看板娘という名の愉悦 Vol.59
好きな酒を置いている。食事がことごとく美味しい。
知人が看板娘を紹介してくれた。ありがたい話である。しかも、店主いわく「ウチのスーパーエース」とのこと。期待に胸を膨らませつつ、向かったのは南浦和。

5分ほど歩いて「もつ焼き酒場 ひと声」に到着。

店内を覗くと看板娘が働いていた。

注文はもちろん「生ホッピー」。

ほどなくして満面の笑みとともに「生ホッピー」が運ばれてきた。

今回の看板娘は涼花さん(20歳)涼しい花と書いて「すずか」と読む。

涼花さんが「ぜひ、食べてみてください」と勧める「レバー」を2本頼んだ。

生ホッピーが美味しいことはわかっている。しかし、毎日仕入れるというレバーが絶品だった。鮮度が抜群のためか、噛んだ時に歯を押し返してくる弾力がすごい。
というわけで、涼花さんは群馬県の伊勢崎市出身。女子大への進学を機にこちらに引っ越してきた。
「伊勢崎なんて『スマーク』っていうショッピングモールぐらいしか行く場所がないから、おしゃれなカフェとかで都会の女子大生ぶりたいです」

上の写真は「ごあんない」を「ごめんなさい」に空目して喜んでいるシーンだそうだ。ちなみに、高校は甲子園の常連校である桐生第一。2016年の春の選抜大会では甲子園で応援した。

実家では、ひまわりちゃんという7歳のゴールデンレトリバーを飼っている。
「中2の誕生日に買ってもらったんです。『スマーク』のペットショップで(笑)」

黙々と串を焼いている店主・本多さんは、一昨年の夏から店の暖簾を引き継いだ。高校時代は野球部員。4番でピッチャー、キャプテンだったそうだ。
「店にも草野球チームがあって、涼花にマネージャーやってよと頼んでいるんですが、『朝早いのがムリ』と断られています(笑)」

「忙しい時は、彼女がホールにいれば30人のお客さんを一人で回せるくらいテキパキ動けるし、新人の子の面倒見がいい。涼花と働きたいという理由で長続きするアルバイトの子も多いですね」
壁の目立つ場所に掲げられた格言の額が気になる。
「あ、あれは僕が店を引き継いだタイミングで常連さんがプレゼントしてくれたものです。初心を忘れないようにしようと思って」

さらに、昨年真打ちに昇進した落語家、古今亭駒治さん主催の落語会も定期的に行なっているそうだ。

さて、生ホッピーのお代わりとともに何か料理もいただこう。涼花さんに聞くと、「全部おすすめなんですが、じゃあ『もつ煮込み』と『本マグロの切り落とし』にしましょう」。


本多さんによれば、「『もつ煮込み』の煮汁は継ぎ足し継ぎ足し使用しています。『本マグロの切り落とし』もいい部位だけを選んで出しているんですよ」。
なるほど、どちらも素晴らしい。勢いに乗って限定の「豚タンすじ串」も注文した。

しかし、店の様子を見ていると店主を始め、スタッフ同士の仲が非常に良い。涼花さんが言う。
「スタッフ同士もそうですけど、お客さんとの壁もないですね。普通にみんなでお家に遊びに行ったりしますから(笑)」
そうこうするうちに「もぐもぐタイム」が始まった。

涼花さんは現在大学3年生。この4月からキャンパスの場所が埼玉県内から都内に変わった。「都会の女子大生」ぶるには絶好のチャンスだ。
「日々、都会を学んでいます。今は満員電車での収まり方を研究中です(笑)。最初は電車の乗り方もよくわからなかったから、ずいぶん進歩したはず。
ちょっと泣けてきました。

さて、店主が太鼓判を押す「スーパーエース」は、意外にもアーバンな生活になかなか慣れないカントリーガールだった。しかし、このまま都会に染まらないで生きてほしいという思いもある。
では、最後に読者へのメッセージをお願いしますよ。

【取材協力】
もつ焼き酒場 ひと声
住所:埼玉県さいたま市南区南浦和3-3-17
電話番号:048-887-1777
www.hitokoe.jp
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石原たきび=取材・文