看板娘という名の愉悦 Vol.81
好きな酒を置いている。食事がことごとく美味しい。
浅草といえば昼から飲めるホッピー通り。しかし、朝から飲める名店があることも覚えておきたい。
浅草は演芸の街でもあり、若い芸人を育てようという気風で有名だ。例えば、ビートたけしも売れない頃は「捕鯨船」という居酒屋の大将にお世話になっていた。この店は自身が作詞作曲した「浅草キッド」という歌に登場する。
浅草六区には浅草にゆかりのある芸人の解説付きの看板がずらりと並ぶ。現在、ひとつだけ余白があるが、それはたけしの没後に彼が入る予定のスペースだ。

このすぐ近くにあるのが「水口食堂」。平日は午前10時、土日祝は午前9時にオープンする。

食堂とはいえ、お酒目当てで訪れる客も多い。

小さな男の子を連れたママが「今日の日替わり定食はハンバーグだよ」と言いながら入店していった。

店内を一望して、まず驚くのが100種類以上あるフードメニュー。

さて、何を飲もうか。

看板娘によれば、「8月から10月ぐらいの時期限定でお出ししている『へべすサワー』がおすすめですよ」。

いただきましょう。
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こちらは、裕子さん(44歳)。家電メーカーなどの勤務を経て、この食堂に嫁いできた。
「母が言うには、何事にも動じない子供だったと。私は覚えていないんですが、転校したての幼稚園の送迎バスの中で歌を披露したそうです(笑)」

生アジフライ(630円)とポテトサラダ(380円)も追加しよう。

へべすは「幻の柑橘類」といわれるだけあって非常に香り高い。いり豚はもっちり、玉ねぎはしゃっきり、ポテサラはしっとり。そして、新鮮なアジが入ったときしか出さないという生アジフライも絶品だ。

大の競馬好きで夫婦で競馬場に足を運ぶこともあるという。

そして、裕子さんの趣味は食べ歩き。最近感動したのは両国の「ふじ芳」という料理屋で食べたうずら鍋だそうだ。
「お肉はもちろん、お出汁も最高に美味しくて。水筒に入れて持ち帰りたかったぐらいです(笑)」

なお、食への執着がすごいという裕子さんは、占い師に「あなたには食神が3つ付いてる。これは相当珍しい」と言われた。
「高校時代は『Hanako』とかの特集に載っているお店に片っ端から行っていました。あ、ちょっと自慢していいですか? 私、素人蕎麦打ち検定の3段を持っているんです(笑)」



裕子さんが飲食店で働くのはここが初めて。
「大学時代に喫茶店の留守番バイトをしていましたが、お客さんはほとんど来ないし、あれはカウントできませんね」
接客業の経験もないし、立ち仕事だから大変だろうなと思っていたが、「慣れてくると平気でした。

「浅草は都会だけど、人が本当に温かい。あと、美味しいお店も多いです」

老舗食堂の名物ドリンクと名物料理、そして看板娘を堪能したところでお会計。読者へのメッセージもお願いします。

【取材協力】
水口食堂
住所:東京都台東区浅草2-4-9
電話番号:03-3844-2725
http://asakusa-mizuguch.main.jp
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石原たきび=取材・文