看板娘という名の愉悦 Vol.81
好きな酒を置いている。食事がことごとく美味しい。

雰囲気が良くて落ち着く。行きつけの飲み屋を決める理由はさまざま。しかし、なかには店で働く「看板娘」目当てに通い詰めるパターンもある。もともと、当連載は酒を通して人を探求するドキュメンタリー。店主のセンスも色濃く反映される「看板娘」は、探求対象としてピッタリかもしれない。

浅草といえば昼から飲めるホッピー通り。しかし、朝から飲める名店があることも覚えておきたい。

浅草の朝飲み食堂で、看板娘が勧める「へべすサワー」に酔ったの画像はこちら >>

浅草は演芸の街でもあり、若い芸人を育てようという気風で有名だ。例えば、ビートたけしも売れない頃は「捕鯨船」という居酒屋の大将にお世話になっていた。この店は自身が作詞作曲した「浅草キッド」という歌に登場する。

浅草六区には浅草にゆかりのある芸人の解説付きの看板がずらりと並ぶ。現在、ひとつだけ余白があるが、それはたけしの没後に彼が入る予定のスペースだ。

浅草の朝飲み食堂で、看板娘が勧める「へべすサワー」に酔った
芸人の街ならではの小粋な計らい。

このすぐ近くにあるのが「水口食堂」。平日は午前10時、土日祝は午前9時にオープンする。

浅草の朝飲み食堂で、看板娘が勧める「へべすサワー」に酔った
約70年前から地元の人々に愛される食堂。

食堂とはいえ、お酒目当てで訪れる客も多い。

浅草の朝飲み食堂で、看板娘が勧める「へべすサワー」に酔った
整然と並ぶ食品サンプル。

小さな男の子を連れたママが「今日の日替わり定食はハンバーグだよ」と言いながら入店していった。

浅草の朝飲み食堂で、看板娘が勧める「へべすサワー」に酔った
酒飲みにとっては「小サイズ」も選べるのがうれしい。

店内を一望して、まず驚くのが100種類以上あるフードメニュー。

浅草の朝飲み食堂で、看板娘が勧める「へべすサワー」に酔った
看板娘の姿も見えた。

さて、何を飲もうか。

浅草の朝飲み食堂で、看板娘が勧める「へべすサワー」に酔った
お酒もひと通り揃っている。

看板娘によれば、「8月から10月ぐらいの時期限定でお出ししている『へべすサワー』がおすすめですよ」。

浅草の朝飲み食堂で、看板娘が勧める「へべすサワー」に酔った
宮崎産のローカル蜜柑を使ったサワーだ。

いただきましょう。

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看板娘、登場

浅草の朝飲み食堂で、看板娘が勧める「へべすサワー」に酔った
「お待たせしました〜」

こちらは、裕子さん(44歳)。家電メーカーなどの勤務を経て、この食堂に嫁いできた。

「母が言うには、何事にも動じない子供だったと。私は覚えていないんですが、転校したての幼稚園の送迎バスの中で歌を披露したそうです(笑)」

浅草の朝飲み食堂で、看板娘が勧める「へべすサワー」に酔った
フードの看板メニューは「いり豚」(580円)。

生アジフライ(630円)とポテトサラダ(380円)も追加しよう。

浅草の朝飲み食堂で、看板娘が勧める「へべすサワー」に酔った
役者が揃った。

へべすは「幻の柑橘類」といわれるだけあって非常に香り高い。いり豚はもっちり、玉ねぎはしゃっきり、ポテサラはしっとり。そして、新鮮なアジが入ったときしか出さないという生アジフライも絶品だ。

浅草の朝飲み食堂で、看板娘が勧める「へべすサワー」に酔った
3代目のご主人は厨房で寡黙に魚を捌く。

大の競馬好きで夫婦で競馬場に足を運ぶこともあるという。

浅草の朝飲み食堂で、看板娘が勧める「へべすサワー」に酔った
大井競馬場のナイトレース。

そして、裕子さんの趣味は食べ歩き。最近感動したのは両国の「ふじ芳」という料理屋で食べたうずら鍋だそうだ。

「お肉はもちろん、お出汁も最高に美味しくて。水筒に入れて持ち帰りたかったぐらいです(笑)」

浅草の朝飲み食堂で、看板娘が勧める「へべすサワー」に酔った
最後は雑炊で〆る。

なお、食への執着がすごいという裕子さんは、占い師に「あなたには食神が3つ付いてる。これは相当珍しい」と言われた。

「高校時代は『Hanako』とかの特集に載っているお店に片っ端から行っていました。あ、ちょっと自慢していいですか? 私、素人蕎麦打ち検定の3段を持っているんです(笑)」

浅草の朝飲み食堂で、看板娘が勧める「へべすサワー」に酔った
衣装にも手を抜かない。

浅草の朝飲み食堂で、看板娘が勧める「へべすサワー」に酔った
本気の蕎麦切り包丁。

浅草の朝飲み食堂で、看板娘が勧める「へべすサワー」に酔った
特製のへべす蕎麦も美味だったという。

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裕子さんが飲食店で働くのはここが初めて。

「大学時代に喫茶店の留守番バイトをしていましたが、お客さんはほとんど来ないし、あれはカウントできませんね」

接客業の経験もないし、立ち仕事だから大変だろうなと思っていたが、「慣れてくると平気でした。

浅草だからか、個性的なお客さんと出会えるのも楽しい」と笑う。

浅草の朝飲み食堂で、看板娘が勧める「へべすサワー」に酔った
金沢土産の和風マトリョーシカのようなものを自作。

「浅草は都会だけど、人が本当に温かい。あと、美味しいお店も多いです」

浅草の朝飲み食堂で、看板娘が勧める「へべすサワー」に酔った
2階にはお座敷もある。

老舗食堂の名物ドリンクと名物料理、そして看板娘を堪能したところでお会計。読者へのメッセージもお願いします。

浅草の朝飲み食堂で、看板娘が勧める「へべすサワー」に酔った
土日祝は競馬が開催されるのでオープンが早い。

【取材協力】
水口食堂
住所:東京都台東区浅草2-4-9
電話番号:03-3844-2725
http://asakusa-mizuguch.main.jp

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石原たきび=取材・文

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