「“転機”なんて後付けの産物」オンデーズ社長・田中修治(41...の画像はこちら >>

「自分の人生がイマイチなのは“転機”がこないから。そう考えている人がいるんだったら転機なんて一生来ないよ、と言いたい」。

陽射しがじわじわと肌を刺しはじめた初夏のある日。天王洲アイル駅から直結のオフィスを訪れると、海外のホテルのような現実感のない内装に面食らってしまった。

「OWNDAYS(オンデーズ)」社長・田中修治さん(41歳)のインタビューは開始早々、冒頭の強烈なひと言でスタートし、再度面食らうことになってしまう。

アロマの香りが立ちこめる洒脱なオフィスで、いま最も注目を集めるメガネチェーンの社長は、スターバックスのドリンク片手にふらりと登場した。

「“転機”なんて後付けの産物」オンデーズ社長・田中修治(41)の「破天荒」な生き方【前編】

『僕は、絶対に倒産すると言われたオンデーズの社長になった』

2018年9月の発売以来、そんなキャッチコピーとともにじわじわと話題を集め、5万部を突破した『破天荒フェニックス オンデーズ再生物語』(幻冬舎)は、田中社長自らが負債14億円を抱えていたOWNDAYSを、個人で買収し、再生するまでのストーリーを小説化したものだ。

田中社長の破天荒な手腕によって、一時は「絶対に倒産する」と言われた同社は見事に復活。現在12カ国310舗以上を展開し(2019年7月末)、19年2月の段階で売上高は180億円と一大メガネチェーンに成長した。


倒産確実と言われた会社を再生するまで

2008年、OWNDAYSの買収に乗り出す以前は、都内で小さなデザイン企画会社の経営をしていた田中さん。若干30歳の若手社長が、ひょんなことからメガネの低価格チェーン店であるOWNDAYSの創業者を紹介されることから、「再生物語」はスタートする。

負債14億円を抱え、破産寸前の状態に陥っていたOWNDAYSは「民事再生」か「売却撤退」か迫られている状況。しかし、そんな会社に可能性を感じて田中さんは個人買収を決める。

『それに俺自身も、30歳を迎えるにあたって、経営者として、この辺でひと勝負かけたいという気持ちも強くあるんだよね。でも俺みたいに、会社も小さくて資金も信用もない若い経営者が、大きなチャンスを掴むためには皆が嫌がるような案件、ちょうどこのオンデーズみたいな、燃え盛る火のなかに自ら進んで手を突っ込んでいくようなことでもしないと、なかなかそんなチャンスは掴めないでしょう?』
(『破天荒フェニックス』P.10より)

30代にして自ら崖っぷちのメガネ企業を買収し、メガネ屋としての知識も持たないままに会社の代表となった田中さんだが、シンプルな価格設定を武器にするOWNDAYSに「ただ安い」だけではなく、ブランド力の高い価値ある商品を提案。

「メガネ業界のZARA」を目指して、躍進し続けた。

「“転機”なんて後付けの産物」オンデーズ社長・田中修治(41)の「破天荒」な生き方【前編】

その桁違いの“破天荒っぷり”と見事な再生ストーリーの詳細は同書で追ってもらうとして、そもそも田中さんとは、どんな人物なのだろうか。

NEXT PAGE /

待っているだけでは転機は訪れない

「“転機”なんて後付けの産物」オンデーズ社長・田中修治(41)の「破天荒」な生き方【前編】

10代の頃から起業家として、さまざまな事業に挑戦していたという田中さん。どんな子供だったのか聞くと「全然、覚えてないんですよ」と一蹴されてしまった。

「だってもう30年ぐらい前のことでしょ? 本当に記憶がないんです。でも、友達は全然いなかった。中学も高校も。だから自分の学生時代を語れる人がいないんですよね……家族とも連絡とっていないし。ただ当時から事業とかにはずっと興味がありました。普通に就職することは頭になかった」。

過去を振り返る時間があるなら、現在のことを考えたいと話す田中さんは、そもそも過ぎ去った時間には興味がない。だからこそ、人生を回顧する際の「ターニングポイント」というキーワードにも、ある想いを抱いている。

「『どこが人生の転機だったか?』って取材でよく聞かれるんです。『破天荒フェニックス』のようなストーリーを書いたから尚更なのかもしれないけど。でも“転機”みたいな考えがそもそもあんまり好きじゃないんですよね」。

そういって少し困ったような笑顔を見せた。選び取る言葉は強いが、くしゃっと笑う表情には優しさが滲む。

「ターニングポイントなんて、結局、すべて後付けなんですよ。たまたま今は少しうまくいってるだけで、 OWNDAYSもまだこの先どうなるかわからない。それこそ僕は若い頃から雑貨屋買収したり、ヨーロッパ進出したり、そのほとんどで失敗してるし、億単位の損失を出したこともある。OWNDAYSだって失敗する可能性も全然あったわけで、たくさんの失敗のなかでひとつがうまくいったっていうだけ」。

『破天荒フェニックス』で描かれたOWNDAYSの見事な再生と成功。しかし、それはあくまで結果論であって、若かりし頃に挑戦した数々の事業の二の舞になっていても何も不思議ではなかった。

「(OWNDAYSが)なぜ再生できたかを体系的に話すことはできるかもしれない。

たくさんの人の協力のおかげだと思うし感謝もしています。でも、もし失敗していたとしても僕は別のなにかでうまくいくまで、しぶとく残っていたと思う。最も危険なのは、タイミングや選択に秘訣があった……と思いすぎることでしょう」。

世の中に溢れる「なぜ成功できたか」「なぜ、その仕事がうまくいったのか」というハウツーの数々。それを読んでどこかで私たちは「この人には転機やチャンスが舞い込んだから、だから、うまくいったんだ」と諦めると同時に安堵しているのではないか。そう田中さんは分析する。

「自分の努力不足ではなく、“転機”がなかったから。そう思うのはラクだし、都合がいい。でも“転機”を待っているだけの人には一生訪れないと思うんですよね、“転機”ってやつは」。

何度も深刻な資金難に陥りながらも新店舗を展開したり、海外進出したりと果敢に攻め続けたのは、すべて田中さんが“転機”に期待していなかったゆえかもしれない。しかし、その破天荒っぷりにも41歳を迎えて、少し心境の変化が生まれているという。

田中さんに芽生えた気持ちの変化とは? 後編に続く。

藤野ゆり(清談社)=取材・文 小島マサヒロ=撮影

編集部おすすめ