでね(笑)。
芸人としては、山王工業の松本稔にも共感しますね。実は松本って、めっちゃバスケットボールがうまいんですよ。なのに、だいぶキャラ薄いじゃないですか。山王内では沢北に次ぐオールラウンダーのフォワード選手なんですけどね。だけど、ストーリーでは三井の引き立て役にされている。僕もお笑いが好きで、めっちゃネタも頑張ってきたけど、やっぱり天才だらけの芸能界では埋もれてしまう。その報われなさはすごい共感しますね。
結果、ディフェンスのスペシャリスト、一之倉よりもキャラが薄くなってますから(笑)。芸能界でも一ノ倉みたいなキャラの強めなやつはゴロゴロいて、それしかできなくても、それでメシを食えていますからね。それこそ宮城リョータですよ。“チビの生きる道”。俺らの生きる道はもうネタしかないですから。ネタだけはおろそかにしたらあかんというのはいまだに思っています。ほかでは負けていても、“ネタだけは絶対に”っていうね。結局、ありきたりですけど「オンリーワンの大切さを教えてくれる漫画」なんじゃないですか、『スラムダンク』はやっぱり。桜木にはリバウンド、宮城はドリブルしかない。それで、結果、トップレベルのオールラウンダーたちを倒してしまうという。各々の読み手の人生に重ねやすいというところはあると思います。
どこかでは劣っていても、何か一点を伸ばせば勝てるということを、『スラムダンク』は教えてくれたものかもしれないですね。マジで何かしらに特化していたらメシを食える時代なんで。湘北はそんな集まりじゃないですか。見ていたら自然と奮い立たせられますよね。◇周りを見渡せば、なんでもそつなく完璧にこなす人間もいる。しかし、何かに突出している人間はそれだけでも面白い。“自分の生きる道”を見出すことこそ、今を生きるうえでは大切なのかもしれない。
「かく語る『スラムダンク』」とは……映画公開も控えたバスケ漫画の金字塔『スラムダンク』。作品の持つエネルギーは凄まじく、それは時に人生を左右するほどの影響力を持つ。実際に触発され、全国区へ駆け上がったオーシャンズ世代の同志はこの漫画をどう読んだのか。男たちは、かく語る。
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