デビューシーズンでパリのcolette(コレット)がオーダーをつけ、たちまち世界的ブランドとなった日本のスニーカーブランド「Flower MOUNTAIN(フラワーマウンテン)」。
ブランド誕生までの道のりを聞いた前回に続き、後半ではその成長を追う。
スニーカーは工場以外からも生まれていい
「フラワーマウンテン」はヤンが足しげく通う山の名から採った。といっても、それは正式な名称ではない。親しみを込めて名づけたニックネームだ。
「『フラワーマウンテン』はジャンルでいえばアウトドアシューズ。自然界をモチーフにしたデザインが見どころです。ハッピーな響きだし、これでいいじゃないかと即決でした」。
幾重にも折り重なる柔らかなラインは山の峰を、ゴツゴツとした突起は岩肌を思わせる。そこにリアリティをもたらすのが、随所に施されたステッチやパンチングにみられる手仕事だ。

「スニーカーの多くはオートメーション化された工場から生まれるもの。それを否定する気はさらさらありませんが、そうじゃないスニーカーがあっても面白いのではと、かねて思っていました」。
最近のミニマルなデザインに慣れた目には満艦飾な佇まいだが、不思議とやさしい。自然の力といってしまえばそれまでだが、フラワーマウンテンのすごみはそのすべてを見事に調和させるデザインワークにある。
「昔から密なデザインが好きでした。
アッパーのデザインはそれぞれのアイデアを持ち寄って詰めていくそうだが、ソールに関してはほぼ太田が手掛けている。取引先からのオファを受けるうちにどんどんハマっていったという。今シーズンは硬度の異なる2層構造のソールが登場。定評のあった履き心地をさらに高めている。

「パフォーマンスを左右するパーツであるのみならず、デザインとして見たときも無限大の可能性がある。最先端の技術、素材という面では劣るかもしれませんが、デザインは名の知れたソールメーカーにも負けていないと思う。僕らのデザインに興味を持っているグローバルブランドもあるんですよ」。
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本来、靴の世界において手仕事といえばドレスシューズにいくのが定石だ。大量生産の商材にあえて手仕事を、というのはたしかに攻め方としてはありだが、いったい何がその道を選ばせたのか。

https://www.flower-mountain.co.jp
「もしかしたら音楽を通して慣れ親しんだセッションのノリがあったのかもしれません。たまたま顔を合わせたミュージシャンが即興で、その場の雰囲気で音をつくる。そこには思いもよらないような化学反応があらわれます。
そこには思いもよらないような化学反応が生まれます。これを『フラワーマウンテン』に置き換えれば、プレーヤーはスニーカーというプロダクト、自然界というモチーフ、そして手仕事ということになる。考えてみれば、ヤンとタッグを組んだのはまさにセッションでしたね」。

そもそもアイテムとしてみたときもスニーカーには魅力を感じる。世界を舞台に戦うならば、それはドレスシューズではなくてスニーカーだろうと思った──と語る太田の読みが正しかったことは、取引先の顔ぶれをみればわかる。
ストリートシーンで別格の存在といわれるKITH NY(キースNY)はじめ、イタリアのANTONIOLI(アントニオーリ)、RINASCENTE(リナシェンテ)、SLAM JAM(スラムジャム)、ドイツのTHOMAS I PUNKT(トーマス アイ パンクト)、ロシアのiLAKMUS(イルクマス)、シンガポールのROBINSON(ロビンソン)……といった具合に名だたるショップがずらりと名を連ねる。


日本ではイセタンメンズが数シーズン前からプッシュしており、ポップアップストアは3シーズン目を迎えた。
この取材を終えた太田は慌ただしくヨーロッパへ飛んだ。マルケのディストリビューター、パリのショールームとの打ち合わせをこなしつつ、ピッティ・ウオモへ出展するためだ。
「そこはやっぱり、せっかくの新作ですから。みんなにいち早く見てもらいたいんです。ものづくりのよろこびは、お披露目の瞬間にあります」。
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ブリースデザイン
https://www.flower-mountain.co.jp
竹川 圭=取材・文