アメ車というと、マッシブなルックスに大排気量のエンジンを積んだ、男くさくて、迫力満点の車というイメージが強い。
しかし、そのマッチョなアメ車の人気が今、本国アメリカ、そして日本でも、かつてないほど高まっているのをご存知だろうか。
その大きな理由のひとつに映画がある。超人気ヒットシリーズに主役の愛車として登場することが増えたことで、アメ車に憧れる男たちもまた増加しているのである。
映画によってその人気に火が着いたアメ車の代表格である「カマロ」「チャージャー」そして「ナイト2000」を紹介しよう。
『トランスフォーマー』のシボレー・カマロ
『トランスフォーマー』は、主人公の少年サムが購入した中古のカマロが、じつは地球に飛来したオートボット(金属生命体のロボット戦士)だったという設定だ。まさにカマロが主役の映画で、サムはカマロへの憧れを劇中でこう語っている。
「50年経って……コレに乗らなかったことを後悔したくないだろ?」

この言葉が多くの観客の心をつかみ、本国アメリカでは第一作公開後から「カマロ」の人気が急上昇。2009年には、北米仕様のカマロに「トランスフォーマー スペシャルエディション」も設定された。映画に登場するサムの愛車(=オートボット)と同様に、鮮やかなイエローのボディにブラックのストライプがあしらわれている。

日本でもカマロは人気だ。なかでも比較的若い層の支持が高い。シボレーの日本ディーラーが「カマロ」の試乗キャンペーンを行ったところ、驚いたことに『トランスフォーマー』の影響で20~30代のユーザーが殺到したのだという。

カマロは、フォードのマスタングと並ぶアメリカンスポーツクーペの象徴的な存在だが、趣味性が高く、ここまでポピュラーになる車ではない。
『ワイルド・スピード』のダッジ・チャージャー
もうひとつ、映画によって注目を高めているアメ車にダッジ「チャージャー」がある。ただし、こちらは現行型の「チャージャー」ではなく、1960~70年代の古いモデルだ。

2001年に第一作が公開されたメガヒット映画『ワイルド・スピード』シリーズには、主人公ドムの愛車として、1960年代後半から1970年代初めに生産された大排気量でハイパフォーマンスなエンジンを積んだアメ車=マッスルカーが数多く登場する。
とりわけ、2015年公開の第7作『ワイルドスピード SKY MISSION』のエンディングなど、印象的なシーンに出てくるのが、2ドアノッチバックの高性能モデル、1968年型の「チャージャーR/T」だ。そのため、近年はアメリカでも日本でも古い「チャージャー」が大人気になり、入手困難になっているほどだという。

カマロと違い、チャージャーに憧れるのはより年齢層が上の人たち。とにかく『ワイスピ』が大好きで、映画を見ているうちに自分もドムの愛車に乗りたくなってしまうのだ。チャージャー以外の古いマッスルカーも総じて人気が高まっている。
『ナイトライダー』のナイト2000
映画ではないが、1980年代に放送されたアメリカのテレビドラマシリーズ『ナイトライダー』で主人公が操る「ナイト2000」は、今でも人気が高い車だ。

「ドリームカー・ナイト2000とともに、法の目を逃れる犯罪者たちを追う若きヒーロー、マイケル・ナイト。人は彼をナイトライダーと呼ぶ」。テレビの前でワクワクしながら、この冒頭のナレーションを聞いた40代も多いのではないだろうか。
ベースは、GM(ゼネラルモーターズ)がポンティアックブランドで販売していた「ファイヤバード」の最上級グレード、「ファイヤバード トランザム」の第3世代。ヒーローカーらしからぬブラックで塗装されたボディは特殊セラミックで、銃弾を跳ね返す強度をもっていた。にもかかわらず劇中では破壊されたが、そのたびに進化して甦るのだ。

特に多くの少年たちの心をわしずかみしたのが、スーパーコンピュータの「K.I.T.T」を搭載した未来感あふれるコクピットだろう。車体前部の赤いセンサーライトもかっこいい。これは類似パーツが販売され、装着する車を街中でよく見かけたほどだった。
「ナイト2000」はテレビ用に製作されたカスタムカーなので、当然ながら正規ディーラーを訪れても手に入れることができなかった。そこで多くのレプリカモデルが登場し、現在もデロリアン・モーター・カンパニーが完全受注生産で販売している。
もちろんカマロもチャージャーも手に入れることは可能。カマロは映画に登場するモデルを比較的お手頃な価格で購入でき、チャージャーも値は張るが市場に出回っている。
とはいえ、映画で見た憧れの車に乗るというのは、お金を超えたロマンの領域。いつかあの車に乗ってみたい。
真矢謙三=文 曽我部健(清談社)=編集 General Motors、FCA US LLC、DeLorean Motor Company=写真提供