「知らないと怖いカラダのサイン」とは……

塗り薬や抗アレルギー薬を服用しても止まらない痒みなら、そこには別の問題が隠れているかもしれない。

「沈黙の臓器と呼ばれる肝臓がわずかに出すサイン、そのひとつが全身に生じる痒みです。
痒みを正しく知っていれば、手遅れになる前に肝臓病を見つけられるかもしれません」――そう話す肝臓専門医の菊池真大先生に、肝臓と痒みの関係を教えてもらった。

話を聞いたのはこの人!
心当たりはないけど「全身が痒い」は肝臓のSOSかも。侮ると怖い痒みの実態

菊池真大●駒沢・風の診療所 副院長、東海大学医学部 客員准教授。脂肪肝を専門分野とし、日本肝臓学会専門医・指導医・評議員など多くの資格を持ち、診療と研究に従事。メディア出演歴も多数。


肝臓病の3人に1人は、痒みが発現している

心当たりはないけど「全身が痒い」は肝臓のSOSかも。侮ると怖い痒みの実態

©️iStock/Rattankun Thongbun


――痒みは、肌トラブルが原因で起こるものだとばかり思っていました。

花粉症やアレルギーをお持ちの方、空気が乾燥する冬に体が痒くなる方は多くいらっしゃいます。けれど皮膚に異常がなくとも、全身が痒くなるといった症状を発する病気があるんです。

――全身の痒みを引き起こす病気には、どのようなものがありますか?

腎機能が重度に低下した慢性腎不全、強皮症や皮膚筋炎といった膠原病などが挙げられます。そして、オーシャンズ世代に最も気にかけてほしいのが肝臓病です。

――肝臓が悪くなると、なぜ痒くなるんでしょうか?

肝臓病が痒みを引き起こす正確な機序は、いまだ解明されていません。ただ、肝臓の働きが悪くなると、肝臓で作られる胆汁の成分である胆汁酸が血液内で増えてしまいます。

血液に乗って全身に運ばれる胆汁酸が、痒みを引き起こしているのではないかと言われています。

――痒みが出る頻度はどれくらいですか?

肝臓病患者さん全体のうち、3人に1人は痒みが出る傾向にあります。
特に、原因不明の難病といわれる「原発性胆汁性胆管炎」の方では7割の患者さんに、また近年増えている「非アルコール性脂肪性肝疾患」の方では2人に1人と、いずれも高頻度に痒みが発現しています。

 

夜にむずむずする全身の痒みに要注意

心当たりはないけど「全身が痒い」は肝臓のSOSかも。侮ると怖い痒みの実態



――非アルコール性脂肪性肝疾患は、現代病とも言われていますよね。痒みの頻度が上がるのはなぜですか?

非アルコール性脂肪性肝疾患の場合、糖尿病を合併している場合も多くあります。糖尿病で起こる高血糖の状態は、皮膚の乾燥を引き起こします。

皮膚が乾燥すると痒みやひっかき傷なども起こりやすくなるので、肝臓病と皮膚疾患の両側面から、痒みに悩まされてしまうんです。

――肝臓病が原因となる痒みに、なにか特徴はありますか?

本来、肝臓病の痒みでは目に見える皮膚の異変は起こりません。それなのに、全身がむずむずするような痒みが夜間に出る方は、注意が必要です。

肝臓病の痒みのせいで寝つきが悪くなったり、夜中に何度も目が覚めてしまい睡眠不足になっているような方は、一度、疑ってみるべきでしょう。

――寝ている間に、かきむしってしまいそうですね。

そのとおりで、肝臓病の痒みをきっかけに皮膚を傷つけてしまうせいで痒みの原因の区別がつかず、皮膚疾患だとして見逃されてしまうケースも多くあります。

肝臓病の痒みなら塗り薬や抗アレルギー薬では収まらないので、薬が効かない場合は肝臓専門医を受診して、正しい診断と治療を受けてください
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体のだるさ、頻繫に脚がつるのも肝臓病のサイン

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――たかが痒みと侮らないことが大切ですね。

痒みは肝機能低下を示す数値よりも先に表れることがあるため、本人が気付いて、きちんと対処することがとても重要なんです。

これまでに肝臓病という診断を受けたことがなくても、痒みをきっかけに肝臓専門医にかかれば、いち早く異変を見つけられるかもしれません。


――痒みが強いほど、肝臓の機能は低下しているということでしょうか?

肝臓病の末期といわれる肝硬変に進行したような方では、痒みはより強くなると言われています。痒みを含めた肝臓の三大症状とされるような“脚がつる”、“体がだるい”といったような症状がすでに起こっている場合は、早急な治療が必要です。

――では逆に肝臓の機能が良くなれば、痒みも収まってきますか?

残念ながら、そうとは言い切れません。肝臓の痒みは一度発現すると治りにくく、肝臓の治療と痒みの治療は分けて行う必要があるのが現状です。


脂肪肝の予防にブロッコリースプラウトがオススメ

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――非アルコール性脂肪性肝疾患をはじめとした肝臓病予防のために、今日からでもはじめられることはありますか?


ストレッチを取り入れた、適度な運動習慣が大切です。また食事では、果糖とショ糖の摂りすぎは禁物です。これらは脂肪に変わりやすく、内臓脂肪として蓄積されます。果糖はバナナや柿、ショ糖はお菓子類に多く含まれているので、食べ過ぎには注意してください。

――逆に、食べた方がいいものもありますか?

緑の野菜、その中でもブロッコリーの新芽である、ブロッコリースプラウトがおすすめです。ブロッコリースプラウトには抗酸化作用をもつ「スルフォラファン」という成分がたっぷり含まれていて、医学的に脂肪肝の改善効果も認められています。

 ――食べるだけで脂肪肝が改善するとは、驚きです!

最近の研究では、痒みの軽減効果も認められています。そのほか、発がん予防をはじめとするさまざまな病気の予防と改善に効果がある可能性を秘めた食品として、とても注目されています。
日頃の食事に、ぜひ取り入れてみてください。



空気が乾燥するこれからは、熱いお湯での長風呂を避け、入浴後は水分が蒸発する前に保湿剤を塗ると肌の乾燥対策になるらしい。肝臓による痒みと区別するためにも、肌を整えることも心得ておこう。
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