祝「山の日」。この夏休み、登山に出掛ける人も多いことだろう。
昨今のアウトドアブームやコロナ禍などが相まって、登山人気も高まっているようだ。と同時に、
増加し続けているのが遭難などの山岳事故。原因はさまざまだが、圧倒的に多いのは
登山に関する知識不足である。そこで今回は初心者が山へ向かう前に知っておくべき5つの心得について、日本山岳会の総務委員会委員長・永田弘太郎さんに聞いた。山を安全・安心に楽しむためにも、これだけは絶対に覚えておこう!
其の壱「登山計画を立てるべし」
「山では何が起きても不思議ではありません。だからこそ、前もって計画を立てておくことが非常に重要です。どのルートを通って、どこに下りてくるというような経路をあらかじめ決めてから出掛けましょう。登山道の高低や距離、天候などで登りやすさは変わるので、
初心者ほど時間に余裕を持った行程を計画立てることが重要です。最終的な下山や山小屋に入る時間は、夏でも15時くらいまでに設定してください」。また、子供との登山にはより注意深く臨んだほうがいいようだ。「登山経験が少ない
子供の場合、疲れて歩けなくなることも多々あります。最悪の場合、おぶって下りることも考えないといけません。
その前提で計画を立てるようにしましょう」。
計画を立てる際は、どのような情報をもとにすればいいのだろうか。「ネットの
個人ブログなどの情報は、個人の主観やその時だけの情報であることが多いため、信頼度にばらつきがあります。山岳雑誌などでより確かな情報を調べるか、ネット記事を見る場合はなるべく
複数の情報源を参考にするようにしましょう」。
其の弐「アプリを活用すべし」
「最近はスマホで使える登山アプリも出ているので、積極的に活用することをオススメします。
登山計画の作成はもちろん、家族や自治体と情報共有できるアプリもありますし、GPS機能も使えるので、電波がないところでも位置情報が把握できるというメリットもあります」。永田さんオススメのアプリがこちら。
・「YAMAP」国土地理院の地図データに基づき、国内の多数の山岳マップを収録。詳細な登山計画の作成や家族・友人との共有も簡単におこなえる。また、スマホのGPS機能と連動し、登山中の位置情報も逐一確認できるため、安全な登山のお供になる。・「コンパス」登山計画を家族や友人と共有できるだけでなく、全国の都道府県警察や自治体と連携しているため、ネット上で登山計画の届け出まで可能。下山時間が届け出よりも遅れた際には家族や自治体に通知がいき、不測の事態にも迅速に対応できる。
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其の参「荷物は軽く、必需品は忘れるべからず」
「場所によって必要な荷物は変わりますが、そんな中でも忘れずに持っていくべきものがいくつかあります。ただし、荷物が重いとそれだけで体力を奪われます。必ず下調べをして、目的地によって必要なだけの荷物を準備しましょう」。
① モバイルバッテリースマホでアプリやGPSを長時間使用することになるため、バッテリーの消耗は早い。外付けバッテリーを余分に持っていくと安心!② 雨具山の天気は変わりやすい。必ずひとつは携帯しよう!③ 防寒具1500mまでの夏場の低山でも、夜はかなり冷え込むことがある。登山中に動けなくなってしまった場合にも。不測の事態に備えよう!④ 食糧登山中は休憩などの短い時間などで少しずつ食べながら栄養補給することも多い。短時間で食べれるような小分けの食糧を「行動食」として携帯することがオススメだ。⑤ 飲み物飲み物は絶対に必要! 登山中の脱水量の計算式は……脱水量(ml)=体重(kg)×行動時間(h)×5体重60kgの人が5時間歩き続ける場合は、1500mlの水分が失われる計算になる。水分補給量は脱水量の70~80%が目安となので1200ml程度の水分は最低でも持参すべし。夏場はさらに1.2~1.3倍の量を用意しよう。
其の四「低い山=安全ではない!」
「
実は、低山の方が事故や遭難が多いんです。最大の理由は、低い山は登山道以外の道が多く、間違って作業道などに入ってしまうから。あらかじめ、地図で『尾根道を歩く』とか『谷筋を歩く』など把握しておくと、迷ったときに気付きやすくなります。また、山には『みんなが迷いやすい道』というのがあります。
多くの人が迷った結果、地面が踏み均されて、それっぽい道が出来上がってしまうんです。こうなると迷ったことにも気付きにくい。やはり事前に登山コースをしっかり確認しておくことが重要です」。危険区域や侵入禁止地域への入り口には、障害物や木枝などのサインが設けられていることもあるので、見落とさないよう注意しながら歩こう。
「道に迷った場合は、
絶対に闇雲には進まずもとの道まで戻ることを徹底しましょう。また、道に迷って山から滑落したり、ショートカットした挙げ句、転落するような事故も少なくありません。もし、もとの道にも戻れない状態に陥ってしまったら、
上に登ること。上には道があることが多いし、携帯電話の電波も届きやすいんです。人にも会えないようだったら、110番か119番に通報しましょう」。警察庁発表による令和3年度の山岳事故統計では、
事故原因の1位が「道迷い」(41.5%)で、2位が「滑落」(16.1%)となっている。自分の身にも起きうる脅威として十分に注意しよう。--{}--
其の五「山に潜む危険について知るべし」
「山には美しい自然がたくさんありますが、危険なことも多々あります。例えば、熊や蜂。
特にスズメバチは、野生動物が原因の死亡事故で最も多く(年間20人ぐらい)、夏から秋にかけての低山には多く発生し、危険です」。もし遭遇した場合は、決して追い払おうとせず、静かに、速やかに彼らの縄張りから立ち去るのが正解。また、アブや蚊、毛虫、蛭などもいるので、夏でもロンTや長袖シャツ(できれば汗が乾きやすい化繊)を着ておくに越したことはない。
番外編「山に行く前に加入しておくべき保険」
「登山では、
遭難や怪我に備えて山岳保険に入るのは必須。アイゼンやロープを使わない登山であれば、より少額で加入できる『ハイキング保険』や『スポーツ・レジャー保険』で十分です。ただし、道迷いに備えて、できるだけ低山でも遭難捜索費用が補償される保険に入っておきましょう」。◇計画と準備さえ怠らなければ、登山はとても楽しくて素晴らしいアクティビティである。永田さんのアドバイスをしっかり守りつつ、楽しい山登りを満喫しよう。「山の日」に、乾杯~!