スニーカーのデザインといえば、インハウスがセオリー。そんな業界にあって、インディペンデントでこのプロダクトに挑み、世界も評価する男がいる。
RFWは国内のみならず、ニューヨークのBLUE IN GREEN(ブルー イン グリーン)やパリのJINJI(ジンジ)といった、世界の高感度なセレクトショップでも扱われる。生産拠点である台湾にいたっては5軒もの店がRFWを並べている。
世界が一目置く男を、グローバルブランドも放っておかなかった。アウトドアサンダルの代名詞的ブランド、KEEN(キーン)ではすでに10年ほど外部デザイナーとしての実績があり、2018年にはパートナー・オブ・ザ・イヤーを獲得した。この春はあのSPINGLE MOVE(スピングル・ムーヴ)を生んだニチマンが新たに立ち上げたONE MILE NATURE(ワンマイルネイチャー)を手掛けたばかり。さらに2020年春夏コレクションからはイギリスの老舗、Admiral Footwear(アドミラル フットウェア)のディレクターに就任することが決まっている。
業界からも引っ張りだこのデザイナー、鹿子木隆とは、どのような男なのか。
NEXT PAGE /コピーが溢れた、鮮烈なデビュー作

鹿子木は無類のレコードコレクターだった。大学卒業を間近に控えた鹿子木は悶々とする。このままサラリーマンにはなりたくない。なんとか憧れのイギリスで暮らす方法はないものか──そうして辿り着いたのがロンドンにある靴の学校だった。
とりたてて靴に興味を持っていたわけではなかった鹿子木は渡英そうそう、浅はかな思いつきを悔やむことになる。鹿子木が選んだ学校はコードウェイナーズ・カレッジといって、ジミー チュウや’90年代に一斉を風靡したパトリック・コックスが学んだ名門中の名門。同級生の半分以上は経験者だった。1年は頑張ったが、緊張の糸はそこで切れた。それからは「Tシャツを数えるバイトとかレコードショップ巡りをして過ごしました」。
そんなときに出会ったのが木村大太。カリスマと呼ばれたロンドンのシューデザイナー、ジョン・ムーアの遺志を継ぎ、チャールズ・ディケンズの小説の舞台にもなったジ・オールド・キュリオシティ・ショップで靴を作っている男である。そのアトリエは服や靴、音楽の道で生計を立てたい若者の溜まり場だった。
学校はドロップアウトしたが、靴づくりには面白さを感じていた。レコードショップに飽きると、鹿子木は中古で手に入れたポストミシンでアッパーを縫ったりして過ごした。「よかったら紹介しようか」。
その靴はロンドンの地下鉄で思いつき、その場でスケッチしたデザインだった。
NEXT PAGE /リズムのある生活に寄り添うスニーカー
RFWはもともとはRHYTHM(リズム)といい、ほどなくRHYTHM FOOTWEAR(リズム フットウェア)に改名、長らくその名で展開していた。アルファベット3文字に縮めたのは、国を越えて視覚的に認知しやすいだろうという理由だ。
すでに海外でも注目されていることは冒頭でも紹介したとおりだが、さらに加速させるべく2018年には主だった国で商標登録も済ませた。

「リズムというワードをブランド名に冠したのは、生活にはリズムが必要だと考えたからです。なんの変哲もない毎日に潤いを与える、心地よく響くリズム。そこにコミットしようと思えば、日々使うものがいい。ドレスシューズではなくて、スニーカーを選んだのは必然でした」。
鹿子木がスニーカーをデザインする心構えとして、創業以来口にしてきたのが「クラシックに連なるデザインを創りたい」というものだ。それはファーストコレクションからも推し量れたが、構造から見直して、まったく新しいデザインを創造する、というのが鹿子木の真骨頂だ。
クラシックに連なるデザインについて
「甲の立ち上がりは比較的フラットですが、そこから先はぐっと傾斜がきつくなります。レースステイを2つのパターンで構成したのは、それぞれの角度に最適なパターンを引くことでフィット感を高めようという狙いです。シューレースも部位ごとに締められますから、甲が高い人も低い人も合わせることができる」。
まさに構造までメスを入れたからこそ可能となったパターンは、デザインとしてもすこぶる非凡。具材を包み込むパンになぞらえたその名も「SANDWICH(サンドイッチ)」はRFWのベストセラーであり、いまもロングセラーを更新している。

これまた斬新なミドルカットという丈を生んだ「BAGEL(ベーグル」」や「SWIFT(スイフト)」も見逃せない。簡単なことのようにみえて、これまでなかったのだから、鹿子木の目のつけどころはやっぱり鋭い。


クッション性を追求してたどり着いたハニカム構造のラバーソールもRFWを象徴するものだが、鹿子木はこれをシアンブルーに染めた。ブルーは日本人に合う色だが、あえてネイビーではなく、シアンブルーを選んだところに鹿子木らしさが表れている。
「水色には柔らかくて肩肘張らない印象がある。こうあるべき、ばかりだと疲れてしまうので、すこし崩したい、という気持ちもありました」。

会えば穏やかな鹿子木は、なかなか骨太な芯を隠しもっている。
「一部ですが、革靴も作っているのでスニーカーブランドと言われると違和感がある。そもそもスニーカーはテクノロジーの世界。僕が作るスニーカーは昔ながらのバルカナイズ(製法)ですからね。履いてちょっと気分が上がるフットウェア。そういう一足を形にしたいと思っています。履き下ろしたその日に仲間から『いいじゃない、それ』って言われたらうれしいです」。
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RPM リズム プライマリー マーケット 03-6804-7283
竹川 圭=取材・文