看板娘という名の愉悦 Vol.59
好きな酒を置いている。食事がことごとく美味しい。

雰囲気が良くて落ち着く。行きつけの飲み屋を決める理由はさまざま。しかし、なかには店で働く「看板娘」目当てに通い詰めるパターンもある。もともと、当連載は酒を通して人を探求するドキュメンタリー。店主のセンスも色濃く反映される「看板娘」は、探求対象としてピッタリかもしれない。

知人が看板娘を紹介してくれた。ありがたい話である。しかも、店主いわく「ウチのスーパーエース」とのこと。期待に胸を膨らませつつ、向かったのは南浦和。

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南浦和のもつ焼き屋で、都会の生活に染まれない看板娘に涙した
公園の桜が見事に満開だった。

5分ほど歩いて「もつ焼き酒場 ひと声」に到着。

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なかなかお目にかかれない「生ホッピー」を取り扱っている。

店内を覗くと看板娘が働いていた。

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カウンターを拭くスーパーエース。

注文はもちろん「生ホッピー」。

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専用サーバーから丁寧に注いでくれる。

ほどなくして満面の笑みとともに「生ホッピー」が運ばれてきた。

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「お待たせしました〜」

今回の看板娘は涼花さん(20歳)涼しい花と書いて「すずか」と読む。

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フードメニューも拝見。

涼花さんが「ぜひ、食べてみてください」と勧める「レバー」を2本頼んだ。

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大粒なのに1本180円と良心的な価格。

生ホッピーが美味しいことはわかっている。しかし、毎日仕入れるというレバーが絶品だった。鮮度が抜群のためか、噛んだ時に歯を押し返してくる弾力がすごい。

というわけで、涼花さんは群馬県の伊勢崎市出身。女子大への進学を機にこちらに引っ越してきた。

「伊勢崎なんて『スマーク』っていうショッピングモールぐらいしか行く場所がないから、おしゃれなカフェとかで都会の女子大生ぶりたいです」

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高校時代に友達としょっちゅう行っていた「スマーク」。

上の写真は「ごあんない」を「ごめんなさい」に空目して喜んでいるシーンだそうだ。ちなみに、高校は甲子園の常連校である桐生第一。2016年の春の選抜大会では甲子園で応援した。

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残念ながら初戦で敗退。

実家では、ひまわりちゃんという7歳のゴールデンレトリバーを飼っている。

「中2の誕生日に買ってもらったんです。『スマーク』のペットショップで(笑)」

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あまり構ってくれないからスネているときの表情だという。

黙々と串を焼いている店主・本多さんは、一昨年の夏から店の暖簾を引き継いだ。高校時代は野球部員。4番でピッチャー、キャプテンだったそうだ。

「店にも草野球チームがあって、涼花にマネージャーやってよと頼んでいるんですが、『朝早いのがムリ』と断られています(笑)」

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看板娘を全力で笑わそうとする本多さん。

「忙しい時は、彼女がホールにいれば30人のお客さんを一人で回せるくらいテキパキ動けるし、新人の子の面倒見がいい。涼花と働きたいという理由で長続きするアルバイトの子も多いですね」

壁の目立つ場所に掲げられた格言の額が気になる。

「あ、あれは僕が店を引き継いだタイミングで常連さんがプレゼントしてくれたものです。初心を忘れないようにしようと思って」

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あとで調べたら幕末・明治の槍術家、高橋泥舟の言だった。

さらに、昨年真打ちに昇進した落語家、古今亭駒治さん主催の落語会も定期的に行なっているそうだ。

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駒治さんの色紙には「毎日が試運転」と記されている。

さて、生ホッピーのお代わりとともに何か料理もいただこう。涼花さんに聞くと、「全部おすすめなんですが、じゃあ『もつ煮込み』と『本マグロの切り落とし』にしましょう」。

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見ただけで美味しいことがわかる。

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「もつ煮込み」450円、「本マグロの切り落とし」800円。

本多さんによれば、「『もつ煮込み』の煮汁は継ぎ足し継ぎ足し使用しています。『本マグロの切り落とし』もいい部位だけを選んで出しているんですよ」。

なるほど、どちらも素晴らしい。勢いに乗って限定の「豚タンすじ串」も注文した。

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1本160円。

しかし、店の様子を見ていると店主を始め、スタッフ同士の仲が非常に良い。涼花さんが言う。

「スタッフ同士もそうですけど、お客さんとの壁もないですね。普通にみんなでお家に遊びに行ったりしますから(笑)」

そうこうするうちに「もぐもぐタイム」が始まった。

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もみじ饅頭を「アーン」する人と照れながら口を開ける人。

涼花さんは現在大学3年生。この4月からキャンパスの場所が埼玉県内から都内に変わった。「都会の女子大生」ぶるには絶好のチャンスだ。

「日々、都会を学んでいます。今は満員電車での収まり方を研究中です(笑)。最初は電車の乗り方もよくわからなかったから、ずいぶん進歩したはず。

新宿や渋谷はいまだに1人で行けませんけど(笑)」

ちょっと泣けてきました。

南浦和のもつ焼き屋で、都会の生活に染まれない看板娘に涙した
かっこいいが「鉄の部分が軟らかすぎて使えない」栓抜き。

さて、店主が太鼓判を押す「スーパーエース」は、意外にもアーバンな生活になかなか慣れないカントリーガールだった。しかし、このまま都会に染まらないで生きてほしいという思いもある。

では、最後に読者へのメッセージをお願いしますよ。

南浦和のもつ焼き屋で、都会の生活に染まれない看板娘に涙した
「スーパーエース」としての自覚を胸にがんばってください。

【取材協力】
もつ焼き酒場 ひと声
住所:埼玉県さいたま市南区南浦和3-3-17
電話番号:048-887-1777
www.hitokoe.jp

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石原たきび=取材・文

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