ここ数年、ヴィンテージスウェットは空前の盛り上がりを見せ“第2次ブーム”に突入しつつある。

注目はもちろん永世定番であるチャンピオンの「リバースウィーブ」だが、今ならではの人気傾向はあるのか。


前編に続き、ベルベルジン・ディレクターの藤原さんに伺った。


ビッグサイズやイレギュラーなものの市場価格が高騰

古着スウェットの第2次ブームの今、チェックすべき逸品から珍品まで一挙紹介

私物を提供&教えてくれたのはこの人
藤原 裕さん
1977年生まれ、高知県出身。日本を代表するヴィンテージショップのひとつ、ベルベルジンのディレクターを務める。デニムへの知識はもちろん、スウェットにも造詣が深く、稀少なヴィンテージアイテムを多数所有する。
「まず、サイズでいえばXL以上が中心。これは女性でも同様ですね。ひとつ注意していただきたいのは、古着ではタグにXLと表記されていても着丈の短いものがざらにあります。

アメリカ人の生活習慣の影響なんでしょうね。ガンガン乾燥機にかけてしまうため、本来は生地が縮みにくいように考案されたリバースウィーブをもってしても限界はあります。

僕らはすべてメイド・イン・USAに絞ってアメリカで買い付けた商品を洗ってから日本に持ち帰るのですが、スチームアイロンを当てて丁寧に整えると、ある程度は洗濯縮みをリカバリー可能。

無理やり生地を引っ張ってサイズを戻したものとはクオリティが違うということは主張させてください(笑)。

また、人気が反映されるという意味では、プライスの動きを見るとわかりやすいかもしれません。前編で紹介した目付きのリバースウィーブは、10年前なら4800円で販売していました。
そしてまだ十分に余っていました(笑)。

それが今は1万5800円という市場価格になってきています。その時代のファッションの傾向とリンクして、値付けが想定外に動くところも面白いですね」。

第1次ブームの頃は染み込みプリント入りのリバースウィーブがヴィンテージマーケットを牽引したのに対し、最近は逆にプリントが入っていない無地ものを求める動きが過熱気味だという。

古着スウェットの第2次ブームの今、チェックすべき逸品から珍品まで一挙紹介

山吹色のようなイエローと、サックスブルーもタマ数が少ないため人気のカラー。左はインクがボディに染み込んだ「染み込みプリント」と呼ばれるもので、大学名などがプリントされ当時の生協などで一般的に販売されていた。


「ヴィンテージ好きの人がタマ数の少ない商品を好むという点では、同じ’90年代の刺繍タグでも『無地の目なし』が圧倒的に人気です。

チャンピオンが大学や軍などにボディを納品したもののなかから、何らかのイレギュラーでプリントされないまま世に出回ったものがそれ。

プリントなしの目付きに比べて明らかに数が少ないため、店での相場は2万円オーバー程度。いい具合に褪色した黒のフード付きなら10万円を超えるかもしれません。

ちなみにその逆で、ラバープリントなのに目付きというパターンの珍品もあります。

某ネットメディアでの対談企画ではそれらをまとめて『珍ピオン』と表現しましたが、デッドストックを含めた潜在的なアイテムの絶対数が多いがゆえに見つかるレアものもリバースウィーブ人気の盛り上がりを後押ししていますね」。


古着スウェットの第2次ブームの今、チェックすべき逸品から珍品まで一挙紹介

かつてはスルーされていたラバープリントも、藤原さんはファッション目線で注目中。ちなみに右のオハイオステートは、俳優の菅田将暉さんが映画で着用したことをきっかけに人気沸騰。値が跳ね上がるのには理由がある、の一例。


ちなみに藤原さんが最近気になっているのは、染み込みではなくラバープリントが施され、そのラバーが経年変化で割れ・欠けを起こしているひび割れプリント。

ヴィンテージならではの風合いを即座に着こなしのアクセントとして取り入れられるのが魅力だ。

古着スウェットの第2次ブームの今、チェックすべき逸品から珍品まで一挙紹介

イェール大学のプリントが、なぜか前にも後ろにもプリントされている「珍ピオン」。藤原さんは自身のイニシャル(裕のY)にちなんで所有していたものだが、その稀少さから価格が高騰。このレア仕様は’80年代の「トリコタグ」時代にしか生産されていないと目されている。


「そのほかには珍品系のなかでも、以前から評価が高いアイビーリーグ8大学、とりわけイェール大学のプリントは別格です。理由ですか?おそらく、ロゴのデザインの完成度が高く見た目がいいから(笑)。

そのイェール大学のプリントが前後ろの両面に入っているものがあり、これは某オークションサイトにてなんと59万円で落札されたと話題になりました。

古着スウェットの第2次ブームの今、チェックすべき逸品から珍品まで一挙紹介

前Vガセット付きでやや濃い杢グレーのボディは、米軍陸士官学校に納入されていた製品の特徴的な仕様。

本来はUSMAと入っているはずだが、なぜか無地のまま流通してしまった珍品。


ミリタリー系も人気が底堅いジャンルです。USAFAのものが代表格。

それからミリタリー系の亜種といいますか、前Vと呼ばれるフロントネック部にのみV字状のガセットが設けられたボディで、かつ無地だとかなりレア度は高くなります。

本来この前Vのボディは米軍陸士官学校に納入していた品であり、USMAのプリント入りが標準仕様だからです。いい保存状態で出てきたら2ケタ万円でも争奪戦になるでしょうね」。
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SNSの影響で驚愕の価格がついた商品も!

古着スウェットの第2次ブームの今、チェックすべき逸品から珍品まで一挙紹介

U.S.M.M.A.とは船舶技師、航海士たちのための国立の軍士官学校のこと。この手のデザインのプリントは基本的にフロントに入るはずだが、手違いでバックプリントになったと思われる、稀少価値の高い逸品。


こうしたある種、狂気的ともいえる熱気はSNSカルチャーの浸透と切り離しては語れない。

今までひと握りの古着フリークしか存在を知り得なかったレアものを、個人が世界へ向けてきわめて手軽に発信できる環境が整い、速く、広範囲に情報が届くようになった。

近年では2トーンのリバースウィーブに代表されるように、珍ピオンの情報が瞬く間に拡散されるため、それが好事家たちの所有欲を刺激しているのだろう。

「インスタグラムにアップロードするやいなや○○円で譲ってください、とダイレクトメッセージが来て、そこからのやりとりで売買が成立することもあると聞きます。


このような形でシーンが活発になるというのも、今の時代ならではで、面白さでもありますね」。

世界的なヴィンテージデニム&Tシャツ人気の過熱も、間違いなくSNSがその背景にあった。

しかしながら、デニム&Tシャツとスウェットでは大きく異なる点があるそう。今のところリバースウィーブ人気の高まりは日本独自の現象に見える、と藤原さんは話す。

「アメリカ人にとってチャンピオンのスウェットは、自国の大学や軍のロゴが入ったベーシックなアイテムでしかない。そしてどこかトレーニングウェアのイメージが脳裏をよぎるからなのか、ファッションとして見られないのかもしれません。

Tシャツであればタイやマレーシアなどの東南アジアも古着市場が活発ですが、厚みのあるスウェットは暑い国で売れません。気候的にも日本がちょうどいいというわけです」。

ヴィンテージTシャツでは、人気プリントをそれらしく再現したニセモノの存在が問題になっているが、リバースウィーブはどうなのだろうか。

「プロでも見分けがつきにくい贋作Tシャツがあるのに対して、リバースウィーブのニセモノはあまり聞かないですね。

新品とヴィンテージスウェットの表情や質感の違いは一目瞭然。すぐ見分けがつきますし、仮に近しい風合いまで加工しようとすると、それにかかる手間と販売価格がつり合わない。
だからニセモノが流通していないのかもしれません。

とまあ、ここまでさんざん語らせてもらいましたが、この業界に長くいる自分にも理由がわからない現象はまだまだたくさんあります。

直近だと、スヌーピープリントのリバースウィーブがどんどん値上がりしているのに、その理由はまったく見当がつかない。

本当に奥深く、知れば知るほど世界は広がります。臆せず沼にハマってみてください!」。
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